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災害時の靴は、長靴でいいのか
大雨の警報が出た夜。リュックの中身をひととおり確認して、さあ出ようというときに、玄関で手が伸びるのはたいてい長靴です。水に濡れないのだから、水害には長靴。そう思っている人は多いと思います。
ところが国土交通省は、避難のときの履物として長靴ではなく「ひも付き運動靴」を挙げています。しかも同じページに、浸水深が膝(0.5メートル)を超えるとほとんどの人が避難できなかった、という数値まで同じページに載っている。つまり靴の選択には、それが効いてくる水深の範囲があるということです。
この記事では、その国交省の原文をそのまま示したうえで、水深の目安、地震と水害での履き分け、屋外用の靴に付いている規格の数値を順に見ていきます。玄関のどこに靴を置くかといった室内側の備えは別の記事の担当なので、ここでは「避難のときに何を履くか」だけに絞ります。
この記事でわかること
- 「長靴より、ひも付き運動靴」は国土交通省が原文で書いている(引用と出典つき)
- 浸水深が膝(0.5メートル)を超えると、靴の話ではなく避難の判断の話に変わる
- 地震(がれき・破片)と水害(浸水した道の歩行)では、靴に求めるものが違う
- 屋外用スニーカーのJSAA規格は、A種とB種で数値が2倍以上ちがう
水害の避難で長靴が勧められない理由は、国が原文で書いている
川の防災情報とは、国土交通省が河川の水位や浸水に関する情報をまとめて公開しているサイトです。その中の「浸水深と避難行動について」というページに、避難するときの服装と持ち物の説明があります。原文はこうです。
持ち物はリュックで、手は自由に、長靴よりひも付き運動靴で避難しましょう。
出典: 国土交通省 川の防災情報「浸水深と避難行動について」(https://city.river.go.jp/kawabou/reference/index05.html/2026年8月30日確認)
ここで大事なのは、これが誰かの経験談ではなく、河川を所管する省庁が自分のサイトに書いている文だという点です。「長靴は危ない」という話自体は防災を扱う多くのサイトに書かれていますが、どこの誰がそう言っているのかまで示しているものは、意外と多くありません。
正直に書いておきます。この国交省ページには、なぜ長靴ではなく運動靴なのかという理由までは書かれていません。また、ページがいつ作成・改定されたのかも、今回はページ本文からは特定できませんでした。「国が書いている事実」と「その理由の説明」は分けて読んでください。
理由として一般に挙げられるのは、水の中を歩くと長靴の中に水が入って重くなり、足を上げにくくなること、そして履き口が広いぶん脱げやすいことです。これは国の文書に書かれた説明ではないので、この記事では「そう指摘されている」以上には踏み込みません。ただ、ひもで足に固定できる運動靴が挙げられているという事実のほうは、はっきりしています。
もうひとつ、この一文には靴以外の指示も入っています。「持ち物はリュックで、手は自由に」。両手が空くこと自体が避難行動の一部として書かれているわけです。何をリュックに入れるかで迷っている方は、防災リュックの中身リスト|最低限の6つと、入れなくていい5つで優先順位から整理してみてください。
ここで当然出てくるのが、「長靴をやめたら濡れるじゃないか」という疑問だと思います。ただ、浸水した道を歩くなら靴の中はどのみち濡れる。だとすれば守る場所を足元から上へずらして、雨そのものを上半身と脚のほうで受け止めないようにする。そういう置き換えのほうが、歩き続けるという目的には筋が通ります。
TUTUYOのレインスーツは、ジャケットとパンツが分かれた上下セパレートのセットです(Amazonの商品ページ表示/2026年9月6日確認時点)。裾が一枚布で脚にまとわりつくポンチョ型と違って、脚を上げる動作を邪魔しない。国交省の一文にある「持ち物はリュックで、手は自由に」とも、袖口が独立しているぶん噛み合います。なお、耐水圧や素材の数値は商品ページの表示範囲を超えるため、ここでは書きません。
