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大雨の予報が出た夜。スマホでハザードマップを開いたまま、指が止まってしまう。色が塗られているのは分かる。でもそれが「逃げる家」なのか「上に上がればいい家」なのかが読み取れない。買い物リストより先に欲しいのは、たぶんその答えのほうです。
水害の備蓄品は、実のところ地震の備蓄と八割がた同じです。飲料水は農林水産省の目安で1人1日3L、最低3日分で9L。携帯トイレは経済産業省が1人当たり週35回分を推奨しています。変わるのは残りの二割――「水が家に入ってくる」ことに由来する備えだけです。
だから水害の備えは、地震の備蓄に7つ足せば足ります。ただしその前に、自宅の浸水想定を1回だけ調べてください。浸水深が50cmで止まる家と2階の軒下まで届く家では、足すものも当日の動き方も違うからです。
- 水・食料・携帯トイレの必要量は地震の備蓄と同じ(水は1人1日3L・最低3日で9L/携帯トイレは1人週35回分)
- 先にやるのは買い物ではなく、国土交通省「重ねるハザードマップ」で自宅の浸水深を調べること
- 浸水深0.5mが歩行避難の分かれ目。自動車は30〜50cmでエンジンが停止する
- 足すのは7つ(水のう・防水・トイレ増量・停電対策・清掃用品・上階に運べる形・足元の予備)
人数×日数で必要量を出す作業は、水害でも地震でも共通の土台です。そこは家庭の備蓄品リスト完全版|人数×日数でわかる必要量早見表に委ねます。この記事は、その上に「浸水の分」を積む話だけをします。
水害の備蓄は、地震の備蓄に「浸水」の分を足したものである
水害の備蓄とは、断水・停電・食料の途絶に備えた共通の備蓄に、「家に水が入る」「水が引いたあと家が汚れる」という水害固有のリスクへの備えを上乗せしたもの、である。
検索して出てくる備蓄リストの多くは、地震を想定して作られています。どれも正しい。けれど水害では、玄関から水が入り、1階の段ボールが濡れて使えなくなり、水が引いたあとに泥の掻き出しが待っています。つまり足りないのは「量」ではなく「種類」です。9Lを18Lに増やしても、浸水した1階に置いてあれば同じことになります。
この記事の核
水害の備蓄=地震の備蓄(水・食料・トイレ・衛生)+浸水固有の7つ。そして7つの中身は、自宅の想定浸水深で決まる。
直前に買い足せるものは台風前に買っておくものへ。ここでは、予報が出てからでは間に合わない部分を扱います。
最初にやるのは買い物ではなく、自宅の浸水深を1回調べることである
想定浸水深とは、洪水などが起きたときに、その場所がどのくらいの深さまで水に浸かると想定されているかを示した値、である。
入口は「重ねるハザードマップ」です。国土交通省の報道発表資料によれば、住所を入力し「洪水」を選ぶと、想定最大規模の洪水浸水想定区域が地図に重なって表示されます。
- 「重ねるハザードマップ」(ハザードマップポータルサイト)を開く
- 自宅の住所を入力し、災害の種別で「洪水」を選ぶ
- 自宅の位置に重なった色と、その色が示す浸水深のランクを確認する
- スクリーンショットで残す(当日は回線が混むため)
同ポータルのFAQでは、表示は6〜8段階のランクであり、数値の詳細は各河川管理者または「浸水ナビ」を参照するように、と明記されています。地図の色は「だいたいこの帯」を示すもの、と受け取るのが正確です。
浸水深は、身体の高さに置き換えると判断しやすい
ランクの数字だけでは実感に結びつきません。国土交通省「川の防災情報」が示す浸水深と被害の対応を、身体の高さと並べます。
| 浸水深 | 建物の被害の目安 | 身体の高さでいうと | 移動への影響(同資料より) |
|---|---|---|---|
| 0〜0.5m | 床下浸水 | 膝まで | 0.5m超で女性は歩行が困難に。自動車は30〜50cmでエンジンが停止 |
| 0.5〜1.0m | 床上浸水 | 腰まで | 0.7m超で男性も歩行が困難に |
| 1.0〜2.0m | 1階の軒下まで | 頭を超える | 歩行避難は想定できない |
| 2.0〜5.0m | 2階の軒下まで | 2階の床を超える | 2階にいても水位が上がる可能性がある |
| 5.0m以上 | 2階の屋根以上 | 建物の高さ相当 | 建物内にとどまる想定が成り立ちにくい |
