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マンションで先に買うのは、携帯トイレと水です。しかも、この順番で。防災リュックでも、ヘルメットでも、非常食でもありません。理由ははっきりしていて、マンションは排水と給水の仕組みが戸建てと違うからです。
戸建てなら、庭という逃げ道が最後に残ります。集合住宅には、それがない。そのうえ住戸が上下に重なっているため、排水管が壊れているのに水を流すと、下の階の部屋へ汚水があふれることがあります。これは推測ではなく、公益社団法人空気調和・衛生工学会が2020年6月に公開した「集合住宅の災害時のトイレ使用マニュアル作成手引き」が正面から注意している内容です。
水も同じ構図です。マンションの水は、多くの場合ポンプで押し上げられています。停電すればポンプは止まる。建物がびくともしなかったとしても、停電した瞬間から上の階に水が届かなくなる。だから「マンションだから買うものが変わる」のではなく、「そのマンションの給水方式と階数だから、買うものが変わる」のです。この記事は、その判定を1枚の表でやります。以下、制度や設備の内容はいずれも2026年9月6日確認時点のものです。
この記事でわかること
- 階数・給水方式・排水方式の組み合わせから、先に買うものを決める判定表
- 東京都水道局が示す給水方式4種類の違いと、停電したときにどこまで水が出るか
- 地震のあとにトイレを流してはいけない理由と、学会が通水試験を勧めていない根拠
- 管理組合が備えるものと各戸が備えるものの分担(大阪市の一覧例)と、東京とどまるマンションの2026年6月改正
マンションの備えは、階数と設備の2つで決まる
マンション防災における「設備条件」とは、給水方式・排水方式・エレベーターという3つの共用設備が、停電と断水のときにどう振る舞うかの組み合わせのことです。この3つが分かれば、買うものの優先順位はほぼ自動的に決まります。逆に言えば、これを知らないまま防災グッズの一般的なリストを買い揃えると、必要なものが足りず、要らないものが増えます。
同じ建物の中でさえ、条件は一つではありません。3階の住戸と15階の住戸では、停電したときに蛇口から水が出るかどうかが違う。エレベーターが止まったときに、階段で何を持って上がれるかも違います。「マンションの防災グッズ」という一括りの言葉が役に立たないのは、この差を無視しているからです。
一方で、階数や設備に関係なく共通する備えもあります。家具の固定がその代表です。揺れで家具が倒れれば、何階に住んでいようと同じ被害が出ます。ただし固定の方法と器具の選び方はそれ自体で1本分の話になるので、ここでは深追いしません。器具の公表値と組み合わせ方は賃貸の家具固定は穴を開けずにできる?東京消防庁が示す「2つ組み合わせ」の根拠と器具の公表値にまとめてあります。
この記事の判定軸
- 階数…エレベーターが止まったとき、階段で運べるかどうかを決める
- 給水方式…停電したとき、蛇口から水が出るかどうかを決める
- 排水方式…流していいかどうか、そもそも流せるかどうかを決める
【判定表】自分のマンションの条件から、買うものを決める
判定表とは、複数の条件の組み合わせから結論を1つに絞り込むための対応表です。ここでは階数・給水方式・排水方式の3つを入力にして、「先に買うもの」を出力にしました。表が横に長いので、スマートフォンでは左右にスクロールしてご覧ください。
| 階数 | 給水方式 | 排水の条件 | 停電・断水で起きること | 先に買うもの |
|---|---|---|---|---|
| 1〜3階 | 直結直圧給水 | 自然流下 | 水道本管の圧力が生きていれば、停電しても蛇口から水が出る可能性がある。ただし排水管の確認が済むまで流せないのは同じ | 携帯トイレと防臭袋。保存水は最小限でよい |
| 1〜3階 | 貯水槽水道(受水槽+高置水槽) | 自然流下 | 停電で揚水ポンプが止まるが、高置水槽に残った水は重力で落ちてくる。残量が尽きるまでの猶予がある | 携帯トイレと防臭袋。次に保存水 |
| 4〜10階 | 増圧直結給水 | 自然流下 | 停電で増圧ポンプが停止。バイパス配管があれば水道本管の圧力が届く低層階までは出るが、中層以上は止まる | 携帯トイレ、保存水、据え置きの給水タンク |
| 4〜10階 | 貯水槽水道(受水槽+加圧ポンプ) | 自然流下 | 停電でポンプが止まり各戸は断水。受水槽に非常用給水栓があれば、1階で汲むことはできる | 携帯トイレ、保存水、背負う形のウォーターバッグ |
