会社に置く防災グッズ|デスクの引き出しに入る最小構成と3日分の考え方

オフィスのデスクの引き出しを開け、歩きやすいスニーカー・モバイルバッテリー・常備薬・保存食・小型ライトを並べて職場用の防災グッズを準備している様子

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会社の防災グッズを個人でどこまで用意すべきか。答えの線引きは、実はもう公的な文書に書かれています。東京都帰宅困難者対策条例は第7条2項で、事業者に対して従業者の3日分の飲料水・食糧などを備蓄するよう努めることを定めています(2026年8月9日時点)。つまり水と食料と毛布は、原則として会社が置く側の担当です。

では自分のデスクには何を置くのか。東京都帰宅困難者対策ハンドブックは「従業員等が自ら備蓄すべきもの」として、非常用食品、ペットボトル入り飲料水、運動靴(歩きやすい靴)、常備薬、携帯電話用電源の5つを例示しています。重くて共有できるものは会社、軽くて他人と代えがきかないものは自分。この一本の線が、引き出し1段という現実的なサイズに全部を収める鍵になります。

もうひとつ、会社任せにしきれない事情もあります。内閣府の検討委員会資料によれば、1都4県の企業で従業員用の水を3日分以上備蓄しているのは66.4%、簡易トイレに至っては41.1%です(令和3年3月調査)。おおよそ3社に1社は、水の3日分が足りていない計算になります。

この記事でわかること

  • 会社が備える分と自分のデスクに置く分の公式な線引き
  • 「3日分」が量の話ではなく「動かない72時間」の話である理由
  • 引き出し1段に収まる最小構成5点と、その判定チェックリスト
  • 自宅までの距離から歩行時間を出す計算式(書き込み欄つき)
目次

会社の防災グッズは「会社が備える分」と「自分で置く分」に分かれている

役割分担とは、同じ品目を二重に持たないために、誰がどれを担当するかをあらかじめ決めておく取り決めのことです。防災グッズでこの分担を決めているのが、東京都帰宅困難者対策条例と、それを解説する東京都帰宅困難者対策ハンドブックです。

条例第7条2項は事業者の努力義務として3日分の備蓄を挙げ、ハンドブックはその目安を1人あたり水9L(1日3L×3日)、主食9食(1日3食×3日)、毛布1枚と示しています。水9Lは2Lのペットボトルで4.5本。通勤バッグに入る量ではありませんし、引き出しに入れたら書類が入りません。だから会社の担当なのです。

品目 担当 公的な根拠 デスクに置くべきか
飲料水9L・主食9食 会社 条例第7条2項/ハンドブックの備蓄目安 置かない(少量の補助だけ)
毛布・保温シート 会社 同上(1人1枚が目安) 薄型なら1枚だけ持つ
常備薬 自分 ハンドブック「従業員等が自ら備蓄すべきもの」 置く(代えがきかない)
歩きやすい靴 自分 同上/条例のポイント欄にも明記 置く(サイズが個人ごと)
携帯電話用電源 自分 同上 置く(機種と使い方が個人ごと)

表の右2列を見比べると、判定の理屈が見えてきます。会社側は「重い・かさばる・誰が使っても同じ」もの。自分側は「軽い・小さい・自分にしか合わない」もの。サイズの合わない靴も他人の常備薬も、会社がいくら大量に置いても役に立ちません。

デスクに置くかどうかの判定式
「重くて共有できる」=会社の備蓄/「軽くて代えがきかない」=自分の引き出し。迷ったら、隣の席の人が同じものを使えるかどうかを考える。使えるなら会社の担当です。

ただし、この線引きが機能するのは会社側が備えている場合に限ります。数字をもう一度。水66.4%、食料61.6%、毛布・保温シート42.5%、簡易トイレ41.1%。従業員の帰宅ルールを決めている企業は25.6%です(内閣府資料、令和3年3月調査)。自分の会社がどちら側かは、総務に一度聞くのが早道です。

