災害関連死は何が原因で起きるのか|公的統計の内訳から逆算する家庭の備え4つ

災害関連死は何が原因で起きるのか|公的統計の内訳から逆算する家庭の備え4つ

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災害で人が亡くなると聞いたとき、多くの人が思い浮かべるのは倒れた建物や津波の映像だと思います。災害関連死は、そこではありません。地震や津波そのものではなく、そのあとに続く避難生活のなかで亡くなることを指します。

数を見ると、それが例外的な出来事ではないことがわかります。東日本大震災の震災関連死は、2025年12月31日現在で3,810人が認定されました(復興庁・内閣府・消防庁)。令和6年能登半島地震では、2026年8月4日の審査会認定分までで関連死508人。同じ地震の直接死は228人ですから、亡くなった736人のうちおよそ7割は「地震のあと」に亡くなったことになります。

そしてこの数は、まだ動いています。能登半島地震の関連死は2025年12月25日時点で449人でした。それが2026年8月4日時点で508人。約7か月で59人増えています。地震の発生日は2024年1月1日です。発災から2年半が過ぎても、認定は続いています。

この記事でわかること

  • 災害関連死とは何か(内閣府の定義と、「震災関連死」との関係)
  • 過去の災害で何人が認定されているのか(東日本・熊本・能登・阪神淡路)
  • 原因の内訳は災害ごとにまったく違うということ
  • その原因を、家庭の備え4つにどう変換するか(この記事の中心)

公的な統計を並べて読むかぎり、家庭が手を出せる範囲はそれほど広くありません。避難生活の質を落とさないこと——具体的にはトイレ・室温・体を動かすこと・清潔の4つです。この記事は、その4つを統計の原因区分から逆算して組み立てます。

この4つは、避難所に行った場合だけの話ではありません。停電と断水が続く自宅にとどまる場合にも、そのまま同じ条件が並びます。自宅にとどまる前提で何がどれだけ必要になるかは、在宅避難の準備リスト|成立する3つの条件と、人数×日数でわかる水・トイレの必要量早見表で人数と日数から逆算できるようにしてあります。この記事を読んだあとの受け皿として使ってください。

目次

災害関連死とは、避難生活の負担による死を法律に基づいて認定したものである

災害関連死とは、災害による負傷の悪化や避難生活等における身体的負担が原因で亡くなり、災害弔慰金の支給等に関する法律に基づいて「当該災害による死亡」と認定されたものです。内閣府(防災担当)が示している定義文は次のとおりです。

当該災害による負傷の悪化又は避難生活等における身体的負担による疾病により死亡し、災害弔慰金の支給等に関する法律(昭和48年法律第82号)に基づき、当該災害による死亡と認定されたもの(実際には災害弔慰金が支給されていないものも含めるが、当該災害が原因で所在が不明なものは除く。)

——内閣府政策統括官(防災担当)付参事官(被災者行政担当)付「災害関連死について」(資料No.8)

ここで押さえておきたいのは、災害関連死が医学的な死因の分類ではなく、制度上の認定であるという点です。医師が死亡診断書に書く病名は心不全や肺炎かもしれません。それとは別に、市町村の審査会が「その死は災害が原因といえるか」を判断する。その判断が通ったものが災害関連死として数えられます。だから件数は審査会が開かれるたびに増えますし、認定されなかった申請も存在します。

「震災関連死」と「災害関連死」は、呼び方が違うだけで定義は同じ

資料を読んでいると、東日本大震災の統計だけ「震災関連死」という語が使われていることに気づきます。別の制度だと誤解されがちな部分です。

実際には同じものです。前掲の内閣府資料には、補足のQ&Aとして「今回の災害関連死の定義は、関係省庁とも協議の上、内閣府で決定したものであるため、復興庁の震災関連死の定義とも同じものである」と明記されています。東日本大震災については「震災関連死」、それ以外の災害については「災害関連死」と呼び分けているだけで、定義文そのものは共通です。

この記事では、認定手続きや弔慰金の金額には踏み込みません。手続きは自治体ごとに窓口も必要書類も異なり、家庭の備えの話とは別の記事にすべき内容だからです。申請を検討している場合は、亡くなった方が被災当時に住んでいた市区町村の担当課に直接確認してください。