| 11階以上 | 増圧直結給水/貯水槽水道のいずれも | 自然流下 | 断水に加えてエレベーター停止が重なり、運搬手段が階段だけになる。運ぶ量そのものが減る | 保存水を先に置く。携帯トイレは多めに。移動用の明かり |
| 地下階・半地下の住戸を含む | 方式を問わない | 汚水槽からポンプで汲み上げる排水 | 停電中は排水ポンプが止まるため、そもそも排水できない。給水の有無に関係なく流せない | 携帯トイレを最優先。回数を厚めに |
表を見て気づくのは、どの行にも「携帯トイレ」が入っていることです。給水方式が何であれ、階数が何階であれ、地震のあとしばらくは流せない。ここだけは条件によって変わりません。だから最優先になります。
変わるのは、その次です。1〜3階の直結直圧なら、水は蛇口から出るかもしれないので保存水は控えめでいい。11階以上なら、水は「運ぶ」対象ではなく「あらかじめ置いておく」対象になる。同じ建物の同じ日でも、3階と15階では買い物リストが違ってくる、ということです。

この表は、公表されている方式ごとの一般的な挙動を並べたものです。自分の建物がどの行に当たるかは、管理会社への確認か、管理組合の掲示で必ず確かめてください。同じ「貯水槽水道」でも、非常用給水栓の有無で結論が変わります。
行が決まったら、次は置き場所の問題になります。保存水を12本買っても、玄関に積み上げたら通り道が塞がる。専有部の中で4か所に分ける考え方はマンションの備蓄の置き場所|4か所に分ける収納マップと実例で扱っています。
給水方式が4つあり、停電したときの挙動が違う
給水方式とは、水道本管から各住戸の蛇口まで水を運ぶ道筋の設計のことで、東京都水道局は大きく4つに分類しています。用語は聞き慣れませんが、覚えるのは「ポンプを使うか、使うならどこで使うか」だけです。
まず直結直圧給水方式。配水管の水圧をそのまま使い、おおむね3階まで直圧で給水します。ポンプが介在しないので、水道本管が生きていれば停電しても水は出ます。次に増圧直結給水方式。増圧ポンプで本管から直接各戸へ押し上げる方式です。3つめが貯水槽水道方式で、いったん受水槽に貯めてから、屋上の高置水槽へ揚水するタイプと、加圧ポンプで各戸へ送るタイプに分かれます。4つめが特例直圧給水方式で、水圧が高い地域向けの方式です。
ここまでが分類の話。では、停電したらどうなるのか。空気調和・衛生工学会の手引きは、方式ごとの挙動をこう整理しています。
| 給水方式 | 停電したときの挙動 | そこから導かれること |
|---|---|---|
| 直結直圧給水(3階まで) | 水道本管の圧力があれば給水できる | 低層階は断水しない可能性がある |
| 増圧直結給水 | 増圧ポンプが止まる。バイパス配管を使えば、本管の圧力が足りる階(低層階)までは給水可能 | 低層階と中高層階で結果が分かれる |
| 貯水槽水道(受水槽+高置水槽) | 揚水ポンプは止まるが、高置水槽に残った水は使える | 残量が尽きるまでの時間が猶予になる |
| 貯水槽水道(受水槽+加圧ポンプ) | ポンプ停止で各戸は断水。受水槽に非常用給水栓があれば、受水槽の水は使える | 「1階まで汲みに行く」前提になる |
| 汚水槽からポンプで汲み上げる排水(地下階など) | 停電時はポンプが止まるため排水できない | 給水と関係なく、流せない |
増圧直結給水のバイパス配管については、2018年の北海道胆振東部地震で実際に低層階への給水が確保された例があると、同じ手引きに記載があります。つまり「停電=全戸断水」ではない。どこまで水が届くかは、方式と階数で決まります。
この差は、そのまま買い物リストの差になります。高置水槽方式の3階なら、水は当面出る前提で計画できる。加圧ポンプ方式の9階なら、初日から水は出ない前提で、運搬の道具まで含めて考える必要があります。高層階で先に何が止まるかはマンション高層階の停電と断水|先に止まるのは水、そのとき何が起きるかで詳しく扱っています。
自分の建物の給水方式は、管理会社に聞けば即答してもらえることがほとんどです。それでも分からない場合は、屋上に水槽があるか(高置水槽方式)、1階や敷地内に大きな箱状の受水槽があるか(貯水槽水道方式)、どちらも見当たらないか(直結方式の可能性)を目で確かめると、当たりがつきます。
地震のあとは、排水管の確認が済むまで水を流さない
通水試験とは、ボールやトイレットペーパーを流して排水管の詰まりを確かめる方法のことで、空気調和・衛生工学会の手引きは、再現性がなく大量の水を要するとして推奨していません。つまり「試しに流して確かめる」は、選択肢から外れます。
