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高齢者のいる家の備えで、最初に決めるのは水でも食料でもありません。持病の薬を何日分、手元に置いておくかです。結論から言うと、この記事では3日分を最低ライン、7日分を目標として整理します。
ただし、この日数の扱いには正直に書いておきたいことがあります。今回あたった範囲で、個人の持病の薬について「何日分」と定めた公的な基準は見つかりませんでした。確度の高い数値として確認できたのは、厚生労働省「介護施設・事業所における自然災害発生時の業務継続ガイドライン」が物資について示す「最低3日分、可能であれば1週間分」という一般原則のほうです。個人向けの数字ではないので、そのまま基準と呼ぶことはできません。この記事の「3日/7日」は、その一般原則を家庭に置き換えた目安として読んでください。
そのうえで、高齢者のいる家の備えが一般の備蓄リストと違うのは、たった3か所です。①持病の薬、②介護用品と食事の形、③情報の受け取り方。水・食料・明かりといった土台の部分は、家族の年齢に関係なく同じでいいのです。土台のほうがまだ固まっていない場合は、家庭の備蓄品リスト完全版(人数×日数の早見表つき)で先に全体像をつかんでから、この記事の+αを足すと重複がありません。
この記事でわかること
- 持病の薬を何日分そなえるか、その日数の根拠がどこまで公的なものか
- 災害時に処方箋なしで薬を受け取れる制度の「恒久ルール+災害ごとの案内」という二層構造
- 大人用おむつ・介護食・口腔ケア用品を「1日に使う数×日数」で決める早見表
- 避難行動要支援者名簿・個別避難計画・福祉避難所という、自助では届かない部分の受け皿
高齢者のいる家の備えが「一般の備蓄+α」になる理由
ここでいう+αとは、水・食料・明かりという全世帯共通の備蓄に上乗せする「薬・介護用品・情報の受け取り方」の3項目のことです。なぜこの3つなのか、公的な集計をふたつだけ見ておきます。
ひとつは、震災関連死の年齢構成です。震災関連死とは、復興庁・内閣府(防災担当)・消防庁の定義では「東日本大震災による負傷の悪化又は避難生活等における身体的負担による疾病により死亡し、災害弔慰金の支給等に関する法律に基づき災害が原因で死亡したものと認められたもの」を指します。つまり、建物の下敷きになった直接の被害ではなく、そのあとの生活のなかで起きた死のことです。
| 年齢区分 | 人数 | 割合 |
|---|---|---|
| 20歳以下 | 10人 | 0.3% |
| 21〜65歳 | 429人 | 11.3% |
| 66歳以上 | 3,371人 | 88.5% |
| 合計 | 3,810人 | 100% |
(東日本大震災の震災関連死/令和7年12月31日現在の調査結果、令和8年2月13日公表。割合は原本の実数から算出)
3,810人のうち3,371人。10人のうち9人近くが66歳以上、という比率です。ただし、これはあくまで東日本大震災という一つの災害の集計値です。次に起きる災害で同じ割合になるという意味ではありませんし、「高齢者は必ずこうなる」と読み替えてよい数字でもありません。この表から取り出せるのは「避難生活そのものが身体の負担になった人がいた」という事実だけで、そこから逆算して備えるものを決める、という使い方になります。
もうひとつは、家の中でのけがです。東京消防庁「家具類の転倒・落下・移動防止対策ハンドブック」は、近年発生した地震でけがをした原因のうち約30〜50%が家具類の転倒・落下・移動によるものだったと記載しています。これも地震ごとの値の幅で、内訳は熊本地震(2016年)の一般住宅で29.2%、同じ地震の高層マンションで40.0%、岩手・宮城内陸地震(2008年)で44.6%といった具合。地震が変われば数字も変わります。
この2つに共通するのは、けがや体調の変化が「揺れそのもの」ではなく、その前後の環境で起きているという点です。だから+αは、防災グッズを増やす話ではなく、ふだんの生活を途切れさせないための話になります。
持病の薬は「3日分を最低ライン、7日分を目標」に置く
常備薬の備えとは、飲む薬そのものを増やすことではなく、薬の情報と現物を、家の外に持ち出せる形にしておくことです。順番を間違えると、いちばん大事なところが抜けます。