認定された人数は、災害ごとに桁が違う

次に規模を見ます。以下はすべて公的機関が公表している数字で、それぞれ集計の時点が違います。関連死は今も増減する数字なので、時点を外すと意味が変わってしまいます。

災害 発生年 死者総数 うち直接死 うち関連死 集計時点
東日本大震災 2011年 ―(関連死のみの集計) 3,810人 2025年12月31日現在
熊本地震 2016年 275人 50人 225人 2025年4月11日速報値
令和6年能登半島地震 2024年 736人 228人 508人 2026年8月4日 第54回審査会認定分
阪神・淡路大震災 1995年 6,434人 約900人(概数) 時点の明記なし

阪神・淡路大震災だけ「約900人」と概数になっているのには理由があります。当時は全国統一の認定基準がまだなく、神戸・尼崎・西宮など6市がそれぞれ医師や弁護士による判定委員会を設けて認定していました。内閣府の教訓情報資料集も、認定基準が明確でなかったことを理由に確定値としては扱っていません。災害関連死という枠組み自体が、阪神・淡路のあとに整えられていったという時系列です。

熊本地震の275人という数字は、直接死50人に対して関連死225人。関連死が直接死の4倍を超えています。能登半島地震も508人対228人。地震の揺れで亡くなった人より、そのあとで亡くなった人のほうが多いという状態が、近年の地震では繰り返し起きています。

能登の関連死は、今も増えている

石川県は審査会のたびに認定数を発表しています。その推移を並べると、次のようになります。

  • 2025年12月25日時点(第37回審査会まで)… 関連死449人
  • 2026年7月14日時点(第52回審査会分)… 関連死506人(死者総数734人)
  • 2026年8月4日時点(第54回審査会認定分)… 関連死508人(死者総数736人)

約7か月で59人。ひと月あたり8人前後のペースで増えていることになります。もっとも、これは「今まさに毎月8人が亡くなっている」という意味ではありません。審査会は過去に亡くなった方の申請を順番に審査していますから、認定の時点と死亡の時点はずれます。それでも、災害関連死は災害が終わってから何年もかけて数えられていくという性質は、この推移から読み取れます。

能登半島地震の統計では、2024年9月の奥能登豪雨による死者21人(直接死16人・関連死5人)が別集計になっています。報道で見かける死者数と石川県発表の数字が食い違うことがあるのは、この豪雨分を含めるかどうかの違いによるものです。この記事では地震のみの736人を使っています。

原因の内訳は、災害ごとにまったく違う

ここからがこの記事の本題です。「災害関連死の原因」を一枚の円グラフで語る記事は多いのですが、公的な原因区分別データを2つ並べると、その語り方がかなり危ういことがわかります。

東日本大震災の原因内訳(復興庁 2012年報告)

復興庁が2012年8月21日に公表した「東日本大震災における震災関連死に関する報告」の数字です。震災関連死者数は2012年3月31日現在で1,632人。そのうち死者数の多い自治体と原発事故避難指示市町村の1,263人を対象に原因を調査しています。原因は複数選択のため、延べ件数は1,950件になります。

原因区分 件数 割合(原典記載の概数)
避難所等における生活の肉体・精神的疲労 638 33%
避難所等への移動中の肉体・精神的疲労 401 21%
病院の機能停止(転院含む)による既往症の増悪 283 15%
その他 215 11%
地震・津波のストレスによる肉体・精神的負担 150 8%
不明 121
病院の機能停止による初期治療の遅れ 90 5%
原発事故のストレスによる肉体・精神的負担 34 2%
交通事情等による初期治療の遅れ 17 1%
救助・救護活動等の激務 1 0.1%未満
多量の塵灰の吸引 0
合計(延べ) 1,950

能登半島地震の原因内訳(石川県、母数449人)

石川県が公表した「令和6年能登半島地震における災害関連死の概況」(第37回審査会まで、2025年12月25日時点)の数字です。母数は認定された449人で、こちらも複数選択です。