「3日分」は量の話ではなく、動かない72時間の話である

一斉帰宅抑制とは、大地震の直後に大勢が同時に徒歩帰宅を始めることを避け、救助・救命活動の妨げにならないようにする考え方です。東京都帰宅困難者対策ハンドブックは、発災後3日間は救助・救命活動を優先させる必要があるため、と理由を明記しています。

条例では、都民側にも第3条2項で「むやみに移動しないよう努める」ことが求められています。3日分という数字は、備蓄の量から逆算されたものではありません。72時間その場にとどまるために必要な量として、後から出てきた数字です。順番が逆なのです。

金曜の夕方、オフィスで大きな揺れが来たとします。電車は止まり、スマホの電池は残り30%。窓の外は人が歩いている。同僚が「歩けば3時間くらいですかね」と言い出す──ここで立ち上がるかどうかが、実は防災グッズの中身より先に来る分かれ道です。

そして人は、たぶん立ち上がります。内閣府の同じ調査で、発災から1時間以内に「帰宅する」と答えた人は60.4%。6時間後までを含めると77.4%に達しました。一方、一時滞在施設に3日間待機できると答えた人は15.0%しかいません。1晩なら、と答えた人でも34.2%です。

知識として「3日待つ」を知っていても、実際には帰りたくなる。この差を埋めるのは説教ではなく、その場に居続けられる条件です。手元に少しでも食べるものと明かりと電源があるかどうかで、判断の余裕はまったく変わります。

引き出し1段に入る最小構成は5点に絞れる

最小構成とは、これ以上減らすと目的を果たせなくなる下限の組み合わせのことです。東京都が示す個人の備蓄例5つを、そのままデスクの引き出しに翻訳すると次のようになります。

  • 常備薬と、いつも使っている衛生用品/数日分。名称と用量のメモを一緒に入れておく
  • 歩きやすい靴/履き慣れたスニーカー。ロッカーがあればロッカーへ
  • 携帯電話用電源/モバイルバッテリーと、自分の端末に合うケーブル
  • 常温で日持ちする食べもの/会社の備蓄が届くまでのつなぎとして少量
  • 明かりと、たたんで薄くなる保温用の一枚/小型ライトとアルミ蒸着のシート類

会社の備蓄が十分なら、食べものと保温の2つは会社側に寄せて構いません。逆に総務に聞いて「うちは水だけ」という答えが返ってきたなら、この2つは自分で持つ側に移ります。判定は品目ではなく、会社の状況で決まります。

電源は「何日ぶんか」で考える

携帯電話用電源は、東京都のリストで名指しされた数少ない個人携行品です。安否確認も運行情報も家族との連絡も、電池が切れた瞬間に止まります。72時間とどまる前提なら、必要なのは1回ぶんの充電ではありません。

容量の決め方と、自分のスマホなら何回充電できるかの計算は防災用モバイルバッテリーの容量の決め方で整理しています。デスクに置くなら、月に一度は残量を確認して継ぎ足す運用までセットで考えてください。


食べものは「会社の備蓄が届くまでのつなぎ」でいい

デスクに9食を置く必要はありません。会社の備蓄が配られるまでの数時間から半日をしのげれば足ります。条件は3つ。常温で長期保存できること、水がなくても食べられること、引き出しの奥で潰れないことです。

保存期間とコストの比べ方は非常食のお菓子(保存期間とコスト)にまとめています。職場に置く場合は、賞味期限の管理を自分でやることになる点だけ覚えておいてください。


保温の一枚は「毛布が足りない前提」の保険

会社の備蓄で毛布・保温シートを持っているのは42.5%でした。半分以上は足りない、と読み替えられます。空調が止まったオフィスで夜を明かす前提なら、たたんで薄くなる一枚があるかどうかで過ごし方は変わります。