朝の薬を飲むために、いつも同じ引き出しを開ける。その引き出しの中身を、そのまま持って家を出られるでしょうか。想像してみてください。多くの家庭では、薬は1か所にまとまっていても、その薬が何という名前で、1日に何回・何錠なのかを説明できる紙は、別の場所にあります。避難先で困るのは前者ではなく後者のほうです。
お薬手帳は「持ち出す」ではなく「分けて置く」
お薬手帳の役割は、処方の記録を1冊にまとめることにあります。災害時には、これがそのまま「本人の薬の説明書」になります。ただし1冊しかない紙を持ち出す前提にすると、置いてきた瞬間に情報がゼロになってしまう。だから、備えとしては中身を写真に撮り、本人の端末と同居家族の端末の2か所に置くところまでをセットにします。
電子版という選択肢もあります。厚生労働省は令和5年3月31日付け「電子版お薬手帳ガイドラインについて」(薬生総発0331第1号)で、医療DX・マイナポータル連携を踏まえた電子版お薬手帳サービスの機能要件を定め、サービス提供事業者には令和6年3月31日までの対応が求められました。紙と電子版のどちらが優れているという話ではなく、停電やスマートフォンの充電切れを考えると、片方だけにしないことが備えになります。

薬の情報シート(そのまま書き写せる型)
お薬手帳が手元にない場面を考えると、A4の紙1枚に次の項目を書いておくのがいちばん早い方法です。編集部で項目を整理した記入用の型を置いておきます。コピーして、家族の人数分つくってください。
| 書く項目 | 記入例 | なぜ災害時に要るか | 記入欄 |
|---|---|---|---|
| 本人の氏名・生年月日 | そなえ 太郎/1948年◯月◯日 | 本人確認と、年齢による判断の目安になる | ______ |
| 薬の名前(商品名) | ◯◯錠 5mg | 手元の薬と照合できる | ______ |
| 一般名(ジェネリック名) | ◯◯(成分名) | 同じ商品名の在庫がなくても話が通じる | ______ |
| 1日の回数と量 | 朝夕2回・1回1錠 | 残数から「あと何日分か」を計算できる | ______ |
| 処方元の医療機関名・電話 | ◯◯内科/000-000-0000 | 連絡が取れれば手続きが早い | ______ |
| いつもの薬局名・電話 | ◯◯薬局/000-000-0000 | 調剤の記録が残っている | ______ |
| 最後に受け取った日/次の受診日 | 2026年◯月◯日/◯月◯日 | 残り日数の起点になる | ______ |
一般名の欄を入れているのには理由があります。避難先の薬局に同じ商品名の在庫があるとは限らないため、成分の名前まで書いてあるほうが会話が早く進むからです。手帳に印字されていることが多いので、写すだけで済みます。
災害時に処方箋なしで薬を受け取れる制度は、二層でできている
「災害のときは処方箋がなくても薬をもらえる」という話を聞いたことがあるかもしれません。これは半分正しく、半分は誤解を生みます。制度は恒久的なルールと、災害ごとに出される案内の二層になっているからです。
| 層 | 内容 | いつから/誰が | 性質 |
|---|---|---|---|
| 層1:法令解釈(恒久) | 薬機法第49条第1項の「正当な理由」の一類型として、大規模災害時等に医師等の受診が困難な場合、または処方箋の交付が困難な場合に、必要な処方箋医薬品を販売できると規定 | 平成26年3月18日付け薬食発0318第4号(厚生労働省医薬食品局長)/改正法施行日の平成26年6月12日から適用 | 廃止されておらず、現在も有効な標準規定 |
| 層2:災害ごとの個別運用 | 仮設薬局の設置、麻薬・向精神薬の交付の取扱いなどを、その災害に合わせて事務連絡で示す。保険調剤としての取扱いも同様に災害ごとに発出される | 例:令和6年能登半島地震について、令和6年1月2日付け事務連絡(厚生労働省) | 事務連絡に「被災地の医薬品等を確保するための一時的なもの」と明記 |
「薬局に行けば必ずもらえる」という制度ではありません。層1はあくまで「大規模災害時等」に限った法令解釈で、実際に自分の地域で使えるかどうかは、災害救助法の適用状況や、その災害について国から案内が出ているかに左右されます。制度があることを知っておくのと、当てにして備えを減らすのは別の話です。
介護用品と食事は「1日に使う数×日数」で量を決める
介護用品の備蓄量とは、品目ごとに決まった正解の枚数があるものではなく、その家がふだん1日に使っている数を数えて、日数を掛けた結果のことです。ここが一般の備蓄リストといちばん違います。