歩行が困難になる水深は、伊勢湾台風のデータをもとに同資料が示した数値です。0.5mは大人の膝の少し上。日常の感覚では「ちょっと深い水たまり」に見える高さで、すでに歩いて避難するのは難しくなっている。車も30〜50cmでエンジンが止まります。冠水した道を車で行く選択肢は、思っているより早く消えます。
【判定チェック】わが家は垂直避難でよいか、立ち退き避難が必要か
垂直避難とは上階へ移動して身を守る行動、立ち退き避難とはその場を離れる行動を指します。以下は、編集部が公的資料を並べ直して作った自己点検用のリストです。判断を代行するものではありません。当日の行動は、必ず自治体の避難情報と気象庁の情報に従ってください。
- 自宅の想定浸水深のランクをハザードマップで確認した
- 想定浸水深が、自宅で最も高い居住フロアの床面より低いか確認した
- 集合住宅なら、受変電設備・給水設備が地下や低層階にあるか確認した
- 家族に、階段の上り下りに介助が必要な人がいるか確認した
- 浸水想定区域の外へ出る経路と所要時間を整理した
- 避難先(自治体の指定緊急避難場所・親族宅など)を2か所以上書き出した
- 持病の薬やペットなど、移動時に必ず運ぶものを一覧にした
- 避難情報を受け取る手段(防災アプリ・緊急速報メール・防災行政無線)を確保した
チェックが埋まっても「垂直避難でよい」という結論にはなりません。国土交通省の資料が示すとおり、想定浸水深2.0m超の区域では2階の軒下まで水が届きます。上に上がれば安全、という一般則は成り立ちません。最終判断は自治体の避難情報と指示に従ってください。
地震の備蓄に足す7つ|水のう・防水・浸水後の清掃まで
ここからが買い物リストです。7つすべてに「何のために足すのか」を付けました。理由が分からないものは、いざというとき使われないからです。
| # | 足すもの | 何のために足すのか | 準備のメモ |
|---|---|---|---|
| 1 | 簡易水のう用のごみ袋 | 玄関や勝手口からの水の侵入を遅らせる | 取手市の案内では、大きめのごみ袋を2〜3重にし、半分程度水を入れて口を絞り、隙間なく並べる方法を紹介 |
| 2 | 土のう(土のう袋) | 簡易水のうで支えきれない量に備える | 詰め方・積み方は国土交通省 静岡河川事務所が一次解説を公開 |
| 3 | 貴重品・重要書類の防水ケース | 保険証券・通帳・母子手帳を浸水から守る | ジッパー付き袋でも可。上階へ運べる1箱に集約 |
| 4 | 携帯トイレの追加分 | 浸水で下水が使えなくなる状況に備える | 週35回分に対し、想定浸水深が深い家庭ほど厚めに |
| 5 | 停電への備え(バッテリー・ライト) | 浸水による設備停止に備える | 国交省・経産省のガイドラインでは、地下・低層階の受変電設備が浸水すると停電・機能停止が起きるとされる |
| 6 | 浸水後の清掃・衛生用品 | 水が引いたあとの片付けのため | ゴム手袋・長袖・マスク・ブラシなど。厚生労働省は被災家屋の清掃と乾燥の重要性、消毒の手順を案内 |
| 7 | 上階に運べる形にまとめた備蓄 | 判断が出たとき数分で上へ移せるように | 持ち上げられる重さに分割し、1階の床置きをやめる |
4番の携帯トイレは、想定浸水深が深い家ほど厚めにする
断水と下水の不通は別々に起きます。蛇口から水が出ても、流した先が使えなければトイレは使えません。経済産業省が推奨する1人当たり週35回分は、1日あたり5回分。家族4人なら1週間で140回分です。浸水すると下水が使えなくなることがあるため、水害を想定するなら厚めに見ておくのが現実的でしょう。
いまの在庫で足りているか、現在の価格と入り数を確認しておくと判断が早くなります。
断水そのものの初動は断水したらやること一覧、停電後の動き方は停電したらまず何をする?にまとめています。
足元については、断定を避けたい
「長靴か、運動靴か」はよく議論になります。内閣府の防災情報のページには、平成18年7月豪雨(諏訪市)の災害教訓事例として、「長靴が屋外で流され使えなかった」という被災者の証言が記録されています。
これは事例の紹介であって、「長靴は使うべきでない」という公的な推奨ではありません。編集部としては履物を1種類に決め打ちせず、替えの靴を上階に置く――という備え方を挙げるにとどめます。