選ぶ基準は、たたんだときの厚みと重さ、そして広げたときの寸法。引き出し1段に他のものと同居させるなら、文庫本くらいの厚みが現実的でしょう。


そなえぐらし管理人

編集部の整理では、職場の備えを「持ち出し袋の小型版」として作ると、まず入りきりません。家の袋は家から出るための道具、デスクの引き出しは会社から出ないための道具。目的が逆なので、中身も自然と変わります。

家の備蓄と優先順位が入れ替わるのは「歩いて帰る可能性」があるから

帰宅困難者とは、勤務先や外出先から自宅までの距離が遠く、公共交通機関の停止によって帰宅が難しくなる人のことです。家の備えとの決定的な違いは、職場の備えだけが「移動する自分」を想定に含む点にあります。

内閣府の中央防災会議で用いられた推計モデルでは、帰宅距離10km以内は全員が徒歩帰宅可能、20km以上は全員が帰宅困難、その間は1km長くなるごとに帰宅可能率が10%ずつ低減する、という定義が使われています。これは個人の「限界距離」を示したものではなく、都市全体の人数を推計するためのモデルである点には注意してください。

同じ資料では、混雑度が1.5人/m²未満で自由に歩ける場合の想定歩行速度を時速4kmとしています。駅までの道を、急がずに歩くくらいの速さです。ここから、自分の数字を出せます。

自宅までの歩行時間の目安
自宅までの距離(km)÷ 4 = おおよその歩行時間(時間)
※混雑・信号待ち・休憩は含みません。実際はこれより長くかかります。

自宅までの距離 目安の歩行時間 推計モデル上の区分 あなたの数字
5km 約1時間15分 全員が徒歩帰宅可能とされる範囲  
10km 約2時間30分 同上(境界)  
15km 約3時間45分 帰宅可能率が逓減する範囲  
20km以上 5時間以上 帰宅困難とされる範囲  

右端の欄に、自分の通勤経路の距離と割り算の結果を書き込んでみてください。15kmを「歩けば3時間台」と読むか「休憩と信号待ちを足せば半日仕事」と読むかで、デスクに置くものは変わります。前者なら靴と明かり、後者なら食べものと電源の比重が上がります。

この「移動を含むかどうか」が、家の備えとの分岐点です。家に置く持ち出し袋の考え方は防災リュックの中身リスト(最低限の6つ)で、寝ている間の身の守り方と枕元に置くものは寝室の地震対策(枕元に置くもの)で、それぞれ別に整理しています。同じ「防災グッズ」でも、置き場所が変われば優先順位は入れ替わります。

実際に帰宅を始めるかどうか、避難所へ向かうかどうかの判断は、その時点の被害状況によって変わります。持病や体調に関わる判断も含め、必ず自治体・内閣府・消防庁・気象庁など公的機関が出す情報と指示に従ってください。この記事の数値は、あくまで平常時に準備を考えるための目安です。

連絡と情報は「引き出しの中身」ではなく「決めごと」で備える

安否確認とは、家族や関係者の無事を互いに知らせ合うための手段と手順のことです。ここだけは、買って引き出しに入れて終わり、にはなりません。

NTT東日本・西日本が提供する災害用伝言ダイヤル171と、インターネット版の災害用伝言板(web171)は、災害発生時に通信が混み合う状況で提供が始まる仕組みです。使い方は平常時に体験しておかないと、その場では思い出せません。誰が登録して誰が確認するのか、家族での決め方は家族の安否確認方法の決め方(171と伝言板)にまとめています。

情報収集も同じ。スマホの電池を情報集めで使い切ると、肝心の連絡ができません。電池を食わない受信手段を1つ持つ考え方は防災ラジオの選び方を参考にしてください。

知っておくと選択肢が増える制度も2つあります。一時滞在施設は、発災から72時間程度まで帰宅困難者を受け入れ、水・食料・毛布などの支援を行う場所。災害時帰宅支援ステーションは、救助・救命活動が落ち着いた後に徒歩帰宅者へ水道水やトイレ、道路情報を提供する店舗等で、東京都はコンビニエンスストアやファミリーレストラン、ガソリンスタンド、都立学校等を位置づけています。九都県市の協定から始まり、令和6年7月時点で全国44都道府県に広がりました(44都道府県は令和6年7月の公表値。2026年8月9日時点で確認)。