歩ける水深には、数値の目安がある
浸水深とは、地面から水面までの高さのことです。同じ国交省のページには、この浸水深と歩行の関係についても数値が出ています。
浸水深が膝(0.5m)の高さ以上になると、ほとんどの人が避難困難でした。
出典: 国土交通省 川の防災情報「浸水深と避難行動について」(2026年8月30日確認)
0.5メートルは50センチ。ちょうど膝の高さです。この数字が意味しているのは、ここから先は靴の選び方でどうにかなる話ではない、ということだと考えてください。良い靴を履けば膝上の水を歩けるようになる、という話にはなりません。
| 水の深さ | 国交省ページの記述 | 靴の話として言えること | そのとき考えること |
|---|---|---|---|
| 膝(0.5メートル)より浅い | — | 脱げにくく、足裏を守れる靴かどうかが効いてくる範囲 | 移動するかどうかは自治体の避難情報にしたがう |
| 膝(0.5メートル)以上 | ほとんどの人が避難困難でした | 靴の性能で解決できる範囲を外れる | 外に出るという前提自体を見直す(垂直避難を含む) |
出典: 国土交通省 川の防災情報「浸水深と避難行動について」(2026年8月30日確認)の記述をもとに整理
避難するかどうか、いつ動くかの判断は、この記事では決められません。お住まいの自治体が出す避難情報、気象庁の警報、国土交通省の河川情報にしたがってください。この記事が扱っているのは、動くと決めたあとに何を履くかという一点だけです。
水深の数値でいうと、車には車の別の目安があります。歩きの話と混ざりやすいので、運転して抜けられるかどうかで迷ったときは冠水した道路は車で走れる?JAFの実験でわかる限界と、引き返す判断の決め方を見てください。歩きはこちら、車は向こう、と分けておくと迷いが減ります。
そして「膝まで来てから考える」では遅い、という話でもあります。土砂災害の警戒区域に自宅が入っているかどうかや、動き出す時刻の決め方については土砂災害に備える|自宅が警戒区域か調べる手順と、避難のタイミングの決め方で整理した。
地震と水害では、靴に求めるものが変わる
踏み抜きとは、割れたガラスや釘などが靴底を貫いて足裏に達してしまうことをいいます。地震のあとの床や路上で問題になるのは主にこれで、水害の浸水路で問題になるのは、脱げないことと足を上げられることでした。同じ「災害時の靴」でも、危ないものの正体が違います。
だから一足で全部を背負わせようとすると、たいてい中途半端になります。優先順位のつけ方を、状況別に並べてみます。
- 地震のあとに屋外へ出るとき:靴底の厚さ・かたさ(踏み抜きへの備え)と、つま先の保護を優先する
- 大雨で浸水しはじめた道を歩くとき:脱げないこと(ひもで固定できる)と、水が入っても重くならないことを優先する
- どちらか分からない/夜間に急いで出るとき:ひもで固定できる運動靴タイプを基準にする(国交省の記述に沿う)
- 膝(0.5メートル)を超える水がある:靴の選択ではなく、外に出るかどうかを自治体の情報で判断し直す
言い方を変えると、水害では「脱げない・歩ける」が先に来て、地震では「足裏とつま先を守る」が先に来ます。両方を満たそうとすると重くて硬い靴になり、その靴は水の中では歩きにくい、という綱引きになるわけです。だから一足で決め打ちせず、地震用と水害用を分けて考えたほうが素直です。
室内で足を切らないための備え、玄関に何を置いておくか、そして安全靴の日本産業規格(JIS T8101)の詳しい中身については、防災スリッパは必要?内閣府が載せた被災者の声とJIS規格で足を守る備えを決めるが担当しています。JISの数値や室内の足元が知りたい方は、そちらへどうぞ。
