非常用の持ち出し袋を開けてみたら、ばんそうこうが数枚とマスクが1枚だけ、というご家庭は珍しくありません。買ったときは「とりあえず入れておこう」で足りたのに、いざ家族の人数で数え直そうとすると、何をいくつ入れればいいのか急に分からなくなる。救急用品は、品目のリストなら山ほど出てくるのに、数量の話になったとたん手がかりが消えるのです。
先に答えを書きます。公的機関が挙げている救急用品の品目は、機関によって書きぶりがまるで違い、しかも「いくつ」までは指定していません。だから現実的なやり方は、複数の公的機関が共通して挙げている品目を最低ラインに置き、そのうえで「世帯に1つでいいもの」と「人数分そろえるもの」を自分で仕分けることになります。救急用品はあくまで防災の備え全体の一部なので、袋そのものの組み立てから見直したい方は防災リュックの中身リスト|最低限の6つと、入れなくていい5つから先に読むと、全体像のなかでの位置づけがつかめます。
この記事が扱うのは、家庭に置いておく救急用品の「品目」と「数量の決め方」だけです。手当ての方法や薬の効き目には触れません。医学的な判断が必要な部分は、かかりつけ医・薬剤師、および消防庁の応急手当の案内に従ってください。
この記事でわかること
- 総務省消防庁・内閣府・東京消防庁・日本赤十字社の4機関が挙げる救急用品を並べた横断比較(粒度の違いつき)
- 救急箱の規格の有無は確認できていない、という前提での「最大公約数」の組み立て方
- 世帯に1つでいいものと、人数分そろえるものを分ける判定基準(編集部の整理)
- 年に1度の見直しで、実際に何を見ればいいのかという段取り
公的機関が挙げる救急用品は、機関によって粒度がまるで違う
救急用品とは、けがや体調不良が起きたときに手当てや服薬のために使う道具と薬をまとめたもので、防災の文脈では非常用持ち出し品の一区分として扱われるものです。ところが「その中身は何か」を公的機関の資料で確かめると、書かれている細かさが機関ごとにばらばらでした。まずは実物を並べます。
| 機関 | 挙げている品目 | 粒度 | 出典 | 確認日 |
|---|---|---|---|---|
| 総務省消防庁 | 救急箱/処方箋の控え/胃腸薬・便秘薬・持病の薬。注記として「救急箱には絆創膏・消毒液など。その他ビタミン剤など日頃使っているサプリメントなどもあるとよい」 | 区分+注記。箱の中身は例示にとどまる | 非常用持出品チェックシート(PDF) | 2026年8月26日確認時点 |
| 内閣府 | ばんそうこう、包帯、消毒液、常備薬 など | 4品目+「など」。ごく短い列挙 | 防災情報のページ/広報誌バックナンバー(2016年発行・特集3) | 2026年8月26日確認時点 |
| 東京消防庁 | 「救急セット」の語のみ。内訳の記載なし | 語のみ。中身は読者に委ねられている | 非常用品として備えておくもの | 2026年8月26日確認時点 |
| 日本赤十字社 | 救急絆創膏、弾力包帯、不織布ガーゼ、不織布マスク、毛抜 | 個別の品名まで具体的 | jrc.or.jp内のインタビュー記事(SAVE365 Magazine) | 2026年8月26日確認時点 |
並べると、同じ「救急用品」という言葉が指している範囲が機関ごとに違うことがはっきりします。東京消防庁は語だけを示し、内閣府は4品目を挙げ、消防庁は薬の区分まで踏み込み、日本赤十字社は「弾力包帯」「不織布ガーゼ」といった品名の水準まで書いている。つまり、どれか1つの公的リストを写すだけでは、抜けが出るということです。
出所について正直に書きます。日本赤十字社の品目は、同社が公開しているチェックリストのPDF本体からではなく、同じjrc.or.jpドメイン内で公開されているインタビュー記事の記載から採りました。チェックリストPDFは文字が読み取れない形式で公開されており、本文を確認できなかったためです(2026年8月26日確認時点)。公式チェックリスト本体の品目内訳は、当編集部では未確認です。
東京都の「東京防災」「東京くらし防災」については、ページがビューア形式で本文を取得できず、救急用品の品目内訳を確認できませんでした。確認できていないものは、この記事では引用していません。
救急箱の中身に規格は無い。だから最大公約数から組み立てる