揺れが収まって、ほっとして、まずトイレに行きたくなる。これは自然な反応です。そしてレバーに手が伸びる。この数十秒で止まれるかどうかが、マンションでは大きな分かれ目になります。上の階の住戸が流した水が、配管の破損箇所から下の階の天井裏に回り、部屋の中にあふれる。集合住宅特有の被害です。
手引きが示している手順は、おおまかに言えばこうです。まずトイレの水は流さず携帯トイレを使う。そのうえで目視で大まかな損傷をチェックし、便座の蓋の裏に水滴がついていないかといった異常の兆候を監視しながら、使用再開を判断していく。断水していても水が確保できる場合には、バケツで洗浄する方法が勧められています。
東京都下水道局も、同じ趣旨の案内を出しています。配管などが破損していると下水が詰まって汚水が逆流したりするため、地域によっては下水道の使用を制限することがあり、その場合は使用を控えるように、という内容です。携帯用トイレや区市町村が用意したトイレの利用が案内されています。
停電しているだけで断水していない場合、そもそもトイレの水を流せるのかという疑問も出てきます。メーカーごとの手動洗浄の手順は停電するとトイレは流せる?メーカー3社の手動洗浄の手順と、マンションで先に止まるものに整理しました。ただし手動で流せる機種であっても、排水管の確認が済むまでは流さないという判断が先に来ます。
では携帯トイレは何回分あればいいのか。回数の計算式と人数・日数別の早見表は簡易トイレは何回分必要?1人1日5回×人数×日数の計算式と早見表に委ねます。この記事では「マンションでは戸建てより先に要る」という順番だけを扱います。
販売ページに「BOS 非常用トイレ(Bセット)50回分」と表示されているセットがあります(2026年9月6日確認時点)。手がけているのは、防臭袋「BOS」のクリロン化成です。同社は防臭袋「BOS」を手がけるメーカーで、その処理袋が組み合わされています。マンションで携帯トイレが最優先になる理由は、量より順番です。排水管の確認が済むまで流せない以上、断水していなくても使う場面が来る。なお、型番や内容点数の詳細はメーカー公式の仕様ページで確認できていないため、商品名に表示されている回数以外の数値はここには書きません。
流せない期間は、ゴミも部屋の中に残る
携帯トイレを使うと決めた瞬間から、もう一つの問題が始まります。使用済みの袋を、どこに置くか。災害時はゴミ収集が止まります。ゴミ置き場も共用部分ですし、エレベーターが止まっていれば、上の階から袋を降ろすこと自体が重労働になる。結果として、汚物と生ゴミが数日間、部屋の中にとどまります。
これは一戸建てでも起きますが、マンションでは条件が悪くなります。庭に一時置きする場所がない。ベランダは共用部分なので、置いていいものに制限がある。窓を開けて換気しようにも、高層階では風が強くて開けにくい日もある。「臭いの管理」が、想像より早く効いてきます。
クリロン化成の「BOS 臭わない袋 ストライプ Lサイズ 90枚入り」は、同社が防臭袋として公式サイトに掲載しているシリーズの製品です(メーカー公式ページで確認、2026年8月10日)。重量は公式に記載がないため、ここでは書きません。Lサイズを選ぶ理由は、携帯トイレの処理袋をさらにまとめて入れる用途を想定しているからで、枚数が90枚あると、家族分を数日まとめて処理する計算が立ちます。トイレのセットとは別に、消耗品として持っておく位置づけです。
エレベーターが止まると、買い物と給水の前提が変わる
地震時管制運転装置とは、地震などの加速度を検知して、かごを自動的に昇降路の出入口の戸の位置に停止させ、戸を開くことができる安全装置のことです。建築基準法施行令第129条の10第3項第2号による設置義務で、技術基準は平成20年12月26日国土交通省告示第1536号。施行は2009年9月28日です。
ここで大事なのは、既設のエレベーターへの遡及適用がないことです。義務の対象は新設で、既設への設置は行政指導、つまり「お願い」の位置づけになっています。国土交通省住宅局建築指導課長通知(国住指第4293号、平成31年4月2日付)として、戸開走行保護装置・地震時管制運転装置が未設置の既設エレベーターについて、建物所有者や管理者に設置を促す協力要請が出されています。義務ではありません。
言い換えると、2009年より前に設置されたエレベーターは、装置が付いていない可能性があるということです。築年数の古いマンションでは、ここを管理組合に確認する価値があります。