支援ステーションが開くのは「救助活動が落ち着いた後」です。発災直後に頼れる前提で計画を立てないでください。制度の詳細や対象店舗は都道府県ごとに異なるため、最新の情報はお住まい・勤務先の自治体の公式サイトで確認してください。

この考え方が当てはまらないケース

ここまでの構成は、東京都の条例と内閣府の推計を土台にしています。次のような場合は、そのまま当てはめないでください。

  • 職場に個人の私物を置けない/共用デスクや持ち帰り必須のルールがある場合。通勤バッグに入る最小限(薬・電源・明かり)へ寄せる形になります
  • 自宅が徒歩圏内/数km以内なら、備えの中心は靴と明かりで足ります。3日分の発想は薄めて構いません
  • 東京都以外の勤務先/条例は東京都のものです。同種の条例や計画がある自治体もあるため、勤務先の自治体の防災計画を確認してください
  • 持病や医療的ケアがある/薬の保管条件や必要量は個別性が高く、判断は主治医と相談してください
  • 会社の備蓄が充実している/総務が3日分を確保済みなら、個人側は薬・靴・電源の3点で十分な場合があります

よくある質問

Q. 会社が備蓄しているなら、個人では何も置かなくていいですか

A. 東京都帰宅困難者対策ハンドブックは、事業者の備蓄とは別に「従業員等が自ら備蓄すべきもの」として非常用食品、飲料水、運動靴、常備薬、携帯電話用電源を挙げています。薬と靴と電源は他人と共有できないため、会社の備蓄が充実していても個人側に残ります。

Q. 3日分の水9Lを自分のデスクにも置くべきですか

A. 9Lは2Lペットボトルで4.5本ぶんにあたり、条例上は事業者側の努力義務に位置づけられています。個人は少量の補助にとどめ、勤務先の備蓄状況を総務に確認するのが現実的です。

Q. 地震のあと、歩いて帰ってもいいのでしょうか

A. 東京都帰宅困難者対策条例第3条2項は、都民の努力義務として「むやみに移動しないよう努める」ことを定めています。発災後3日間は救助・救命活動を優先させる必要があるためです。実際の行動は、その時点の公的機関の情報と勤務先の指示に従って判断してください。

職場の引き出しが決まったら、次は家の側です。持ち出し袋の基本構成は防災リュックの中身リスト|最低限の6つに、家族との連絡の決めごとは家族の安否確認方法の決め方|171と伝言板の使い分けにまとめてあります。

まとめ:今日やることは1つだけ

会社に置く防災グッズは、量を増やす話ではありません。会社が持つべきものと、自分にしか用意できないものを分けるだけで、引き出し1段に収まります。今日やることは1つ、自宅までの距離を調べて4で割ること。それだけで、自分の備えの重心が食べものなのか靴なのかが決まります。

  1. 距離を割る地図アプリで勤務先から自宅までの徒歩距離を出し、4で割って歩行時間の目安を書き留める。
  2. 会社の担当を確認する総務や防災担当に、水・食料・毛布・簡易トイレの備蓄があるか聞く。無い項目が、自分で持つ側に移る。
  3. 引き出しに5点を入れる薬・歩きやすい靴・携帯電話用電源・つなぎの食べもの・明かりと保温の一枚。入りきらなければ、会社が持てるものから外していく。

備えは、増やすほど良いものではありません。72時間そこに居られる条件を、引き出し1段ぶんだけ確保しておく。それが職場の防災グッズの役割です。

参考・出典

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この記事を書いた人

登山が趣味の会社員。山で非常食を食べてきた経験から「食べ慣れないものは災害時つらい」と実感し、家庭の備蓄を見直し中です。実際に買って食べたものだけ「おすすめ」と書きます。失敗も隠しません。

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