原因区分 件数 割合
地震のショック、余震への恐怖による肉体的・精神的負担 395 88.0%
電気・水道等の途絶による肉体的・精神的負担 233 51.9%
社会福祉施設の被災による介護機能の低下 209 46.5%
避難所等生活の肉体的・精神的負担 176 39.2%
転院、悪路・長時間の搬送等による負担 83 18.5%
新型コロナ・インフルエンザ感染等に伴う身体機能低下 72 16.0%
医療機関の被災による機能停止・低下(初期治療の遅れ含む) 36 8.0%
交通事情等による治療の遅れ 12 2.7%
その他 11 2.4%
救助・救援活動による心身の負荷 1 0.2%
東日本大震災と能登半島地震で最多だった原因区分を対比した図。東日本は避難所生活の疲労が638件33%で最多、能登は地震のショック・恐怖が395件88.0%で最多、東日本のショックは150件8%、能登の避難所生活は176件39.2%

2つの表を見比べると、順位がひっくり返っていることがわかります。東日本大震災でいちばん多かったのは「避難所等における生活の肉体・精神的疲労」で638件・33%。一方の能登半島地震では、その相当区分にあたる「避難所等生活の肉体的・精神的負担」は176件・39.2%で4番目です。能登で突出しているのは「地震のショック、余震への恐怖による肉体的・精神的負担」の395件・88.0%。東日本の同種区分は150件・8%でした。

つまりどういうことか。「災害関連死の原因はこれです」と一般化して語れるほど、中身は安定していません。被災地の地理、季節、避難所の数、高齢化率、余震の続き方——条件が違えば内訳は変わります。家庭で備えるときも、一つの円グラフを暗記するのではなく、複数の災害で共通して上位に来ている項目を拾うほうが実用的です。

比較の際の注意です。この2つの表は調査主体も、調査時期も、区分の名前も、母数も違います。どちらも複数選択方式で、割合の合計は100%を超えます。件数は人数ではなく延べ件数です。パーセンテージだけを取り出して並べると誤読を招くので、母数と時点をセットで扱ってください。

原因区分別の全国調査は、2012年8月の復興庁報告が今のところ唯一です。復興庁は死者数(都道府県別・年齢別)を半年ごとに更新し続けていますが、原因区分別の調査・公表はこの1回だけで、以降更新されていません。全国レベルで「関連死の原因」を語ろうとすると、14年前のデータに戻るしかない——これが2026年8月25日確認時点の状況です。

そなえぐらし管理人

この記事を書くとき、いちばん時間を使ったのがここでした。もっと新しい全国調査があるはずだと思って探し続けたのですが、見つかりませんでした。だから記事の構成も変えて、「全国の平均像」ではなく「2つの災害の実データを並べて共通項を拾う」形にしています。ないものをあるように書くほうが、読者にとっては危ないので。

避難所そのものの環境が、原因区分に直結している

東日本の1位、能登の4位。どちらも避難所での生活が原因区分として名指しされています。避難所は「行けば安全な場所」ではなく、そこでの過ごし方まで含めて備えの対象だということです。避難所がいつ・誰の判断で開くのかは避難所はいつ・誰が開ける?災害対策基本法が定める指定と、開いていなかったときの動き方に整理しました。到着したあとの居場所の区切り方については避難所にテントは持ち込める?内閣府の文書が定める間仕切りの基準で、国の文書がどこまでを基準としているかをまとめています。

原因を、家庭の備え4つに変換する

ここがこの記事の中心です。統計の原因区分は、そのままでは買い物リストになりません。「避難所等における生活の肉体・精神的疲労」と書かれていても、何を持てばいいのかはわからない。そこで、家庭が手を出せる範囲に絞って4つに束ねます。

災害関連死の原因区分と家庭でできる備えを対応させた図。避難所生活の疲労は東日本638件33%で床から離れて眠る、電気・水道の途絶は能登233件51.9%で体温を保つ道具、トイレの我慢は水分を控える連鎖で簡易トイレを人数分、感染による衰弱は能登72件16.0%で水なしで清潔を保つ、ショック・恐怖は能登395件88.0%で窓口と主治医へ

5行目に注意してください。能登でもっとも多かった原因区分に対して、家庭の道具でできることはほとんどありません。買い物で解決する範囲と、そうでない範囲を混ぜないこと。ここを混ぜた瞬間に、防災記事は嘘になります。以下の4つは、あくまで「道具と段取りで手が届く側」の話です。