止まったあと、いつ動くのか。ここは正直に書きます。一般社団法人日本エレベーター協会が2015年4月8日付で公開している「大規模地震発生時のエレベーター早期復旧等に関するご協力のお願い」には、復旧までの日数の目安は書かれていません。書かれているのは、復旧の優先順位です。
大規模地震発生時の復旧優先順位(日本エレベーター協会)
- 閉じ込めが発生している建物
- 病院等の弱者利用施設
- 公共性の高い建物(災害対策本部指定等)
- 高層住宅(地上高さ概ね60メートル以上)
- 一般の建物
複数の建物で閉じ込めが想定される大規模地震では、停止したエレベーターの復旧は閉じ込め救出のあとになる場合があるとされています。また、1つのビルに複数台ある場合は「1ビル1台の復旧」を優先し、より多くの建物に対応する運用が示されています。
この優先順位から読み取れることは、けっこう具体的です。一般の分譲マンションは5番目。高さがおおむね60メートル未満なら、4番目にも入りません。そして複数台あるマンションでも、まず戻ってくるのは1台だけ。つまり「エレベーターが復旧した」と「以前と同じように使える」は、別の話だということになります。
エレベーターが止まると、もう一つ変わるものがあります。共用廊下と階段の明かりです。非常用照明が点く建物でも、点灯時間には限りがあります。階段室に窓がなければ、日中でも足元は暗い。給水に降りる、様子を見に行く、という移動そのものに明かりが要るようになります。
GENTOSのLEDランタン「EX-136S」は、メーカー公式サイトに掲載されている製品で、重量は355グラムです(GENTOS公式サイトで確認、2026年8月10日)。350ミリリットルの缶飲料1本とほぼ同じ重さ、と言えば手に持った感じが想像しやすいと思います。据え置きの照明としてだけでなく、階段の上り下りに持って出られる重さかどうかが、マンションでは効いてきます。部屋を明るくする道具ではなく、移動のための道具として選ぶ、という考え方です。
上の階ほど、水は「運ぶ」より「先に置く」ほうが効く
在宅避難とは、建物の安全が確認できた場合に、避難所へ行かず自宅にとどまって生活を続ける避難のあり方のことです。マンションでこれを成立させる最大の変数が、水になります。
必要量の目安は公的資料に示されています。内閣府の広報誌「ぼうさい」の特集記事には、飲料水について「一日一人3リットルを目安に、3日分を用意」、食料について「一人最低3日分の食料を用意」と書かれています(内閣府防災情報のページで確認、2026年9月6日)。1人あたり9リットル。4人家族なら36リットルという計算になります。
ここでマンション特有の事情が効いてきます。36リットルは、重さにすると約36キロ。水は1リットルでおよそ1キログラムですから、米袋10キロを3袋半ぶん、階段で運ぶことになる。エレベーターが止まってからでは無理です。だから上の階ほど、買いに行く前提ではなく、置いておく前提に切り替える必要があります。飲料水と生活用水を分けた必要量と本数の早見表は水の備蓄は1人何リットル?飲料水と生活用水の必要量・本数早見表にまとめています。
サーフビバレッジの「長期保存水 5年」は、2リットルのペットボトル6本入りで、商品名のとおり5年の長期保存に対応した表示の製品です。1箱で12リットルになるので、先ほどの内閣府の目安(1人1日3リットル×3日=9リットル)を1人分としてみると、1箱で1人3日分をやや上回る計算です。なお、メーカー公式サイトの仕様ページは当サイトで確認できていないため、容量・本数・保存年数の表示以外の数値はここには書きません。「置く」役割の商品として、玄関ではなく普段使わない収納の下段に入れておくのが、マンションでは扱いやすい選び方です。
置いたあとに来るのが、汲みに行く話です。受水槽に非常用給水栓があるマンションでは1階まで、無ければ給水車の場所まで、水を取りに行くことになります。このとき困るのが、持ち帰る容器がないこと。鍋やペットボトルで往復すると回数だけが増えます。
山善の「折り畳みウォータータンク 10L」(型番YWT-10)は、山善のカタログサイトに掲載されている折りたたみ式のタンクです(メーカー掲載ページで確認、2026年8月10日)。重量は公式に記載がないため書きません。使わないときは畳んでおけるので、10リットルという容量のわりに保管場所を取らないのが、収納の限られるマンションでは効いてきます。ただし満タンにすると水そのものが約10キロになります。これは部屋に据え置いて使うための容器であって、階段を持って上がるためのものではない、と割り切って考えるのが現実的です。