参考までに、内閣府が教訓集として掲載した被災者の声(平成19年能登半島地震)には、「カンタンにはぬげない、底の厚いしっかりした靴をはかないと足を切ってしまいそうだったから、家族みんなで家の中でも長靴やズックをはいていました。」という一文があります。これは内閣府自身の推奨ではなく、内閣府が集めた被災者の証言です(出典: 内閣府 防災情報のページ「スリッパではあぶない家の中」/2026年8月30日確認)。
屋外用の靴の規格は、JSAAのA種とB種で数値が違う
プロテクティブスニーカーとは、つま先に先芯を入れた作業用スニーカーについて、公益社団法人日本保安用品協会(JSAA)が定めた規格に合格したもののことです。この規格はJSAA規格第1号といい、2010年6月25日に制定されています(2026年8月30日確認時点)。
種類はA種とB種に分かれていて、要求される数値が違います。
| 区分 | 耐衝撃性 | 耐圧迫性 | B種との差 |
|---|---|---|---|
| A種 | 70J | 10kN | — |
| B種 | 30J | 4.5kN | A種は耐衝撃性・耐圧迫性ともB種のおよそ2倍以上の数値 |
出典: 公益社団法人日本保安用品協会(JSAA)「プロテクティブスニーカー規格」(jsaa.or.jp/2026年8月30日確認)
数字だけ並べても実感が湧かないので、単位の話を先にしておきます。Jは落ちてきた物がぶつかる力の大きさを表す単位、Nは押しつぶす力の単位で、kNの「k」は1,000倍を意味します。10kNなら10,000Nということです。
要するに、A種のほうがより強い衝撃と圧迫を想定した等級だ、と読めば足ります。そして同じ「スニーカー型」でも規格の等級が違えば別物だという点が、買うときにいちばん効いてきます。見た目では区別がつかないので、商品説明や表示でA種かB種かを確かめてください。
JSAAの公式ページには、耐圧迫試験の合否判定として、中底と先芯のすきまが規定された寸法以上の高さを確保していること、という基準がある旨も記載されています。押されたときにつま先の空間が潰れきらないかどうかを見ている、ということです。具体的な寸法(ミリ数)はページ内に記載がないため、ここでは数値を書きません(2026年8月30日確認時点)。
なお、この規格はもともと作業現場向けのものです。災害時の避難のために作られた等級ではないので、「A種を買えば災害に対応できる」という読み方はしないでください。あくまで、靴の性能を数値で比べるための共通のものさしとして使えるということです。
では、いま玄関にある運動靴に、あとから足せるものはあるのか。規格の表示は次に買い替えるときの物差しなので、今日のうちに何かするなら、別の手を考えることになります。
足裏だけなら、中敷きで補えます。ミドリ安全の踏抜防止カップインソール(Mサイズ)は、ステンレス板を仕込んだ中敷きで、いま履いている靴の中敷きと入れ替えて使うタイプです(Amazonの商品ページ表示/2026年9月6日確認時点)。つま先に先芯が付くわけではないので、これを入れたからA種相当になる、という話ではない。地震のあとに問題になる踏み抜きのうち、足裏側だけを靴を買い替えずに補う道具、という位置づけで見てください。
この記事が当てはまらないケース
ここまでの話は「歩いて外に避難する」場面を前提にしています。前提が変われば、結論も変わります。
- すでに水が上がっていて外に出るほうが危ない状況。この場合は建物の上階へ移る垂直避難が選択肢になり、靴の話の優先度は下がります
- マンションの上階などで在宅避難を選ぶとき。屋外用の靴より、室内で足を守る備えのほうが出番が多くなります
- 足に持病がある方、既製の靴が合いにくい方。履物については、かかりつけの医療機関や専門店の助言を優先してください
- 家族に小さな子どもや高齢の方がいる場合。歩ける水深の目安(膝=0.5メートル)は身長によって体感が変わるため、大人の基準をそのまま当てはめられません
避難先で何日か過ごす前提なら、履いていく靴とは別に、避難所で使う履物や身のまわりの物の準備も要ります。持ち物の線引きは避難所に持っていくものリスト|自治体が用意する物と、自分で持つ物の線引きにまとめました。
