マンションの防災訓練で住民が確かめること|年2回の義務は共同住宅にはない

※本記事にはプロモーションが含まれます。

エントランスの掲示板に、日曜の朝の防災訓練の案内が貼られている。参加はするつもりだけれど、集合して消火器の説明を聞いて解散、で毎年終わっている——そんな引っかかりを抱えたまま当日を迎える人は少なくありません。

先に答えを置きます。共同住宅に「年二回以上」という法定の訓練回数はありません。消防法施行規則第3条第10項が年二回以上を義務づけているのは、令別表第一の(一)項から(四)項まで、(五)項イ、(六)項、(九)項イ、(十六)項イ、(十六の二)項に掲げる防火対象物です。マンション、つまり共同住宅が入る(五)項ロは、このリストに含まれていません。回数を決めているのは法律ではなく、各マンションが作った消防計画のほうです。

だから「うちは年1回しかやっていないが違法では」と心配する必要はない、という話で終わらせたくありません。回数が一律に決まっていないぶん、その1回をどう使うかが住民側に返ってきます。管理組合が訓練を企画する話ではなく、参加した一住民が何を見て、何を書き留めて帰るか。ここを設計するのが本記事の役目です。

この記事でわかること

  • 共同住宅に年2回の法定訓練義務が無い理由と、条文のどこを見ればよいか
  • 自分のマンションの訓練回数を決めている「消防計画」の探し方
  • 訓練当日の10分で住民が確かめる、書き込み式のチェックリスト
  • 高層階で変わること(長周期地震動、エレベーターの管制運転装置の設置時期)
目次

共同住宅に「年二回以上」は課されていない

防火管理者が行う消火訓練・避難訓練とは、あらかじめ作成した消防計画のとおりに人と手順を動かし、その通りに動けるかを確かめる作業です。法律が定めているのは、この作業を「誰が」「どの建物で」「何回」やるか。順に見ていきます。

消防法施行規則第3条第10項は、防火管理者に対して消火訓練および避難訓練を年二回以上実施することを求めています。ただし対象は限定列挙で、令別表第一の(一)項から(四)項まで、(五)項イ、(六)項、(九)項イ、(十六)項イ、(十六の二)項。劇場や飲食店、物品販売店舗、病院、ホテルなど、不特定多数が出入りする用途がここに並びます。

一方、共同住宅は令別表第一(五)項ロに区分されます。(五)項ロは「寄宿舎、下宿、共同住宅」で、先ほどの列挙のどこにも顔を出しません。つまりどういうことかというと、マンションの訓練回数は法律が数字で決めておらず、そのマンションの消防計画に書かれた回数が答えになるということです。年1回のところもあれば、年2回のところも、季節を変えて実施しているところもあります。

区分 令別表第一の項 年二回以上の義務 回数の決まり方
劇場・飲食店・物販店・病院など (一)〜(四)項、(六)項ほか あり(規則第3条第10項) 法令が下限を規定
マンション(共同住宅) (五)項ロ 条文の対象外 そのマンションの消防計画
1階に店舗が入る複合用途の建物 (十六)項イに該当しうる あり(同項に列挙) 法令が下限を規定

混同しやすい2つの数字

「50人」という数字を聞いたことがあるかもしれませんが、これは訓練回数の話ではありません。消防法施行令第1条の2第3項により、共同住宅は収容人員50人以上で防火管理者の選任義務が生じます。選任義務(誰を置くか)と訓練回数(何回やるか)は別の条文です。

誤解のないように書き添えます。回数が法定されていないことは、訓練をしなくてよいことを意味しません。むしろ逆で、数字が外から与えられていないぶん、自分のマンションの消防計画を読みにいくのが正解になります。

消防計画はどこにあるか

  • 管理組合の理事会資料・書庫(防火管理者の選任届と一緒に綴じられていることが多い)
  • 管理会社の担当者(フロント)に写しを依頼する
  • 所轄の消防署に届け出た控えが管理側にある
  • 訓練当日、防火管理者を務めている人に「うちは年何回で計画していますか」と直接聞く

訓練の日に住民が確かめる10分をつくる

ここでいう「確かめる」は、設備を操作することではありません。位置と順番を目で見て、紙に書いて持ち帰る——それだけの作業を指します。集合訓練の前後、10分あれば足ります。