1日に使う数 × 3日 = 最低ライン/1日に使う数 × 7日 = 目標
掛け算の右側(日数)の根拠は、先ほどの厚生労働省ガイドラインが物資について示す「最低3日分、可能であれば1週間分」という一般原則です。なお同ガイドラインの中に、大人用おむつやとろみ剤に限定した個別の日数基準は書かれていません。品目ごとの数字を探しても出てこないので、日数は共通にして、左側(1日に使う数)だけを家ごとに変える——この形がいちばん破綻しません。

人数×日数の早見表
1日に使う数がまだ数えられていない家庭のために、数え方の起点を含めた早見表を編集部で組みました。数字は各家庭で置き換えてください。
| 品目 | 1日に使う数の数え方 | 最低ライン(×3日) | 目標(×7日) | 1人増えたら |
|---|---|---|---|---|
| 持病の薬 | 1日の服用回数×1回の錠数 | 3日分 | 7日分 | その人の処方で別に数える |
| 大人用おむつ・パッド | ふだん交換している枚数 | 枚数×3 | 枚数×7 | 使う人の数だけ加算 |
| 防臭袋 | おむつの交換枚数と同じ | 枚数×3 | 枚数×7 | 同上 |
| 口腔ケア用品(歯みがきシート等) | 1日の口腔ケア回数 | 回数×3 | 回数×7 | 使う人の数だけ加算 |
| 介護食・主食 | 1日の食事回数 | 回数×3 | 回数×7 | 食べる人の数だけ加算 |
| とろみ剤 | 1食あたりの使用回数×食事回数 | 回数×3 | 回数×7 | 使う人の数だけ加算 |
| 清拭用のからだふき | 1日に使う枚数 | 枚数×3 | 枚数×7 | 人数分を加算 |
この表の使い方には、ひとつコツがあります。「必要そうな数」を想像で決めないことです。今日から3日間、おむつの交換枚数を紙に正の字で書いてみると、頭の中の数字とだいたい合いません。実測した1日ぶんが決まれば、あとは掛け算です。
UDF区分は「かたさと粘度」の分類であって、効果の表示ではない
介護食を選ぶときによく見るのが「ユニバーサルデザインフード(UDF)」のマークです。制定しているのは一般社団法人 日本介護食品協議会(2002年4月設立)で、次の4区分をかたさ・粘度の物性規格として定めています。
| 区分 | 目安 | かたさの上限 |
|---|---|---|
| 区分1 | 容易にかめる | 5×10⁵ N/㎡以下 |
| 区分2 | 歯ぐきでつぶせる | 5×10⁴ N/㎡以下 |
| 区分3 | 舌でつぶせる | ゾル1×10⁴/ゲル2×10⁴ N/㎡以下(粘度1500 mPa·s以上) |
| 区分4 | かまなくてよい | ゾル3×10³/ゲル5×10³ N/㎡以下(粘度1500 mPa·s以上) |
この区分は食品の物性(かたさ・粘度)を分類したものであり、健康上の効果や安全性を保証する表示ではありません。どの区分が合うかは、ふだんの食事の様子を見ている主治医・歯科医師・管理栄養士・ケアマネジャーに相談して決めてください。
ふだんの主食から、備蓄の主食へつなぐ
備蓄の主食を選ぶとき、いきなり非常食から入るとふだんの食事と段差ができます。パックご飯のように日常の延長にあるものを何個持つかは、パックご飯は何個備蓄?人数別の早見表で人数別に整理しているので、そちらを土台にしてください。そのうえで、水やお湯の量で状態を調整しやすいタイプを足していく、という順番になります。
その一例が、永谷園の「フリーズドライご飯 4種20食」です。公表されている表示は4種類・20食のセット。20食という数は、先ほどの掛け算に当てはめると「1日3食で7日分(21食)」にほぼ届く単位で、1人ぶんの目標日数をひとまとめで埋められます。味の種類が分かれているので、7日間で飽きが来にくいという点も、同じものを20個買うのとの違いです。戻し方や必要な湯量は商品ごとに違うため、公式サイトで最新の表示を確認してください。
主食が決まったら、次はおかず側です。カゴメの「野菜たっぷりスープ SO-50」は、公表の内容量表示が2560gのセット。2560gは約2.6kg、2Lのペットボトル1本より少し重いくらいの量です。スープ類は主食と組み合わせやすく、常温のままでも食べ進められる形なので、加熱手段が限られる場面での選択肢が1つ増えます。スープの種類・1袋あたりの量は公式サイトの商品ページで確認してください。
