避難生活の口腔ケア|歯みがきができない日に使うものと、備える量の目安

避難所で歯みがきをしたい。でも水は貴重で、蛇口はひねれない。そんな日にまず用意するのは、水そのものではなくコップ2個です。公益社団法人日本歯科医師会が公開している非常時の口腔健康管理ポスターには、水量の異なるコップを2つ使い分ける手順が示されています(2026年8月13日確認時点)。少ないほうの水で歯ブラシを濡らして磨き、多いほうの水で最後にすすぐ。これだけで、限られた水のまま歯みがきが成立します。

歯ブラシそのものが無い場合も、同じ資料に道はあります。食後に少量の水やお茶でうがいをし、タオルやハンカチ、ティッシュで歯の表面を擦って汚れを取る。水すら無いときは、シュガーレスガムやキシリトールガムを噛んで唾液を出し、その唾液で口をすすぐという方法が案内されています。

もうひとつ、この記事で正直に書いておきたいことがあります。「うがい1回に何ミリリットルの水が必要か」という公的な目安は、日本歯科医師会・厚生労働省・内閣府の一次資料を確認した範囲では見つかりませんでした。数字を作って埋めることはしません。代わりに、水の量ではなくケアの回数から備蓄量を積む考え方をお見せします。

この記事でわかること

  • 水が少ないときの歯みがき手順「コップ2個法」(日本歯科医師会の公式ポスターより)
  • 歯ブラシが無い/水も無いときに、代わりに使えるもの
  • うがい1回あたりの水量に公的な目安は無い、という事実と、その前提での積算方法
  • 人数×日数で「何回分」を用意すればよいかの早見表(当サイト作成)

口腔ケア用品は、備蓄全体のなかでは小さな一項目です。水・食料・トイレまで含めた全体像は家庭の備蓄品リスト完全版で整理しているので、量のバランスを取りたいときはそちらを土台にしてください。

目次

水が少ないときの歯みがきは、コップ2個法で成立する

コップ2個法とは、水量の異なる2つのコップを用意し、歯ブラシを濡らす水と最後にすすぐ水を分けて使う歯みがきの方法である——日本歯科医師会のポスターが示している手順を一言でまとめると、こうなります。

コップ2個法の手順。水の量が異なるコップを2つ並べ、少ないほうで歯ブラシを濡らして磨き、汚れたら水で洗わずティッシュで拭い、繰り返したあと、もう1つのコップで2回以上すすぐという5段階の対応表
  1. コップを2つ用意する水の量が異なる2つのコップを並べます。片方は少なめ、もう片方はすすぎ用です。
  2. 少ない水で歯ブラシを濡らす水量の少ないほうのコップに歯ブラシを入れて濡らし、そのまま磨きはじめます。
  3. 汚れたらティッシュで拭き取る歯ブラシに汚れがついたら、水で洗わずにティッシュで拭います。ここが節水の要です。
  4. 濡らす→磨く→拭くを繰り返す少ない水のコップを使い回しながら、口の中全体を磨き終えます。
  5. もう1つのコップで少なくとも2回すすぐ最後にすすぎ用のコップの水で、少なくとも2回すすぎます。

出典: 公益社団法人日本歯科医師会「非常時の口腔健康管理(水がある場合)」ポスター(2026年8月13日に原文を確認)

すすぎ方にもコツが示されています。日本歯科医師会は「一度に多くの水を含んで吐き出して終わるよりも、少量ずつ水を口に含んで吐き出すことを繰り返した方が効果的で、より口の中の汚れを薄める効果が強くなる」と説明しています。一口で終わらせず、小さく分けて何度か。これは同じ量の水でも変えられる部分です。

普段の歯みがきは、水道を出しっぱなしにするか、コップ1杯で済ませるかの二択で考えがちですよね。コップ2個法はその発想そのものが違います。蛇口をひねる動作が一度も入らず、机の上に置いた2つのコップだけで完結する。断水が起きた直後にやることの全体像は断水したらやること一覧にまとめていますが、口の中のケアについては「水を探す前に、手元の水の使い方を変える」ほうが近道です。