下のリストは印刷して持っていく前提で作りました。空欄を埋めて冷蔵庫に貼れば、それがそのまま我が家の防災地図になります。

  • 自分の住戸から最も近い消火器の位置 →(   階・       付近)
  • 屋内消火栓の扉の位置 →(   階・       付近)
  • スタンドパイプ等の保管場所(あれば)→(            )
  • 階段は何か所あるか、自分が使う順番 →(第1:   /第2:   )
  • 安否確認の掲示物(無事ですカード等)の配布元と自宅での置き場所 →(        )
  • エレベーターが地震時に停止する階 →(   階)
  • 防災倉庫・受水槽・非常用電源の位置 →(            )

安否確認の掲示物は、自治体が作って全戸配布している例があります。熊取町は「無事ですカード」を作成して全戸に配り、玄関ドアの外側に掲示して安否確認を効率化する使い方を案内しています(2026年8月19日確認時点)。訓練の日に配られたなら、帰宅後すぐ玄関の内側、手が届く高さに貼っておくのが実用的です。しまい込んだカードは災害時に出てきません。

消火設備を勝手に操作しないでください

スタンドパイプは、消火栓や排水栓を活用する住民向けの初期消火手段として東京消防庁が講習や動画で解説しています。ただし実際の放水を伴う訓練は、事前に消防署へ届け出たうえで消防職員の立会いが必須とされています(2026年8月19日確認時点)。訓練当日に住民が確認するのは「どこに、どんな形でしまわれているか」までにとどめ、操作は必ず消防や防火管理者の指示のもとで行ってください。

避難経路については、階段だけを見て終わらせないのがコツです。マンションのベランダは多くの場合、隣戸へ抜けるための避難経路として設計されています。仕切り板の前に物置を置いていないか、避難ハッチの上に自転車が乗っていないか——訓練の日は堂々とベランダを点検できる口実の日でもあります。詳しくはマンションのベランダは避難経路(隔て板と避難ハッチ)で整理しました。

エレベーターは「止まる階」を聞いて帰る

地震時管制運転装置が付いていれば、エレベーターは揺れを検知して最寄り階に停止し、扉を開きます。訓練の日に管理員や防火管理者へ聞いておきたいのは、その「最寄り階」がどこに設定されているか、そして自分が帰宅したときにどう動くか、の2点です。閉じ込めが起きた場合の初動は地震でエレベーターに閉じ込められたら最初にやる3つにまとめています。

閉じ込めで効いてくるのは、結局スマートフォンの電池です。かご内は電波が入りにくいことがあり、インターホンでのやり取りを待つあいだも画面は明かりとして働き続けます。エレコムの半固体モバイルバッテリー「EC-C61MN」は公表重量220g。スマートフォン1台半ほどの重さで、バッグの底に入れっぱなしにしておける範囲です。半固体電池を採用したモデルで、置きっぱなしの携行を前提にしたいときの選択肢になります。

住戸の中でこそ試すことがある

住戸内訓練とは、共用部の集合訓練が終わったあと、玄関の内側で続ける15分ほどの自主点検のこと。当サイトの家族の防災会議で決める5つのことが「決める」担当なら、この章は「実際にやってみる」担当です。決めたはずのことが、やってみると意外に動かない。そこを見つけるのが目的になります。

試すこと 目安時間 使う道具 つまずきやすい点
玄関ドアを全開にして固定する 1分 ドアストッパー 三和土に物が置かれていて開き切らない
家具を手で前後に押してみる 3分 なし 突っ張り棒が天井の弱い位置に当たっている
水道を使わずに1食を用意する 5分 ポリ袋・カセットこんろ 洗い物が出る前提の献立を選んでしまう
照明を消して手元だけで動く 5分 ランタン・懐中電灯 電池が液漏れしている・置き場所が寝室と離れている

玄関ドアの確認は、地味ですが優先度が高い項目です。ドアストッパーが手の届く場所にあるか、たたきに置いた靴や傘立てが全開を邪魔しないか。頭で知っていることと、実際にドアが壁まで開き切ることは別問題です。訓練の日に一度やっておくと、玄関に何を置いてはいけないかが体でわかります。

キャスターの付いた家具は特に見ておきたいところです。ロックをかけたつもりでも、片側だけ効いていないケースは珍しくありません。手で押して動くようなら、それは揺れでも動きます。

照明を消して動く練習は、夜にやるほど効果があります。停電時はブレーカーの操作や情報収集の順番も変わってくるので、停電時の情報収集の手段と電池を守る設定とあわせて試してみてください。このとき、スマートフォンのライトを明かりの主役にしないのが鉄則です。電池を照明に使い切ると、連絡手段が消えます。