もう1つ、置き場所を取らない枠として井村屋の「えいようかん」があります。公表表示は1箱300g(60g×5本)で、4箱20本のセット。1本ずつの個包装なので、持ち出し袋・寝室・車と分散して置けるのが備蓄向きなところです。「1日1本を7日」と決めれば、20本は2人ぶんの目標日数(14本)より6本多い数になります。
衛生用品は「使い終わったあと」まで数える
断水した状態で困るのは、体をふくもの以上に、使い終わったものの行き場です。ここを数え忘れると、備えたおむつの枚数だけが宙に浮きます。
体をふく側では、アイリスオーヤマの「大判からだふき 20枚 KRD-20」があります(ブランド・型番はAmazon商品ページの表示、2026年8月10日確認)。20枚という枚数は、早見表の「1日に使う枚数×日数」にそのまま当てはめられる単位です。1日3枚使う家なら1袋で約7日分、2人なら3日強、という換算になります。
使い終わったあとの側は、クリロン化成の「BOSストライプ L 90枚」です。公表表示は90枚入り。おむつの交換枚数と同じ数を用意するのが早見表の考え方なので、1日5枚交換する家なら90枚は18日ぶんに相当します。3日分・7日分という目標に対しては十分な余白があり、むしろ「1袋あれば当面は足りる」と分かることのほうが計画上は大きい。
口の中のケアについては、歯みがきができない状況での道具の選び方と交換の頻度を避難時の口腔ケア(歯みがきができないときに使うものと、交換頻度の目安)にまとめています。入れ歯の洗浄剤や保管容器のように、本人以外は代わりを用意できないものが多い分野なので、早見表の「口腔ケア用品」の行はそちらと合わせて埋めてください。
家の中の安全は、寝室と出口までの動線から決める
家具の固定とは、すべての家具を留める作業ではなく、倒れたときに逃げ道をふさぐ家具から順に留めていく作業のことです。数に上限があるなら、寝室と、寝室から玄関までの通り道が先になります。
東京消防庁のハンドブックには、地震ごとの負傷原因の割合が並んでいます。
| 地震 | 年 | 家具類の転倒・落下・移動による負傷の割合 |
|---|---|---|
| 福岡県西方沖地震 | 2005年 | 41.2% |
| 能登半島地震 | 2007年 | 36.0% |
| 新潟県中越沖地震 | 2007年 | 40.7% |
| 岩手・宮城内陸地震 | 2008年 | 44.6% |
| 熊本地震(一般住宅) | 2016年 | 29.2% |
| 熊本地震(高層マンション) | 2016年 | 40.0% |
並べてみると、地震ごとに10ポイント以上ばらついています。これは「次も4割前後になる」という予測ではなく、過去に起きたことの記録です。それでも一貫しているのは、住まいの中でけがをした人が一定の割合でいた、という事実のほう。
階層による差も出ています。東日本大震災のときに東京消防庁が都内で行ったアンケートでは、家具類の転倒・落下・移動が起きた割合は1・2階で16.8%(N=214)、11階以上で47.2%(N=36)。低層の約2.8倍です。マンションの高い階に住んでいる場合、同じ家具でも揺れ方が変わると考えたほうがつじつまが合います。
夜中に停電して、廊下の先が見えない。杖はいつもの場所にあるはずだけれど、その手前に本棚が倒れている——という場面を想像してみてください。高齢の家族がいる家で家具固定を後回しにできないのは、倒れた家具をまたぐ・押しのけるという動作の負担が大きいからです。
- 寝ている人の頭・上半身の側に、倒れてくる高さの家具を置かない
- 寝室のドアから玄関までの通り道に、移動する家具・キャスター付きの家具を置かない
- 枕元に、スリッパ(靴)・明かり・メガネ・杖を毎晩そろえて置く
- 11階以上に住んでいる場合は、下の階と同じ固定でよいか一度見直す
枕元のメガネは、忘れられがちな割に代わりが利かないものです。予備をどこに置くか、断水時に何が起きるかは災害時のメガネとコンタクトの備え(予備の置き場所と、断水時に困ること)で扱っています。
固定の道具としては、アイリスオーヤマの「家具転倒防止伸縮棒 S KTB-30」が入手しやすい選択肢です(ブランド・型番はAmazon商品ページの表示、2026年8月10日確認)。つっぱり棒タイプは工具で壁に穴を開けずに設置できるため、賃貸や、これから設置場所を増やしたい家庭でも始めやすい。表示は「S」サイズなので、取り付ける家具の上端から天井までの高さに合うかどうかを、商品ページの適合範囲で先に確認してください。