歯ブラシが無い日でも、口の中の汚れは落とせる

歯ブラシが無いときの口腔ケアとは、うがいと拭き取りによって歯の表面の汚れを物理的に取り除く手入れのことである。道具の名前が変わるだけで、やっていることは変わりません。

避難所の朝を思い浮かべてみてください。配られたパンを食べ終えて、洗面所には列ができている。持ち出し袋を開けたら、歯ブラシだけ入っていなかった。そういう朝は、実際にありえます。持ち出し袋の中身そのものを見直したい場合は避難所に持っていくものリストもあわせてどうぞ。

日本歯科医師会のポスターは、状況を「水がある場合」と「水がない場合」に分けています。歯ブラシが無くても水があるなら、食後に少量の水やお茶でぶくぶくうがい・がらがらうがいをして、タオルやハンカチ、ティッシュで歯の表面を擦る。水も無いなら、シュガーレスガムやキシリトールガムを噛んで唾液の分泌を促し、その唾液で口をすすぐ。マウスウォッシュを使う場合はノンアルコールのものが推奨されており、これで口をすすぐことで菌の増加を防ぐと同資料は案内しています(2026年8月13日に確認)。

もう少し細かい代替手段は、神奈川県保健福祉事務所歯科医師・歯科衛生士研究会がまとめた保健師・看護師向けの手引きにあります。唾液腺のマッサージ、濡らしたガーゼやタオルを指に巻いて歯の表面を擦る方法、ミカンなど柑橘の皮や緑茶で歯や歯ぐきを拭う方法、爪楊枝で歯の間の食べかすを取る方法。これらは平成21年12月の厚生労働省科学研究費補助金による報告集を改変したものと明記されています。

入れ歯を使っている場合
できれば毎食後、少なくとも1日1回は外して専用の道具で汚れを落とすこと、就寝時は外して義歯洗浄剤か水中で保管することが望ましい、と日本歯科医師会は案内しています。ただし非常時はその限りではないとも書かれており、洗浄剤が無い場合は食器用中性洗剤で代用できます(使用後は十分にすすぐこと)。

液体歯みがきや洗口液も選択肢に入ります。ここで一つ、書き方の線引きをしておきます。歯みがき粉やマウスウォッシュには「医薬部外品」と「化粧品」という区分があり、医薬部外品は薬用成分を含み承認された効能を表示できるのに対し、化粧品は清掃・清潔保持が目的で予防効能を表示できません。たとえばサンスター「ガム・デンタルリンス[レギュラータイプ]」は医薬部外品で、メーカーの公式表示によれば「歯周病(歯肉炎・歯周炎)を予防します」「口臭を予防します」とされています(同社製品ページ、2026年8月13日に確認)。一方で、歯みがきシートのように今回の調査で製品区分を特定できなかったものについては、当サイトからは効能を紹介しません。名前と使い方だけをお伝えします。

そなえぐらし管理人
「◯◯を使えば歯周病を防げます」とまとめて書いたほうが読みやすいのは分かっています。でも効能を書けるのは承認を受けた製品だけ。編集部としては、書ける範囲だけを書いて、あとは製品パッケージの表示を見てもらうほうが誠実だと考えています。

自分の状況で、次の一手を決めるチェックリスト

ここまでの手順を、状況別に整理し直したものが次のリストです(当サイトが一次資料を統合して作成)。

  • 水がある/歯ブラシがある → コップ2個法。少ないほうで濡らして磨き、多いほうで少なくとも2回すすぐ
  • 水がある/歯ブラシが無い → 少量の水やお茶でうがい後、タオル・ハンカチ・ティッシュで歯の表面を擦る
  • 水が無い/歯ブラシがある → 歯ブラシで磨いた後、汚れはティッシュで拭き取る。仕上げにガムで唾液を出す
  • 水が無い/歯ブラシも無い → シュガーレスガムやキシリトールガムで唾液を促し、その唾液で口をすすぐ
  • 入れ歯を使っている → 上記に加え、1日1回は外して汚れを落とす。就寝時は外して水中保管

食事の内容によって、必要なケアの重さも変わります。汁気のあるレトルト食品は口の中に残りにくい一方、麺類やパンは歯にくっつきやすい。同じ1日3回でも、何を食べた後かでかかる手間は変わります。なお、主食そのものの備え方はこの記事では扱いません。レトルト食品の備蓄カップ麺は備蓄に向くのかで整理しています。