最大公約数とは、複数の資料が共通して挙げている項目のことで、ここでは4機関のうち2つ以上が触れている品目を指します。この考え方をとる理由は単純で、家庭用の救急箱・救急セットに規格や業界基準があるのかどうかを、当編集部では確認できなかったからです(2026年8月26日確認時点)。規格が「無い」と断定はできません。ただ、探した範囲では見つけられませんでした。
上の表から重なりを拾うと、創傷手当て用品(ばんそうこう/絆創膏、包帯、ガーゼ、消毒液)、マスク、毛抜き、そして薬の区分(胃腸薬・便秘薬・持病の薬)と処方箋の控えが残ります。これに、複数の機関が名指ししてはいないものの手当てのまわりで実際に必要になる道具——ハサミ、ピンセット、体温計、使い捨て手袋——を足すと、家庭の救急箱としてひととおり形になります。
公的機関は「何を」までは示しますが、「いくつ」は示しません。数量は、公的な最大公約数を土台に、家族の人数と構成から自分で決めるしかない——これが本記事の結論です。
世帯で1つでいいものと、人数分いるものを分ける
数量の判定基準とは、その品目を「同時に何人が使うか」で仕分ける考え方のことです。ここから先は公的な数量指定が存在しないため、編集部の整理として提示します。公的機関の記載ではありませんので、ご自身の状況に合わせて調整してください。
分け方は、次の一点で決まります。道具として使い回せるものは世帯で1つ、体に直接あてがって使い切るものは人数分。ハサミは家族4人で1本を順に使えますが、ばんそうこうを1枚で4人分にすることはできません。当たり前のようでいて、この線引きを先に決めておくと、買い足すときに迷わなくなります。
- 世帯で1つでいいもの:ハサミ、ピンセット、毛抜き、体温計、包帯、テープ、消毒液(容器で持つもの)
- 人数分そろえるもの:ばんそうこう(1人あたり複数枚)、マスク、使い捨て手袋、ガーゼ
- 使う人の分だけ用意するもの:常備薬、持病の薬、処方箋の控え、お薬手帳
「人数分で数える」という考え方は、救急用品にかぎった話ではありません。同じ発想で必要数を計算する備蓄品の例としては、生理用品の備蓄|1周期30枚から逆算する必要数の計算式と人数別早見表・保管ルールが分かりやすいと思います。人数と使用頻度から積み上げる、という型は共通です。
なお、ここで整理しているのは家に置いておく救急用品です。通勤かばんに入れて毎日持ち歩く分は、重さの制約がまるで違うため別立てで考えたほうがうまくいきます。その基準は防災ポーチの中身|毎日持ち歩ける重さから逆算して決める12品と、入れない物の基準で扱っています。
家族構成で足すものは、かかりつけ医と薬剤師に相談して決める
上乗せとは、最大公約数の中身に対して、家族の年齢や体の状態に応じて追加する分のことです。乳幼児がいる家庭、高齢の家族がいる家庭、持病のある人がいる家庭では、標準的なリストのままでは足りません。
ただし、ここで具体的な薬の名前を挙げることは当サイトではしません。どの薬をどれだけ用意するかは、その人の体の状態と処方の内容によって変わる医学的な判断だからです。消防庁のチェックシートにも「持病の薬」「処方箋の控え」という区分が置かれています。何を、どれだけ持っておくかは、かかりつけ医または薬局の薬剤師に相談して決めてください。
市販の薬を新たに買い足す場合も、ふだん飲んでいる薬との関係は薬剤師に確認するのが確実です。この記事は品目と数量の段取りだけを扱っており、薬の選択について助言するものではありません。
年齢による違いで言えば、乳幼児と高齢者は体温計の種類や絆創膏のサイズがそもそも合わないことがあります。大人用の中身をそのまま人数分に増やすのではなく、「その人が実際に使えるサイズか」を一度手に取って確かめるほうが早い。ここは数を増やす話ではなく、種類を分ける話です。
お薬手帳は、紙でも電子でも持っておく
お薬手帳とは、処方された薬の名前や量、飲み方の記録を残しておく手帳のことで、紙のものと、スマートフォンで管理する電子版があります。公益社団法人日本薬剤師会は、東日本大震災の経験を踏まえて次のように記しています。
お薬手帳を持っていた患者さんには、すぐに処方することができました