明かりのほうは、手に持つ懐中電灯より、置いて周囲を照らせるランタン型が介助のある家庭に向きます。両手が空くからです。パナソニックの「BF-BL45M-W 多機能強力ランタン」は公表質量が520g。500mlのペットボトル1本ぶんとほぼ同じ重さで、床や台に置いたときの安定感が出る重量帯です。点灯時間や使用する電池の種類は公式サイトの仕様表で確認してください。
情報を受け取る手段と、避難のしかたを先に決めておく
災害情報の受け取りとは、1つの手段を選ぶことではなく、届き方の違う手段を重ねることです。総務省消防庁「災害情報伝達手段の整備等に関する手引き」(令和6年3月)は、防災行政無線や緊急速報メールのようなPUSH型と、ホームページやSNSのようなPULL型を組み合わせた「多重化」を市町村に求めています。
同じ手引きでは、緊急速報メールが届くスマートフォン等を保有していない世帯——高齢者世帯などが想定されています——に向けて、屋内に設置する戸別受信機等の配備を「極めて有効な情報伝達手段」として市町村に推奨しています。戸別受信機は自治体が配る仕組みなので、まず住んでいる市町村の防災担当窓口に、配布の対象と申し込み方法を確認するのが最短の手順です。
電池と手回しの両方で動く機器も、手段の重ね方としては有効です。クマザキエイムの「手回し充電ラジオライト SL-091」は、商品名のとおり手回し充電とラジオ、ライトが1台にまとまった機器。停電が長引いたときに、充電が要らない情報源が1つあるだけで、スマートフォンの残量の使いどころが変わります。受信できる放送帯や充電方式は公式サイトの仕様で確認してください。
自助では届かない部分を受け止める3つの制度
自分で避難することが難しい人については、市町村側に仕組みがあります。名前と根拠を知っているだけで、窓口での話が早く進みます。
- 避難行動要支援者名簿災害対策基本法第49条の10により、市町村長に作成が義務付けられている名簿です(平成25年の同法改正で導入)。対象は「災害が発生し、又は発生するおそれがある場合に自ら避難することが困難な者であって、その円滑かつ迅速な避難の確保を図るため特に支援を要する者」と定義されています。
- 個別避難計画同法第49条の14として、令和3年法律第30号(令和3年5月20日施行)で新設されました。避難行動要支援者ごとに、誰がどう支援するかを決めておく計画で、作成は市町村の努力義務です。
- 福祉避難所内閣府「福祉避難所の確保・運営ガイドライン」は平成28年4月に策定され、令和3年5月に改定されました。この改定で、受け入れる対象者をあらかじめ特定して公示する制度が創設され、個別避難計画等と組み合わせて福祉避難所へ直接避難できる仕組みが導入されています。
3つは別々の制度に見えて、実は一本につながっています。名簿に載る → 個別避難計画がつくられる → 計画の中で福祉避難所への直接避難が位置づけられる、という流れです。逆に言えば、名簿への登録が済んでいないと、あとの2つが動き出しません。手続きの入口はいずれも市町村の防災・福祉の窓口です。
避難所で過ごす時間そのものへの備え
厚生労働省は熊本地震の関連情報として「避難生活を送られている皆様へ」を公表し、エコノミークラス症候群について、軽い体操やストレッチ、こまめな水分摂取、アルコールを控えること、ゆったりした服装、かかとの上げ下ろし運動、就寝時に足を上げること、という6項目を呼びかけています。ここで書けるのは「国がこう呼びかけている」という事実までで、これで防げると断定することはできません。
水分について、正直に書いておきます。高齢者に限定した1日の水分量の公的な数値は、今回あたった範囲では見つかりませんでした。確認できたのは厚生労働省「健康のため水を飲もう」推進運動の成人一般向けの目安で、1日に失われる水分が約2.5L、食事と代謝水で約1.3Lを賄うため、飲料水として意識して摂る量の目安が約1.2L(コップ6〜8杯、500mlのペットボトル3本ぶん)というもの。高齢者向けの数字ではありませんし、エコノミークラス症候群に特化した数値でもありません。持病や服用中の薬によって水分の摂り方に注意が要る場合もあるため、量の判断は主治医に確認してください。