据え置きの明かりとしては、GENTOSのLEDランタン「EX-136S」が扱いやすい部類です。公表重量355g、350ml缶1本とほぼ同じ重さで、階段の踊り場に置いても、住戸内でテーブルに載せても収まります。共用部が停電したときに片手をふさがずに移動できるかどうかは、実際に持って歩いてみないと判断がつきません。

そなえぐらし管理人
この記事、最初は「訓練メニューの作り方」で書こうとしていました。でも調べるほど、その情報は自治体のページに十分あるんですよね。編集部として残す価値があるのは、参加した人が持ち帰るぶんのほうだと判断して構成を組み替えました。

高層階は揺れ方も戻り方も変わる

長周期地震動とは、規模の大きな地震で生じる周期の長いゆっくりとした揺れで、高い建物ほど大きく、長く揺れる現象を指します。気象庁は2023年(令和5年)2月1日12時00分から、この長周期地震動を緊急地震速報の発表基準に加えました。長周期地震動階級3以上が予想される場合に警報を発表し、階級4は特別警報に位置づけられています。

気象庁が示す長周期地震動階級では、階級ごとに人の体感と行動がおおむね次のように整理されているとされています。訓練の日に高層階の住民が確認しておきたいのは、「階級が上がると何が難しくなるか」の部分です。

階級 人の体感 行動の目安 室内の家具
1 ほとんどの人が揺れを感じ、驚く人もいる その場で身を守る
2 物につかまりたいと感じる つかまらないと歩きにくい キャスター付き家具がわずかに動く
3 立っていることが困難 移動をあきらめる判断が要る キャスター家具は大きく動き、固定していない家具が倒れることも
4 立っていることができない はわないと動けない 固定していない家具の大半が移動・転倒

この表が伝えているのは、揺れの強さそのものより「歩けなくなる」という一点です。階段まで走る、玄関を開けに行くといった行動は、階級3や4では前提が崩れます。動けない時間があるという想定に立てば、家具の固定や玄関まわりの片づけを平時に済ませておく意味がはっきりします。訓練の日にやるべきことも、そこから逆算して決まります。

エレベーターの管制運転装置には「設置時期」がある

建築基準法施行令第129条の10第3項第2号により、地震時管制運転装置は2009年(平成21年)9月28日から設置が義務化されました。地震等の加速度を検知して自動的にかごを昇降路の出入口の戸の位置に停止させ、戸を開くことができる安全装置です。裏を返すと、それ以前に建てられた建物には付いていない可能性があります。訓練の日に「うちのエレベーターに管制運転装置は付いていますか」と聞くだけで、帰宅時の行動が変わります。

もうひとつ、高層階では停電と断水の順番が地上階と違って見えます。ポンプで水を押し上げている建物では、電気が止まると水が先に来なくなる。この関係はマンション高層階の停電と断水(先に止まるのは水)で詳しく扱いました。訓練で階段を上り下りする機会があれば、水を運ぶ側の視点で段数を体感しておくと、備蓄量の実感が変わります。

在宅避難は訓練の前提を変える

在宅避難とは、東京都港区の説明によれば「災害時においてご自宅に倒壊や焼損、浸水、流出の危険性がない場合に、そのままご自宅で生活を送る方法」です。同区は在宅避難が可能な人にはできる限り避難所へ行かず自宅で避難するよう案内しています(2026年8月19日確認時点)。マンションは構造上、この選択が現実的になりやすい住まいだといえます。

ここで注意したい点をひとつ。国レベルでは、高層マンションが密集する地域の避難所混雑を避けるため、在宅避難を前提とした指針の策定が検討されているという報道があります。ただし指針そのものはまだ公表されていません(2026年8月19日確認時点)。「国の指針で決まっている」と受け取らないでください。

在宅避難を前提にすると、訓練で確かめる対象も変わります。逃げる練習より、留まる練習の比重が上がるからです。留まるためには水と食料とトイレが要り、それをどこに置くかという問題が必ず出てきます。置き場所を1か所に集めると、その部屋が使えなくなった時点で全部失う。分散のしかたはマンションの備蓄の置き場所(4か所に分ける収納マップ)にまとめてあるので、訓練の日の宿題として持ち帰るのに向いています。

東京都は「東京都マンション防災ガイドブック」(概要版・全文版)を発行しています。マンションごとの実情に応じて対策を組み立てるための手引きで、管理組合に配られている場合があります。自分のマンションの消防計画を読むときの副読本として役立ちます(2026年8月19日確認時点)。