備える量は、水の量ではなく「回数」で積む

備える量の目安とは、災害時に必要になる回数を先に決め、その回数に対応する道具を数える作業のことである。水のミリリットルから逆算しようとすると、この記事は行き詰まります。

先に、無いものを無いと書きます。「うがい1回あたり何ミリリットル」という公的な目安は、日本歯科医師会・厚生労働省・内閣府のいずれの一次資料にも記載がありませんでした(2026年8月13日時点の確認)。個人の歯科医院のブログには具体的な数値を挙げているものもありますが、出典が確認できないため当サイトでは採用していません。

では何を数えるか。当サイトはケアの回数を単位にします。1日の食事の回数が決まれば、ケアの回数も決まる。ケアの回数が決まれば、ガムやシートのような「1回使い切り」の消耗品が何個必要かも決まります。水の量が分からなくても、消耗品の個数は決められるわけです。

ここから先の数字は、公的資料に書かれた事実ではなく、当サイトが計算のために置いた前提です。1日3回(朝・昼・夜の食後)ケアすると仮定して積みます。この前提が自分の生活と違うなら、その回数に置き換えてください。

世帯人数 3日間の総ケア回数 7日間の総ケア回数 用意しておく物の考え方
1人 9回 21回 歯ブラシ1本+予備1本。ガムやシートは21回分を上限に
2人 18回 42回 歯ブラシは1人1本。共用しないので人数分そろえる
3人 27回 63回 1袋では足りない回数帯。箱・大容量の単位で考える
4人 36回 84回 入れ歯の人がいる場合は洗浄用の道具を別枠で追加

※1日3回のケアを前提に当サイトが算出した目安です。公的な基準ではありません。

この表の数字を眺めると、感覚が少し変わりませんか。4人家族が1週間分そろえると84回。ガムやウェットタイプのシートを「念のため1袋」買っておくだけでは、まったく届かない回数です。1袋ではなく箱の単位、という言い方のほうが実態に近い。逆に1人暮らしの3日分なら9回で、これはポーチに入る量です。

すすぎに使う水をどう見込むかも悩みどころです。飲料水の備蓄量には公的な目安がありますが、そこに口腔ケア用の水が含まれているかどうかは資料に明示されていません。当サイトとしては、飲料と調理の分を確保したうえで「コップ2個法なら1回あたりコップ2杯以内で収まる」という上限感を持っておくことをおすすめします。備蓄する水そのものの量については水の備蓄は1人何リットル?で扱っているので、全体の枠から差し引いて考えてください。

なお、公的な備蓄の枠組みのなかで口腔ケア用品がどう位置づけられているかも確認しました。内閣府(防災担当)の「避難生活における良好な生活環境の確保に向けた取組指針」令和6年12月改定版では、「その他生活必需品」の例として「石鹸、歯磨用品、ティッシュペーパー、トイレットペーパー等の日用品」が挙げられています。口腔ケア単独の項目立てはありません。つまり、行政の備蓄計画のなかでは日用品のひとつという扱いで、量まで指定されているわけではないのです。

避難生活で口腔ケアがすすめられるのは、口の中で細菌が増えるからとされている

ここで言う口腔ケアの目的とは、口の中の細菌が増えた状態を放置しないことである。当サイトは医療機関ではないので、公的資料に書かれている範囲だけをそのままお伝えします。

日本歯科医師会のポスターには、「口の中を清潔にしておかないと、口の中で細菌が増えて、肺炎をおこしやすくなる。特に高齢者は誤嚥性肺炎に注意」と記載されています(2026年8月13日に原文を確認)。書かれているのは「起こしやすくなる」という表現であり、逆向きに「歯みがきをすれば肺炎を防げる」とは書かれていません。当サイトからも、そう言い換えることはしません。

厚生労働省の「避難所生活で健康に過ごすために」でも、避難所での健康管理項目として8つが挙げられており、そのなかに「うがい・歯磨き」が入っています。水分・塩分補給、手の衛生、食中毒予防、適度な運動、うがい・歯磨き、睡眠・休息、マスク着用、薬の相談。並べてみると、口の中のケアは特別扱いではなく、手を洗うことや眠ることと同じ列に置かれている項目だと分かります。