警戒レベル別|いつ何をするかの対応表
警戒レベルとは、防災気象情報と避難情報を5段階に整理し、住民がとるべき行動を対応づけた仕組み、である。以下は気象庁「防災気象情報と警戒レベルとの対応について」の文言に沿います。
| レベル | 防災気象情報 | 避難情報の呼称 | とる行動 |
|---|---|---|---|
| 1 | 早期注意情報 | ― | 心構えを高める |
| 2 | 注意報・キキクル注意(黄) | ― | 避難先を確認する |
| 3 | 警報・キキクル警戒(赤) | 高齢者等避難 | 高齢者等は避難。他の人も自ら避難を判断する |
| 4 | 危険警報・キキクル危険(紫) | 避難指示 | 自ら避難を判断する |
| 5 | 特別警報・キキクル災害切迫(黒) | 緊急安全確保 | 直ちに身の安全を確保する |
目を引くのは、レベル2でやるべきことが「避難先を確認する」だという点です。買い物ではない。備蓄はレベルが上がる前に終わっているのが前提、と読めます。在宅にとどまる場合の準備は在宅避難の準備リストへ。ただしそれは、自宅が浸水想定区域の外にあるか、想定浸水深より高い階に安全に滞在できる場合の選択肢です。
この記事が当てはまらないケース
- 土砂災害の危険がある区域――前提が異なるため、土砂災害警戒区域を別途確認してください
- 高潮・津波の想定区域――洪水とは到達の速さも浸水深の考え方も違います
- 設備の位置が分からない集合住宅――受変電設備や給水ポンプの位置は管理会社への確認が要ります
- すでに避難情報が出ている状況――この記事は平常時の準備を扱っています。自治体の指示に従ってください
台風対策を場所別に整理する
よくある質問
Q. 水害の備蓄は、地震の備蓄と分けて用意すべきですか?
分ける必要はありません。水・食料・携帯トイレ・衛生用品は共通です。分けるべきは置き場所のほうで、浸水想定がある家では1階の床に置かない配慮が要ります。上階へ運べる重さに分割しておくと、判断が出たときに動けます。
Q. 浸水深は何mまでなら家にとどまれますか?
数値だけで線は引けません。国土交通省の資料では2.0〜5.0mで2階の軒下まで、5.0m以上で2階の屋根以上に達するとされますが、実際には建物の構造や浸水が続く時間、在宅者の状況が絡みます。とどまるか離れるかは、自治体の避難情報と気象庁の情報に従ってください。
Q. 浸水したあとの家は、どう片付ければよいですか?
厚生労働省が「被災した家屋での感染症対策」として、清掃と乾燥の重要性や消毒の手順を案内しています。市販品の効果について当サイトから断定的なことは書けませんので、手順は厚生労働省と自治体の案内をご確認ください。
Q. マンションの上層階なら備えは要りませんか?
浸水そのものが届かなくても、設備の被害は別です。国土交通省・経済産業省のガイドラインでは、令和元年台風19号で集合住宅の地下設備が水没し、エレベーターと給水が停止した事例が挙げられています。上層階ほど、階段の上り下りと断水が同時に来る想定が要ります。
まとめ:今日やることは1つ
買い物は明日でも間に合います。今日やる価値があるのは、自宅の浸水想定を1回だけ調べることです。
- 今日:重ねるハザードマップに自宅の住所を入力し、「洪水」の想定浸水深ランクを保存する
- 今週:判定チェック8項目を埋め、答えられなかった項目(設備の位置・避難先・情報の受け取り手段)を調べる
- 今月:浸水深のランクに合わせて足す7つを揃え、1階の床置きをやめる
そして当日見るのは、この記事ではなく自治体の避難情報と気象庁の情報です。備蓄は、その情報が出たときに迷わず動くための準備にすぎません。
出典(すべて2026年8月6日確認):
農林水産省「大事な水、どうやって備えますか?」/
内閣府 防災情報のページ(経済産業省記事の転載・携帯トイレの目安)/
国土交通省 報道発表資料(重ねるハザードマップ)/
ハザードマップポータルサイト FAQ/
国土交通省「川の防災情報」/
気象庁「防災気象情報と警戒レベルとの対応について」/
国土交通省 中部地方整備局 静岡河川事務所(土のうの作り方)/
取手市(簡易水のうの作り方)/
内閣府 防災情報のページ(災害教訓事例)/
国土交通省・経済産業省「建築物における電気設備の浸水対策ガイドライン」/
厚生労働省(被災した家屋での感染症対策)