よくある質問
Q. 長靴を履いてはいけない、ということですか?
いいえ。国土交通省の記述は「長靴よりひも付き運動靴で」という比較の形です。禁止ではありません。水がまだ来ていない状態での作業や、泥をかき出す片づけの場面など、長靴が向く場面はあります。避難のために浸水した道を歩くという場面に限って、比較の結果として運動靴が挙げられている、と読んでください。
Q. スニーカーなら何でもいいですか?
国交省の表現は「ひも付き運動靴」で、ひもの有無に触れています。脱げにくく足に固定できることが条件だと読めます。かかとを踏んで履くタイプや、ゆるいスリッポンは、その条件から外れます。加えて地震のあとを想定するなら、靴底の厚さやつま先の保護があるかどうかを、JSAAのA種・B種のような表示で確かめるのが現実的です。
Q. 靴はどこに置いておけばいいですか?
置き場所と室内用の備えについては防災スリッパは必要?の記事が扱っています。この記事は「何を履くか」に絞っているので、そちらを参照してください。
Q. 浸水しやすい地域に住んでいます。靴のほかに足すものはありますか?
地震向けの備えに水害向けの品を足す考え方は、水害の備蓄品リスト|浸水想定エリアで地震の備えに足す7つで整理しています。靴は「避難のときに身につける物」、備蓄は「そのあとの時間を支える物」と役割が分かれます。
そのうえで、身につける物としてもう一つ挙げるなら明かりです。夜間や停電のなかで浸水した道を歩くとき、足元が見えるかどうかが、そのまま進むか引き返すかの判断材料になります。手に持つライトだと、リュックを背負って手すりをつかむ場面で片手がふさがる。国交省の一文にある「手は自由に」は、明かりの選び方にも効いてきます。
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足元の備えをもう一段そろえるなら、屋内で足を守る側の話が防災スリッパは必要?内閣府が載せた被災者の声とJIS規格で足を守る備えを決めるにあります。外を歩く靴と、家の中で割れたガラスを踏まないための備えは、別々に決めるものです。
まとめ:今日やることは、玄関の一足を見直すことだけ
覚えて帰っていただきたいのは一行です。国土交通省は避難時の履物として、長靴よりひも付き運動靴を挙げている。そして膝(0.5メートル)を超える水では、ほとんどの人が避難できなかった。靴で解決できる範囲と、そうでない範囲がある、ということですね。
- いま家にある靴のうち、ひもで足に固定できる運動靴を1足決めて、避難用として頭の中で指名しておく
- その靴の表示を見て、JSAAのA種・B種の記載があるかを確かめる(無ければ、次に買い替えるときの判断材料にする)
- 自治体のハザードマップで自宅周辺の想定浸水深を見て、膝(0.5メートル)との関係を確認しておく
3番目まで済ませると、「この靴で出る/この深さになる前に動く」という二つの線が自分の家について引けます。あとは実際の判断を、自治体の避難情報と気象庁・国土交通省の情報にゆだねてください。
参考・出典
- 国土交通省 川の防災情報「浸水深と避難行動について」 https://city.river.go.jp/kawabou/reference/index05.html(2026年8月30日確認/ページの作成日・改定日は本文からは特定できませんでした)
- 公益社団法人日本保安用品協会(JSAA)「プロテクティブスニーカー規格」(JSAA規格第1号・2010年6月25日制定) https://jsaa.or.jp/プロテクティブスニーカー規格/(2026年8月30日確認)
- 内閣府 防災情報のページ「スリッパではあぶない家の中」(平成19年能登半島地震の被災者の証言を内閣府が教訓集として掲載したもの) https://www.bousai.go.jp/kyoiku/keigen/ichinitimae/cbh20005.html(2026年8月30日確認)