では、階段を上るときは何で運ぶのか。ここが「据え置き」と「運搬」を分けて考える理由です。手で提げる形のタンクは、平地なら問題なく運べます。しかし階段では、手すりを持てないことが致命的になる。両手が空くかどうかが、10階と1階を往復できるかどうかを決めます。
サンウエイの「リュック型ウォーターバッグ ST-96」は、6リットルのバッグが2個セットになった、背負う形の給水袋です。1個で6リットル、つまり満タンでおよそ6キロ。2個あれば、家族で2人ぶん同時に運ぶこともできます。公式サイトの仕様ページは当サイトで確認できていないため、容量と個数の表示以外の数値は書きません。据え置きのタンク(10リットル)と役割が違うので、どちらか一方ではなく、置く用と運ぶ用で分けるのが、階段を使う前提の建物では合理的です。
水まわりで買うものは、役割が3つに分かれる
- 置く…保存水。エレベーターが止まる前に部屋にある量がすべて
- 受ける…折りたたみタンク。給水栓や給水車から部屋へ持ち帰り、据え置いて使う
- 背負う…リュック型ウォーターバッグ。階段で手すりを使うために両手を空ける
バルコニーは共用部分で、置いていいものが決まっている
専用使用権とは、敷地または共用部分等の一部について、特定の区分所有者だけが使用できることを承認された権利のことです。国土交通省のマンション標準管理規約(単棟型)では、バルコニー・玄関扉・窓枠・窓ガラス・1階に面する庭・屋上テラスといった「バルコニー等」について、区分所有者に専用使用権を認める構成が取られています。専用使用権の対象は共用部分等の一部であることが前提なので、バルコニーは共用部分、という整理です。
同じ規約には、バルコニー等の保存行為のうち「通常の使用に伴うもの」は専用使用権者が自分の責任と負担で行う、という趣旨の規定もあります。掃除や日常の手入れは住んでいる人がやる。しかし、そこは自分の所有物ではない。この二重構造が、「自分のベランダなのに置きたいものが置けない」という感覚の正体です。
では、どれだけ空けておく必要があるのか。ここは正直に書きます。全国共通の離隔距離を定めた数値基準は、今回の調査では確認できませんでした。避難ハッチの前を何センチ空けるべきか、隔て板の前に何を置いてはいけないかを全国一律に定めた条文には、到達できていません。
確認できた数値基準は1つだけです。大阪市の「高層建築物等に係る防災指導基準」では、一時避難場所(バルコニーを含む)の幅員を60センチメートル以上とすることと定めています(大阪府内建築行政連絡協議会「高層建築物等の防災措置に関する要綱」に基づく行政指導基準)。これは大阪市の基準であって、全国の数値ではありません。他の自治体にお住まいなら、消防署や管理会社に確認するのが確実です。
バルコニーに保存水の箱や防災用品を置く前に、避難ハッチの位置、隔て板(蹴破り戸)の位置、そして自分の建物の規約と管理組合の申し合わせを確認してください。置いてはいけないものの具体例はマンションのベランダに置いてはいけない物にまとめています。
管理組合が備えるものと、各戸で備えるものを分ける
防災備蓄の分担とは、管理組合が共用部に置くものと、各住戸が専有部に置くものを、品目ごとに決めておく作業のことです。これをやらないと、二重に買うか、どちらも買わないかのどちらかになります。
参考になるのが、大阪市の「マンション防災力向上アクションプラン」ガイドブックに載っている備蓄品一覧例です。この一覧のつくりが、そのまま考え方を示しています。多くの品目で「管理組合」と「各家庭」の両方にチェック欄が置かれている。つまり、どちらか一方が持つのではなく、両者で分担して備える設計になっているわけです。
| 品目 | 管理組合の欄 | 各家庭の欄 | この記事での読み方 |
|---|---|---|---|
| 飲料水 | ✓ | ✓ | 共用備蓄は全戸分には足りない前提で、各戸が数日分を持つ |
| 食糧 | ✓ | ✓ | 同上。共用は炊き出し用、各戸は在宅避難用と役割が違う |
| し尿処理(簡易トイレ) | ✓ | ✓ | 共用は共用トイレ・閉じ込め用。各戸は自宅のトイレ用 |
| エレベーター閉じ込め対策キャビネット(飲料水・簡易トイレ) | ✓ | ✓ | かごの中に置くもの。個人では設置できないので管理組合に確認する |
| 救出救助資器材(バール・ハンマー・ジャッキ・ヘルメット等) | ✓ | ✓ | 重量物は共用倉庫向き。ヘルメットは各戸でも持てる |
| 消火器具 | ✓ | ✓ | 共用部の設置は管理組合。住戸内は各戸の判断 |