言い換えると、口腔ケアは「やらないと大変なことになる特別な行為」ではなく、「避難所で崩れやすい日常のひとつ」として公的資料に載っている、ということです。歯ブラシを備蓄に入れる理由も、そこにあります。

この記事が当てはまらないケース・自分で判断しないこと

ここまでは、一般的な状況を前提にした内容です。次に当てはまる方は、記事の手順よりも専門家の指示を優先しましょう。

  • 持病があり、口の中の状態や服薬に影響が出ている方
  • 高齢のご家族、要介護の方、飲み込みに不安のある方の介助をしている場合
  • 口の中に痛み・出血・腫れなど、いつもと違う症状がある場合
  • 治療中の歯やインプラント、特殊な義歯を使っている場合

医療的な判断は、必ず専門家に委ねてください。持病のある方、高齢の方、要介護の方の口腔ケアの方法については、かかりつけ医・歯科医師・保健師にご相談ください。避難所には歯科医師や歯科衛生士が巡回する体制がとられる場合があり、公益社団法人日本歯科衛生士会も被災地での巡回について案内しています。困ったときは、避難所の運営スタッフや保健師に声をかけるのが早道です。

よくある質問

Q. 水が本当に1滴も無いとき、何もできませんか

日本歯科医師会のポスターは「水がない場合」の手入れとして、シュガーレスガムやキシリトールガムを噛んで唾液の分泌を促し、その唾液で口をすすぐ方法を挙げています。マウスウォッシュ(ノンアルコールのものが推奨)で口をすすぐ方法も併記されています。水がゼロでも、選択肢は残ります。

Q. 歯みがき粉は無くても大丈夫でしょうか

非常時の手順として公式ポスターに書かれているのは、コップ2個を使った水と歯ブラシの動かし方であり、歯みがき粉の使用は手順の前提になっていません。まずは物理的に汚れを落とすことが優先されている、と読めます。ただし製品ごとの使い方や効能はパッケージの表示に従ってください。

Q. うがいは1回にどれくらいの水を使えばいいですか

公的な数値の目安は見つかりませんでした(2026年8月13日時点)。日本歯科医師会が示しているのは量ではなく方法で、「少量ずつ水を口に含んで吐き出すことを繰り返した方が効果的」という説明です。数字ではなく回し方で考えるのが、資料に沿ったやり方になります。

Q. 家族の分の歯ブラシは共用しても構いませんか

共用を前提にした案内は、確認した公的資料のなかにはありませんでした。当サイトとしては人数分を用意する前提で備蓄量を計算しています。歯ブラシは日用品として備蓄品リストに例示されている品目でもあり、かさばるものでもないので、人数分+予備という置き方をおすすめします。

Q. 入れ歯の洗浄剤が手に入らない場合はどうしますか

日本歯科医師会のポスターには、義歯洗浄剤が無ければ食器用中性洗剤で代用でき、使用後は十分にすすぐようにと書かれています。ただし入れ歯の状態や素材に不安がある場合は、自己判断せず歯科医師に相談してください。

まとめ|今日やることは1つだけ

今日やることは、備蓄袋に歯ブラシが人数分入っているかを見ることです。それだけで足ります。水の量に悩む必要はありません。公的な目安は無いのですから、悩んでも答えは出ないのです。

  1. 備蓄袋を開けて歯ブラシを数える人数分あるか、予備があるかを確認します。無ければ買い足す。ここが出発点です。
  2. ガムかシートを「回数」で買い足す本文の早見表で、自分の世帯人数と日数に対応する回数を確認し、その回数を上限に消耗品を追加します。
  3. コップ2個法を家族に共有する手順を知っている人が家に1人いれば、避難所でも回ります。この記事のFIG1の順番だけ覚えておけば十分です。

参考・出典

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この記事を書いた人

登山が趣味の会社員。山で非常食を食べてきた経験から「食べ慣れないものは災害時つらい」と実感し、家庭の備蓄を見直し中です。実際に買って食べたものだけ「おすすめ」と書きます。失敗も隠しません。

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