全国の訓練の日に自宅の予定を合わせる

全国緊急地震速報訓練とは、気象庁・消防庁・内閣府が平成20年度から年2回のペースで実施している、実際の速報と同じ音を全国で流す訓練です。令和8年度は第1回が2026年6月17日に実施済み、第2回は2026年11月5日の10時頃に実施予定とされています(2026年8月19日確認時点)。

マンションの集合訓練が年1回なら、この日を「2回目」に充てる手があります。管理組合の日程調整は要りません。10時に速報の音が鳴ったら、その場で頭を守り、玄関を開け、家具の前から離れる。1分で終わります。日付が外から決まっているぶん、続けやすいのが利点です。

この記事が当てはまらないケース

ここまでの前提は「防火管理者と消防計画があるマンションに住む一住民」です。その枠から外れる住まいでは、読み替えが必要になります。

  • 戸建て住宅——共用部・消防計画・管理組合という前提そのものがありません
  • 収容人員が50人未満の小規模マンション——消防法施行令第1条の2第3項の基準に届かず、防火管理者の選任義務が生じない場合があります。この場合、訓練は住民の自主的な取り組みという位置づけです
  • 1階に店舗や飲食店が入る複合用途の建物——令別表第一(十六)項イに該当する場合、年二回以上の訓練が求められる側になります。自分の建物がどちらかは消防計画で確認してください
  • 賃貸で管理会社が消防計画を開示していない場合——まずは管理会社に問い合わせるところが出発点です

よくある質問

Q. 防災訓練に参加しないと罰則がありますか?

消防法施行規則第3条第10項が名宛人としているのは防火管理者です。条文は「防火管理者は…実施しなければならない」という形で、住民一人ひとりの参加回数を定めた規定ではありません。ただし参加しないと、消火器の位置も階段の本数も、いざというときに知らないままになります。義務かどうかより、持ち帰るものがあるかどうかで判断するほうが実利があります。

Q. うちのマンションは年1回だけです。法令違反ではないですか?

共同住宅(令別表第一(五)項ロ)は、年二回以上を義務づける消防法施行規則第3条第10項の対象に列挙されていません。年1回であること自体が直ちに違反になるわけではなく、判断の基準になるのはそのマンションの消防計画に定めた回数です。まず消防計画の記載を確認してください。

Q. タワーマンションには特別な訓練回数の決まりがありますか?

高さによって訓練回数が変わるという規定は、今回確認した消防法施行規則第3条第10項の中にはありません。ただし低層階に店舗が入る複合用途の場合は扱いが変わります。回数より、長周期地震動やエレベーターの管制運転といった高層階固有の確認項目に時間を使うほうが、訓練の密度は上がります。

Q. スタンドパイプや消火栓は住民が触ってよいのですか?

東京消防庁はスタンドパイプを住民の初期消火手段として講習・動画で解説していますが、実際の放水を伴う訓練には事前の届出と消防職員の立会いが必要とされています(2026年8月19日確認時点)。個人の判断で操作せず、訓練は必ず消防や防火管理者の指示のもとで行ってください。

まとめ:今日やることは1つだけ

今日やるのは、自分のマンションの消防計画に訓練回数が何回と書かれているかを確認すること。これだけです。掲示板を見る、管理会社に電話する、次の理事会の資料を見せてもらう——どの入口でも構いません。回数がわかれば、次の訓練の日が「参加する日」から「確かめる日」に変わります。

  1. 管理組合または管理会社に、消防計画の訓練回数と防火管理者の氏名を確認する
  2. 本記事のチェックリストを印刷し、次の訓練の日に空欄を埋めて持ち帰る
  3. 2026年11月5日10時頃の全国緊急地震速報訓練に合わせて、住戸内で1分の身の守り方を試す(2026年8月19日確認時点の予定)

訓練の日に確かめたことは、家の備蓄とセットにしてはじめて効きます。置き場所の設計はマンションの備蓄の置き場所(4か所に分ける収納マップ)、家族で決めることは家族の防災会議で決める5つのことにまとめてあります。

参考・出典

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この記事を書いた人

登山が趣味の会社員。山で非常食を食べてきた経験から「食べ慣れないものは災害時つらい」と実感し、家庭の備蓄を見直し中です。実際に買って食べたものだけ「おすすめ」と書きます。失敗も隠しません。

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