| AED | ✓ | ✓ | 実質は管理組合の設置物。使える人がいるかは訓練の話になる |
| 災害用炊き出しセット | ✓ | ✓ | 共用で持つほうが効率がよい代表例 |
この表で言いたいのは、個々の品目より「両方の欄がある」という構造そのものです。管理組合が備えているから各戸は要らない、という発想が成り立たないことを、大阪市の一覧は形で示しています。実際にどちらがどれだけ持つかは、各マンションの管理組合が決める話です。

自分のマンションの防災倉庫に何が入っているかを知らないまま買い足すと、二重に買う無駄が出ます。倉庫の中身と各戸で足すものの線引きはマンションの防災倉庫には何が入っている?各戸で足すものの線引きで扱いました。
今週、管理会社に聞くことリスト
- うちの給水方式はどれですか(直結直圧/増圧直結/貯水槽水道(高置水槽)/貯水槽水道(加圧ポンプ)/特例直圧)
- 受水槽がある場合、非常用給水栓は付いていますか。鍵は誰が持っていますか
- 排水は自然流下ですか。汲み上げポンプを使っている住戸はありますか
- エレベーターに地震時管制運転装置は付いていますか(2009年9月28日より前の設置かどうか)
- 防災倉庫には何が入っていますか。各戸に配布する予定のものはありますか
- 停電時の非常用電源で動かせるのは、水の供給とエレベーターのどちらですか
東京とどまるマンションは、2026年6月から5段階評価になった
東京とどまるマンションとは、災害時に在宅避難ができる備えを整えたマンションの情報を、東京都が登録・公表する制度のことです。正式名称は「東京とどまるマンション情報登録・閲覧制度」。令和5年(2023年)1月に始まりました。所管は東京都住宅政策本部民間住宅部マンション課で、登録申請の実務は公益財団法人東京都防災・建築まちづくりセンターが処理しています。
この制度は現行ですが、2026年6月5日付で仕組みが刷新されたばかりです。従来は「登録されているか、いないか」の二択でした。改正後は、非常用電源/エレベーター閉じ込め防止対策/早期復旧対策/防災備蓄資器材という4つのハード対策と、防災訓練等のソフト対策の組み合わせに応じて、☆1から☆5までの5段階で表示されます。
登録要件も変わりました。耐震性を有すること、停電時でも水の供給とエレベーター運転に必要な最小限の電源を確保していること、防災マニュアルを策定・運用していることに加えて、「年1回以上の防災訓練の実施」または「安否確認方法の構築」のいずれかへの取組が新たに必須化されています。登録件数は令和8年(2026年)6月30日現在で1,021件です。
東京とどまるマンションの評価基準(2026年6月改正後)
- ハード対策4項目…非常用電源/エレベーター閉じ込め防止対策/早期復旧対策/防災備蓄資器材
- ソフト対策…年1回以上の防災訓練の実施、または安否確認方法の構築のいずれか
- 評価…上記の組み合わせに応じて☆1から☆5までの5段階で表示
注目したいのは、要件の中に「停電時でも水の供給とエレベーター運転に必要な最小限の電源」が入っていることです。この記事が判定軸に選んだ2つと、行政が要件に選んだ2つが一致している。マンションで先に問題になるのは水と縦移動だ、という見立ては、制度の側からも裏づけられます。
訓練が要件に入った点も見逃せません。年1回以上の防災訓練か、安否確認方法の構築か。住民の側から見れば、訓練の場は自分の建物の設備を確かめる機会でもあります。何を確かめておくとよいかはマンションの防災訓練で住民が確かめることに整理しました。
この記事の判定が当てはまらないケース
判定表は万能ではありません。次の条件に当てはまる場合、前提そのものが変わります。
- 3階までの低層で、直結直圧給水、エレベーターなし…停電しても水が出る可能性があり、縦移動の制約もありません。備えの内容は戸建てに近づきます。判定表の1行目だけを見れば十分です
- 自主管理で、聞ける管理会社がない…給水方式は水道局の窓口や、竣工図書(管理組合が保管)で確認する必要があります。時間がかかるので、確認と並行して携帯トイレだけは先に用意しておくのが現実的です
- 2009年9月28日より前に設置されたエレベーター…地震時管制運転装置は既設に遡及適用されません。装置がない前提で、閉じ込めへの備え(かご内キャビネット)を管理組合に確認するところから始まります
- 地下階・半地下の住戸…排水を汲み上げポンプに頼っている場合、停電中はそもそも排水できません。給水方式の議論より先に、排水の条件を確認してください