寝る環境そのものについては、段ボールベッドが実際に届くのか、自前で持つマットをどう選ぶかを避難所で寝る準備(段ボールベッドは届くのか、自前で持つマットの選び方)で整理しています。床に直接寝る時間を短くする話は、この6項目のうち体を動かす部分と地続きです。
この記事の内容が当てはまらないケース
ここまでは「同居している高齢者がいる家庭」と「高齢者本人」を前提に書いてきました。次の場合は、前提が変わるので当てはめないでください。
- 施設に入居している場合:物資の備蓄も避難の判断も、施設の業務継続計画(BCP)の側にあります。家族がやるのは、備蓄を用意することではなく、施設の災害時の連絡方法・引き渡しの手順を確認しておくことです。
- ひとり暮らしで、支援がないと避難できない場合:自助の備蓄だけでは完結しません。先に避難行動要支援者名簿への登録と個別避難計画の相談を、市町村の窓口で進めてください。順番が逆になると、備蓄だけが増えます。
- 電源が必要な在宅医療機器を使っている場合:停電時の対応は機器と処方の内容ごとに違います。備蓄品の話ではなく、主治医・訪問看護・機器の提供事業者・電力会社への事前連絡の話になります。
- 親と離れて暮らしている場合:この記事の「1日に使う数を数える」が成立しません。帰省したときに何を点検し、何を送るかという別の設計が要るので、離れて暮らす親の家の防災(帰省時に30分でできる点検と、送って喜ばれるもの)を参照してください。
自分で判断しないほうがいいことは、主治医と自治体に預ける
備えを整えると、判断まで自分でできそうな気分になります。ここだけは分けておきたいところです。
薬を減らす・中断する・別の薬で代える、といった判断は、必ず主治医または薬剤師に相談してください。持病そのものの見立ても同じです。そして避難するかどうか・いつ動くかの判断は、市町村が出す避難情報と指示に従ってください。この記事が扱っているのは、判断ではなく、判断の前に済ませておける準備の部分だけです。
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よくある質問
この記事に寄せられやすい疑問を、公的資料で答えられる範囲に絞って整理しました。
Q. 持病の薬は何日分そなえればいいですか。
個人の常備薬について「何日分」と定めた公的な基準は、2026年8月18日時点で確認できていません。確度の高い数値として存在するのは、厚生労働省の介護施設向けガイドラインが物資について示す「最低3日分、可能であれば1週間分」という一般原則です。この記事はそれを家庭に置き換えて、3日分を最低ライン、7日分を目標としています。実際に何日分を手元に置けるかは処方の内容によって変わるため、次の受診のときに主治医・薬剤師へ相談してください。
Q. お薬手帳は紙と電子版のどちらがいいですか。
どちらか一方に決める必要はありません。電子版については、厚生労働省が令和5年3月31日付けでガイドラインを示し、サービス提供事業者に令和6年3月31日までの対応を求めています。一方で、停電や充電切れの場面では紙が強い。備えとしては、紙の手帳の中身を写真に撮って端末2台に置く、という重ね方が現実的です。
Q. 災害のとき、処方箋がなくても薬を受け取れますか。
制度としては、薬機法第49条第1項の「正当な理由」の一類型に「大規模災害時等において、医師等の受診が困難な場合、又は医師等からの処方箋の交付が困難な場合」が含まれており、これは平成26年から続く恒久的な規定です。ただし、実際に自分の地域で適用されるかは、災害救助法の適用状況や、その災害について国から事務連絡が出ているかによります。「いつでも必ず受け取れる」制度ではないので、手元の備えを減らす前提にはしないでください。
Q. 大人用おむつは何枚そなえればいいですか。
公的な枚数基準は確認できていません。厚生労働省のガイドラインは、おむつを含む衛生用品をまとめて「最低3日分、可能であれば1週間分」としており、品目別の枚数は示していません。そのため、ふだんの交換枚数を3日間実測して、×3と×7を計算するのが確実です。防臭袋も同じ枚数で数えます。
Q. 高齢者は1日どれくらい水を飲めばいいですか。
高齢者に限定した公的な数値は、今回の調査では見つかりませんでした。厚生労働省「健康のため水を飲もう」推進運動が示すのは成人一般向けの目安で、飲料水として約1.2L(コップ6〜8杯)です。持病や服用中の薬によって水分の摂り方に注意が必要な場合があるため、個別の量は主治医に確認してください。