備え1:トイレ環境を落とさない

内閣府の「避難所におけるトイレの確保・管理ガイドライン」は、トイレ環境の悪さが健康被害につながる筋道をはっきり書いています。トイレが使いにくい → 排泄をためらう → 水分や食事の摂取を控える → 脱水症状や静脈血栓塞栓症(エコノミークラス症候群)などの健康障害、という連鎖です。国のガイドラインが、この因果を前提に必要基数を定めている。

生活の場面に落とすと、こうなります。断水した家で、便器に水が流せない。とりあえず1回は済ませたけれど、流せないまま蓋を閉じた。次に行きたくなったとき、行きたくない。だからお茶を一杯飲むのをやめる。夕食も少なめにしておく。——特別に我慢強い人の話ではなく、誰でもやってしまう調整です。そしてこの調整の積み重ねが、統計上は脱水として現れます。

必要な数の考え方は簡易トイレは何回分必要?1人1日5回×人数×日数の計算式と早見表にまとめました。使ったあとの置き場所とごみ出しは、備蓄量と同じくらい詰まりやすい部分なので、使った簡易トイレはどう保管して捨てる?ごみ収集が止まる期間の置き場所と分別も合わせて確認しておくと安心です。

道具としては、防臭袋つきの簡易トイレセットが扱いやすい選択肢になります。クリロン化成株式会社の「驚異の防臭袋BOS 非常用臭わないトイレセット 50回分(Bセット)」(型番BOS-0646)は、防臭袋BOS(白)50枚・35×50cm、凝固剤50袋・1袋10g、汚物袋(黒)50枚・70×70cm、便器カバー(青)2枚・65×80cm、取扱説明書という構成です。交換の目安は15年で、高温多湿を避けた保管が前提とされています(同社が運営する製品公式サイトで確認・2026年8月25日確認時点)。50回分の内訳は、便袋50枚と凝固剤50袋が1対1で1回分という数え方です。

この製品を挙げる理由は、処理用の黒袋まで同梱されている点にあります。前述のとおり、簡易トイレで詰まりやすいのは使用後の置き場所です。50回分という数量も、当サイトが使っている「1人1日5回」の目安に当てはめれば1人で約10日分、2人なら約5日分と、日数に換算しやすい単位になっています。保存期間15年という表示も、買い替えの管理を減らしたい家庭には現実的です。


備え2:寒さと暑さから、体温を守る

能登半島地震で2番目に多かった原因区分は「電気・水道等の途絶による肉体的・精神的負担」で233件・51.9%。発災は1月1日、真冬の北陸でした。電気が止まるということは、暖房が止まるということでもあります。

冬の対策として家庭で持てるのは、電源を使わずに体温を保つ道具です。アイリスオーヤマの「ぽかぽか家族 貼るカイロ レギュラー PKN-30HR」は、幅125mm×奥行95mm(12.5×9.5cm)で30個入り、最高温度63℃・平均温度53℃・持続時間12時間です(メーカー公式の製品仕様ページで確認・2026年8月25日確認時点。持続時間には都条例に基づく試験方法との注記があります)。体温を保つための道具であって、病気を防ぐための道具ではありません。なお通販サイトの商品名には「13×9.5cm」と表記されていますが、メーカー公式の仕様は幅125mm×奥行95mmです。0.5cmの差ですが、当サイトは公式の数値のほうを採ります。

貼るタイプを選ぶ意味は、持続時間の使い方にあります。12時間もつなら、朝に1枚貼れば夜まで、就寝前に1枚貼れば朝までという単位で使えます。30枚入りは、大人2人が1日1枚ずつ使う想定なら15日分。停電が数日で復旧しなかった場合を考えると、この枚数はちょうど扱いやすい範囲です。ただしカイロは体温を保つための道具であって、病気を防ぐための道具ではありません。低体温症が疑われる状態は家庭で判断せず、消防・医療機関に連絡してください。


夏に被災した場合は、逆の対策になります。避難所に冷房があるとは限らないという前提で持ち物を組む考え方は夏の避難所の暑さ対策|冷房があるとは限らない前提で自分が持っていくものに書きました。判断の目安として使えるのが、環境省が公表している暑さ指数(WBGT)の危険度区分です。