- 賃貸で、共用部の情報が入ってこない…管理会社への確認は借主でもできます。ただし共用部の改善(防災倉庫の設置など)には関与できないため、専有部の備えに寄せる判断が必要です
- 東京都以外にお住まいの場合…「東京とどまるマンション」の節は当てはまりません。同種の制度がある自治体もあるので、お住まいの自治体の住宅部局で確認してください
また、この記事は「在宅避難ができる前提」で買うものを並べています。建物に損傷がある場合、余震が続いている場合、火災や津波のおそれがある場合は、自宅にとどまる判断そのものが成り立ちません。避難するかどうかの判断は、お住まいの自治体や気象庁など公的機関が出す情報に従ってください。この記事は、公表されている資料を整理して買い物の順番を考えるためのものであり、避難行動を指示するものではありません。
マンション防災の全体像
よくある質問
マンションでも水は1人9リットルでいいですか
内閣府が示している目安は、飲料水が1人1日3リットル、それを3日分で計9リットルです。マンションだから上乗せせよ、という公的な基準は今回の調査では確認できませんでした。ただしマンションでは「必要量」より「運べる量」がボトルネックになるため、上の階ほど早めに置いておくという発想の切り替えが要ります。飲料水と生活用水を分けた考え方は水の備蓄は1人何リットル?飲料水と生活用水の必要量・本数早見表をご覧ください。
携帯トイレは何回分あればいいですか
回数の計算については、この記事では扱いません。人数と日数から必要回数を出す式と早見表を簡易トイレは何回分必要?1人1日5回×人数×日数の計算式と早見表に用意していますので、そちらで計算してください。この記事で言えるのは、マンションでは戸建てより優先順位が上がるという順番の話までです。
エレベーターは何日で復旧しますか
日数の目安は、日本エレベーター協会の公式文書には記載がありません。記載があるのは復旧の優先順位で、一般の建物は5番目、高さ概ね60メートル以上の高層住宅でも4番目です。また1つのビルに複数台ある場合は、まず1台の復旧を優先する運用が示されています。「いつ戻るか」ではなく「戻るまでの生活が成り立つか」で備えるほうが、判断としては確実です。
ベランダに防災用品を置いてもいいですか
バルコニーは共用部分で、区分所有者に専用使用権が認められている領域です。避難ハッチや隔て板の前をふさぐような置き方はできません。ただし、全国共通の離隔距離の数値基準は今回確認できませんでした。確認できたのは大阪市の基準(一時避難場所の幅員60センチメートル以上)だけです。実務的には、管理組合の規約と管轄の消防署への確認が確実です。詳しくはマンションのベランダに置いてはいけない物へ。
賃貸マンションでも、この判定表は使えますか
使えます。階数と給水方式と排水方式は、所有形態と関係なく建物の仕様だからです。管理会社への問い合わせも借主からできます。違ってくるのは共用部への関与で、防災倉庫の設置や備蓄の拡充といった話には入りにくい。そのぶん専有部の備えに寄せることになります。家具固定を穴を開けずに行う方法は賃貸の家具固定は穴を開けずにできる?東京消防庁が示す「2つ組み合わせ」の根拠と器具の公表値で扱っています。
共用部に非常用電源があれば、水は止まりませんか
非常用電源があっても、何を動かすかは建物ごとに違います。給水ポンプに接続されていなければ水は止まりますし、エレベーター1台だけを動かす設計のこともある。「東京とどまるマンション」の登録要件が「水の供給・エレベーター運転に必要な最小限の電源」という言い方をしているのは、この2つが優先される前提があるからです。自分の建物で何が動くかは、管理会社に個別に確認してください。
携帯トイレを何回分そろえるかは、簡易トイレは何回分必要?1人1日5回×人数×日数の計算式と早見表で計算できます。マンションでは、その数字に着手する順番が戸建てより前に来る、というのがこの記事の話でした。
まとめ
マンションで買うものが戸建てと違うのは、階数と設備が違うからです。排水管の確認が済むまで水を流せないから携帯トイレが先に来る。停電でポンプが止まるから、上の階では水を「運ぶ」ではなく「置く」で考える。エレベーターが止まるから、明かりは移動の道具になる。理屈は、この3つだけです。
そして、そのすべての入口にあるのが給水方式の確認です。ここが分かれば判定表の行が1つに決まり、買うものの順番が決まります。逆にここを飛ばすと、判定表は使えません。
- 自宅の給水方式を確かめる。管理会社に電話するか、エントランスの掲示板・管理規約・竣工図書を見る。これが今日やることです