Q. 介護食のUDF区分は、どれを選べばいいですか。
UDF区分は日本介護食品協議会が定めた、かたさ・粘度による食品の物性規格です。区分1「容易にかめる」から区分4「かまなくてよい」まで4段階ありますが、これは食品の性質の分類であって、どの区分がその人に合うかを示すものではありません。ふだんの食事の様子を見ている主治医・歯科医師・管理栄養士・ケアマネジャーに相談して選んでください。
まとめ:今日やることは1つ
高齢者のいる家の備えは、一般の備蓄に「薬・介護用品・情報の受け取り方」の3つを足したものです。そして足す量は、掛け算ひとつで決まります。1日に使う数×3日で最低ライン、×7日で目標。
今日やることは1つだけ。お薬手帳を開いて、写真を撮ることです。家族の端末にも送っておけば、今日のうちに終わります。
- お薬手帳を撮る最新のページを撮影し、本人の端末と同居家族の端末の2か所に保存する。ここまでが今日ぶん。
- 3日間だけ数えるおむつ・口腔ケア・食事の回数を紙に書き出し、1日に使う数を確定させる。想像で決めない。
- 掛け算して足りない分を埋める×3と×7を計算し、まず×3まで買い足す。同じ週に、市町村の窓口へ避難行動要支援者名簿の登録を問い合わせる。
掛け算の土台になる家庭全体の備蓄量は家庭の備蓄品リスト完全版|人数×日数の早見表つきに、主食の個数の決め方はパックご飯は何個備蓄?人数別の早見表にまとめています。
参考・出典
- 厚生労働省「薬局医薬品の取扱いについて」(平成26年3月18日付け薬食発0318第4号)
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11120000-Iyakushokuhinkyoku/yakkyoku.pdf(2026年8月18日確認) - 厚生労働省 事務連絡(令和6年1月2日/令和6年能登半島地震に伴う医薬品等の取扱い)
https://www.mhlw.go.jp/content/001214372.pdf(2026年8月18日確認) - 厚生労働省「電子版お薬手帳」(電子版お薬手帳ガイドラインについて/令和5年3月31日付け薬生総発0331第1号)
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/e-okusuritecho.html(2026年8月18日確認) - 厚生労働省「介護施設・事業所における自然災害発生時の業務継続ガイドライン」
https://www.mhlw.go.jp/content/000749543.pdf(2026年8月18日確認) - 厚生労働省「避難生活を送られている皆様へ」(平成28年熊本地震関連情報)
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000122342.html(2026年8月18日確認) - 厚生労働省「健康のため水を飲もう」推進運動
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10900000-Kenkoukyoku/0000087038.pdf(2026年8月18日確認/画像PDFのため数値は自治体転載ページと併せて確認) - 内閣府(防災担当)「避難行動要支援者の避難行動支援に関すること」
https://www.bousai.go.jp/taisaku/hisaisyagyousei/yoshiensha.html(2026年8月18日確認) - 内閣府(防災担当)「福祉避難所の確保・運営ガイドラインの改定(令和3年5月)」
https://www.bousai.go.jp/taisaku/hinanjo/r3_guideline.html(2026年8月18日確認) - 復興庁・内閣府(防災担当)・消防庁「東日本大震災における震災関連死の死者数(令和7年12月31日現在調査結果)」(令和8年2月13日公表)
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https://www.fdma.go.jp/mission/prepare/transmission/items/240327_honpen.pdf(2026年8月18日確認)
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