区分 暑さ指数(WBGT) 注意事項
危険 31以上 運動は原則中止
厳重警戒 28〜31未満 激しい運動は中止
警戒 25〜28未満 積極的に休息
注意 21〜25未満 積極的に水分補給
ほぼ安全 21未満 適時水分補給

そして季節を問わず効いてくるのが、寝る場所の高さです。避難所の床は冷えますし、埃も舞います。床から体を離して眠るための備えは避難所の床で寝る備え|段ボールベッドは届くのか、自分で持つマットの選び方で、支援物資が届くまでの時間差も含めて整理しています。

備え3:体を動かさない時間を減らす

避難所でも車の中でも、動く範囲が畳数枚分に縮みます。厚生労働省は、エコノミークラス症候群(静脈血栓塞栓症)の予防として次の6項目を挙げています。原文のまま引用します。

  1. ときどき、軽い体操やストレッチ運動を行う
  2. 十分にこまめに水分を取る
  3. アルコールを控える。できれば禁煙する
  4. ゆったりとした服装をし、ベルトをきつく締めない
  5. かかとの上げ下ろし運動をしたり、ふくらはぎをもんだりする
  6. 眠るときは足を上げる

——厚生労働省「エコノミークラス症候群の予防のために」(2026年8月25日確認時点)

この6項目には、道具を必要とするものがほとんどありません。それでも家庭の備えと接続する点が2つあります。1つは2番目の「十分にこまめに水分を取る」で、これは備え1のトイレに直結します。トイレの見通しが立っていない家では、この項目が実行できません。もう1つは4番目の「ゆったりとした服装」。持ち出し袋に入れる着替えを、締めつけの少ないものにしておくだけで条件が変わります。

車中泊を選ぶ場合はもう一段の注意が要ります。内閣府の「避難生活における良好な生活環境の確保に向けた取組指針」(令和6年12月改定)は、車中泊避難について「弾性ストッキング等のエコノミークラス症候群の予防に必要な物資の配布が必要である」としています。これは行政が配布すべき物資として書かれている記述で、家庭の道具で代替できるという意味ではありません。体調の異変を感じたときの判断は、必ず医療機関に委ねてください。

備え4:水が出なくても清潔を保つ

能登半島地震では「新型コロナ・インフルエンザ感染等に伴う身体機能低下」が72件・16.0%を占めました。断水した状況では、手を洗う、体を拭く、歯を磨くという日常の動作が、そのまま止まります。

そこで水を使わずに体を拭ける道具が要ります。アイリスオーヤマの「大判からだふき KRD-20」は、20枚入りで1枚が64×40cmの大判——販売ページの商品情報では(2026年8月25日確認時点)そう記載されています。この情報もメーカー公式ページではなく販売ページの商品情報によるものです。

大判であることの意味は、枚数の節約にあります。64×40cmはA3用紙をおよそ2枚並べたくらいの面積で、小さなウェットティッシュを何枚も使うより、1枚で上半身をひととおり拭ける可能性が高くなります。20枚入りなら、1人が1日1枚使う想定で20日分、4人家族なら5日分。これは体を拭くための道具であり、感染症を防ぐための道具ではありません。体調に不安があるときは自己判断で対処せず、医療機関に相談してください。

口の中も同じ範囲に入ります。水が使えない日に何を使うか、どれだけ備えるかは避難生活の口腔ケア|歯みがきができない日に使うものと、備える量の目安にまとめてあります。

在宅避難でも、同じことが起きる

在宅避難とは、自宅の安全が確認できた場合に避難所へ移らず自宅で生活を続けることです。建物が無事なら安心と思われがちですが、能登の原因区分をもう一度見てください。2番目は「電気・水道等の途絶による肉体的・精神的負担」で233件・51.9%。電気と水が止まるという条件は、避難所にいても自宅にいても同じように降りかかります

むしろ自宅のほうが不利になる場面もあります。避難所には支援物資が届き、保健師や医療チームが巡回します。自宅にとどまった人のところには、その情報も物資も自動的には届きません。だから在宅避難は「何もしなくていい選択肢」ではなく、備蓄を前提に成立する選択肢です。