出典:公益社団法人日本薬剤師会「eお薬手帳」(https://www.nichiyaku.or.jp/e-okusuri/e-okusuri-02.html ・2026年8月26日確認時点)
同じページでは、電子版について「災害・緊急時などお薬手帳を持っていない時でも、お薬の情報をスマートフォンに保存しておくことで、服薬中のお薬の情報を正確に知ることができ、万一の時も安心です」とも案内されています。紙と電子のどちらか一方を選ぶ、という書き方はされていません。救急箱には紙の手帳(またはその写し)を、スマートフォンには電子版を、と二重に持たせておくのが現実的でしょう。
では持病の薬そのものは何日分そなえればいいのか。この点は公的な日数指定を確認できておらず、また当サイトでは高齢者の防災の備え|持病の薬は何日分そなえるか、介護用品と食事の量の決め方が担当している領域です。本記事では深追いせず、そちらに譲ります。
手当てのまわりで要るものを、忘れずに入れておく
手当てのまわりで要るものとは、けがや体調不良そのものへの対応ではなく、その前後で必要になる衛生関連の道具を指します。断水していれば手が洗えませんし、使い終わったガーゼや手袋を置いておく場所もありません。品目リストからこぼれやすいのは、たいていこの2つです。
まず、体や手を拭くもの。アイリスオーヤマの「大判からだふき」は20枚入りで、1枚のサイズは64×40cmです(Amazonの商品ページ表示・2026年8月10日確認時点)。64×40cmというのは、バスタオルの半分ほど、A4用紙をおよそ4枚並べた広さにあたります。断水で洗えないときに体や手を拭く用途で、大きさがあると1枚で済ませやすいのが選ぶ理由です。20枚を1日1枚使うとして計算すると、1人なら3週間近く持つ枚数になります。
もう1つが、使い終わったものを捨てる袋です。クリロン化成の「BOS 臭わない袋」BOSストライプシリーズのLサイズは90枚入りで、使い終わったガーゼや使い捨て手袋をまとめて捨てる袋として救急箱の隣に置いておけます(出典:BOS公式 https://bos-bos.com/product/stripe/ ・2026年8月10日確認時点)。ごみの収集が止まる期間を考えると、捨て場所を決めておくことは救急用品の一部だと考えたほうがいい。
なお、避難所に移った場合の衛生用品は、家庭に置く救急箱とは考え方が変わります。持っていくものと現地で配られるものの切り分けは、避難所の感染症対策|自分で持っていく衛生用品と、公的ガイドラインが示す予防にまとめてあります。
年に1度の見直しは、外箱の表示を見るだけで足りる
見直しとは、そろえた救急用品が今も使える状態かを一定の周期で確認する作業のことです。難しく考える必要はなく、やることは3つに絞れます。
- 外箱の使用期限表示を確認する薬や衛生用品の外箱には使用期限が印字されています。まずはその表示を見て、期限が近いものを分けておきます。
- お薬手帳を最新にする処方が変わっていれば、救急箱に入れている控えも古くなっています。手帳の記録と控えを更新します。
- 点検日を決めて固定する「気づいたときに」では続きません。9月1日の防災の日など、毎年動かない日を点検日にします。
期限が切れていたものをどう扱うかについては、当サイトでは判断しません。使えるのか、処分すべきなのかは薬の種類によって異なる医学的な話です。かかりつけの薬局に相談してください。ここで書けるのは「表示を見る」というところまでです。
点検日を9月1日前後にそろえると、買い足しの時期とも重なります。防災用品が値下がりしやすい時期については防災の日セールで買うもの|8〜9月に安くなりやすい時期と備えの優先順位【2026年版】で扱っているので、点検と補充をまとめて片づけたい方はあわせてどうぞ。
この整理が当てはまらない場合
本記事の整理は、特別な医療上の事情がない一般的な家庭を想定した一般論です。次のような場合には、この記事の内容よりも主治医の指示が優先されます。
- 家族に持病があり、薬の中断が体調に直結する場合
- 特定の薬品や素材にアレルギーがある人がいる場合(ばんそうこうのテープや手袋の素材を含みます)
- 在宅酸素療法・在宅透析など、在宅医療を受けている家族がいる場合
- 乳幼児や要介護の家族がいて、必要な用品が個別に決まっている場合