- 判定表から自分の行を1つ選ぶ。階数・給水方式・排水の条件の3つで、当てはまる行は1つに絞れます
- 携帯トイレ → 防臭袋 → 保存水 → 運搬具 → 明かりの順に足す。全部そろえてから始めるのではなく、この順番で1つずつ増やす
繰り返しになりますが、避難するかどうかの判断は、お住まいの自治体や気象庁などの公的機関が出す情報に従ってください。この記事は、公表されている資料をもとに買い物の順番を整理したものです。
参考・出典
- 東京都水道局「給水方式」https://www.waterworks.metro.tokyo.lg.jp/kurashi/chokketsu/houshiki(2026年9月6日確認)
- 公益社団法人空気調和・衛生工学会「集合住宅の災害時のトイレ使用マニュアル作成手引き」(2020年6月)/独立行政法人住宅金融支援機構 広報誌転載版https://www.jhf.go.jp/files/a/public/jhf/400361281.pdf(2026年9月6日確認)
- 東京都下水道局「災害時のトイレ」https://www.gesui.metro.tokyo.lg.jp/living/takuchi/toilet_disaster(2026年9月6日確認)
- 国土交通省「エレベーターの安全確保について」(建築基準法施行令第129条の10第3項第2号、平成20年12月26日国土交通省告示第1536号、2009年9月28日施行)https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/build/jutakukentiku_house_fr_000012.html(2026年9月6日確認)
- 国土交通省住宅局建築指導課長通知「国住指第4293号」(平成31年4月2日付)https://www.mlit.go.jp/common/001284283.pdf(2026年9月6日確認)
- 一般社団法人日本エレベーター協会「大規模地震発生時のエレベーター早期復旧等に関するご協力のお願い」(2015年4月8日付)https://www.n-elekyo.or.jp/docs/20150408_elesoukifukkyu_hp.pdf(2026年9月6日確認)
- 国土交通省「マンション標準管理規約(単棟型)及び同コメント」https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/mansionkiyaku.html(2026年9月6日確認)
- 大阪市「高層建築物等に係る防災指導基準」https://www.city.osaka.lg.jp/shobo/cmsfiles/contents/0000213/213007/20231023bousai.pdf(2026年9月6日確認)
- 大阪市「マンション防災力向上アクションプラン」ガイドブック(備蓄品一覧例)https://www.city.osaka.lg.jp/toshiseibi/cmsfiles/contents/0000328/328319/15_owarini_bichiku.pdf(2026年9月6日確認)
- 東京都報道発表「東京とどまるマンションの登録表示制度の見直し」(2026年6月5日)https://www.metro.tokyo.lg.jp/information/press/2026/06/2026060510(2026年9月6日確認)
- 東京都「東京とどまるマンション情報登録・閲覧制度」https://www.mansion-tokyo.metro.tokyo.lg.jp/kanri/02lcp-touroku.html(2026年9月6日確認)
- 内閣府 防災情報のページ 広報ぼうさい「特集3 地震に備える」(家庭内備蓄の目安)https://www.bousai.go.jp/kohou/kouhoubousai/h28/83/special_03.html(2026年9月6日確認)
- クリロン化成「BOS ストライプ」製品ページhttps://bos-bos.com/product/stripe/(2026年8月10日確認)
- GENTOS「EX-136S」製品ページhttps://www.gentos.jp/products/series/explorer/ex-136s/(2026年8月10日確認)
- 山善 カタログサイト(折り畳みウォータータンク YWT-10 掲載)https://book.yamazen.co.jp/(2026年8月10日確認)