これらに当てはまるご家庭では、必要なものの一覧そのものを主治医・訪問看護・ケアマネジャーと一緒に作るのが正しい順序です。汎用のリストで代用しないでください。
よくある質問
市販の救急セットを買えば、中身はそろっていますか
市販品の内容は製品によって異なります。家庭用の救急箱・救急セットに規格や業界基準があるかどうかは、当編集部では確認できていません(2026年8月26日確認時点)。買う場合も、この記事の横断比較表と照らして、足りない品目と人数分に増やすべき品目を自分で確かめるのが確実です。
薬は何を入れておけばいいですか
総務省消防庁のチェックシートには「胃腸薬・便秘薬・持病の薬」という区分と、ビタミン剤など日頃使っているサプリメントもあるとよい、という注記があります。ただし、どの薬をどれだけ用意するかは体の状態によって変わるため、かかりつけ医または薬剤師にご相談ください。当サイトから個別の薬をおすすめすることはしていません。
救急箱は家に1つあれば足りますか
公的な指定はありませんが、編集部の整理としては、道具類(ハサミ・ピンセット・毛抜き・体温計)は世帯で1組、ばんそうこうやマスク・使い捨て手袋は人数分、という分け方をおすすめします。持ち出し袋と自宅備蓄を分けている場合は、道具類が持ち出し袋側に偏っていないかを一度確認してみてください。
けがの手当ての方法も知りたいのですが
応急手当の方法は本記事の範囲外です。総務省消防庁や日本赤十字社が公開している応急手当の案内、あるいは医療機関の指示に従ってください。この記事が扱っているのは「何を・いくつ・どこで確認するか」という段取りだけです。
まとめ:今日やることは、手持ちを表に照らすだけ
救急用品は、公的機関が挙げる品目こそ共通していても、数量は誰も決めてくれません。決められないのではなく、家族の人数と構成が違う以上、決めようがないのだと思います。だからこそ、道具は世帯で1つ、体にあてがうものは人数分、という一本の線を自分の家に引いておく価値があります。
今日やることは1つです。手持ちの救急用品を出して、上の横断比較表と見比べる。それだけで、抜けている品目と、1個しかないのに人数分いるものが見つかります。
- 並べる救急箱と持ち出し袋の中身を全部出し、比較表の品目と突き合わせます。
- 仕分ける世帯で1つでいいものと、人数分そろえるものに分け、足りない数を書き出します。
- 日付を決める外箱の使用期限を確認し、次の点検日(9月1日など)をカレンダーに入れます。
救急用品は、防災の備え全体から見れば一区画にすぎません。袋そのものの中身をゼロから組み立て直したい方は、防災リュックの中身リストの記事もあわせてご覧ください。
持ち出す側の中身は担当が別です。最低限そろえる6つを整理した防災リュックの中身リスト|最低限の6つと、入れなくていい5つもあわせてどうぞ。
参考・出典
- 総務省消防庁「非常用持出品チェックシート」(PDF)https://www.fdma.go.jp/relocation/bousai_manual/too/pdf/mocidashi.pdf ・2026年8月26日確認
- 内閣府 防災情報のページ 広報誌バックナンバー(2016年発行・特集3)https://www.bousai.go.jp/kohou/kouhoubousai/h28/83/special_03.html ・2026年8月26日確認
- 東京消防庁「非常用品として備えておくもの」https://www.tfd.metro.tokyo.lg.jp/lfe/bou_topic/jisin/sonae-sub.htm ・2026年8月26日確認
- 日本赤十字社 SAVE365 Magazine(jrc.or.jp内のインタビュー記事)https://www.jrc.or.jp/lp/save365/magazine/anan08/ ・2026年8月26日確認
- 公益社団法人日本薬剤師会「eお薬手帳」https://www.nichiyaku.or.jp/e-okusuri/e-okusuri-02.html ・2026年8月26日確認
- BOS公式サイト(クリロン化成)BOSストライプシリーズ https://bos-bos.com/product/stripe/ ・2026年8月10日確認