量の基準は公的な数字があります。飲料水は、農林水産省の家庭備蓄ポータルが「飲料用と調理用だけで一人当たり1日3リットルの水が必要と言われており、最低3日分として9リットルの備蓄が必要」としています。日数については、内閣府・中央防災会議の「南海トラフ地震防災対策推進基本計画」が「最低でも3日間、可能な限り1週間分程度の生活必需品の備蓄」を求めています。

3日分の9リットルは、2リットルのペットボトルで4.5本。4人家族なら36リットルで、2リットル6本入りの箱にして3箱です。1週間分に伸ばすと1人21リットル、4人家族で84リットル——箱にして7箱。ここまで来ると、玄関横の収納や階段下に置き場所を確保する話になります。備蓄は「買うかどうか」より先に「どこに置くか」で止まることが多いので、箱数に換算して考えるほうが現実的です。

この記事の整理が当てはまらないケース

ここまでの4つは、道具と段取りで届く範囲に絞ったものです。次に挙げるケースでは、この整理だけでは足りません。

  • 持病があり、常用薬や医療機器が欠かせない家族がいる… 東日本大震災では「病院の機能停止(転院含む)による既往症の増悪」が283件・15%。薬の残量や在宅医療機器の停電時対応は、主治医と事前に相談すべき事柄です
  • 要介護の家族がいる、施設を利用している… 能登半島地震では「社会福祉施設の被災による介護機能の低下」が209件・46.5%と、原因区分の3番目に入っています。施設の避難計画と、家庭側の受け入れ可否を先に確認してください
  • 高齢の家族と暮らしている… 東日本大震災の震災関連死3,810人のうち66歳以上は3,371人で88.5%。能登でも80代が180人(40.1%)、90代が169人(37.6%)で、80代以上が約8割を占めます
  • 乳幼児がいる… ミルク・離乳食・おむつは、この記事の4分類のどれにも収まりません。人数×日数の別枠として数える必要があります
  • 妊娠中の家族がいる… 移動・室温・水分のいずれについても、判断の基準が変わります

避難するかどうか、受診するかどうかの判断を、この記事や市販の防災グッズに委ねないでください。持病・服薬・介護・妊娠にかかわる備えは主治医に、避難行動要支援者名簿や福祉避難所の利用は、お住まいの市区町村の福祉部門・防災部門にご相談ください。制度も名簿の運用も自治体ごとに違います。

そなえぐらし管理人

能登の原因区分で「社会福祉施設の被災による介護機能の低下」が46.5%だと知ったとき、家庭向けの記事としてどう書くべきか迷いました。個人の買い物でどうにかなる数字ではないからです。結局、書ける範囲を狭くして、書けない範囲は「そこは自治体と主治医の領分です」とはっきり言うことにしました。

よくある質問

直接死と災害関連死は、何が違うのですか

直接死は、建物の倒壊や津波、火災など災害そのものによる死亡です。災害関連死は、その後の負傷の悪化や避難生活等における身体的負担による疾病で亡くなり、災害弔慰金の支給等に関する法律に基づいて当該災害による死亡と認定されたものを指します。直接死が警察の検視などで把握されるのに対し、災害関連死は市町村の審査を経て認定される点も違います。能登半島地震では直接死228人・関連死508人(2026年8月4日時点)と、関連死のほうが多くなっています。

災害関連死と認定されると、何があるのですか

災害弔慰金の支給等に関する法律に基づき、その死亡が当該災害によるものとして扱われます。内閣府の定義文にも「実際には災害弔慰金が支給されていないものも含める」という但し書きがあり、認定と支給は完全に同じものではありません。支給の対象・金額・申請の流れは自治体の窓口が案内していますので、被災当時に居住していた市区町村の担当課に直接確認してください。この記事では、認定制度の細部までは扱っていません。

災害関連死は、いつまで増えるのですか

2つの数え方を分けて考える必要があります。亡くなる時期については、能登半島地震のデータでは発災から半年以内の死亡が約88%を占めています(1週間以内9.8%・1か月以内22.9%・2か月以内17.4%・3か月以内13.6%・半年以内23.8%)。一方、認定の時期は別です。能登の関連死は2025年12月25日時点449人から2026年8月4日時点508人へ、約7か月で59人増えました。亡くなるのは初期に集中し、数えられるのは何年もかけて——というのが実際の姿です。

能登では「地震のショック・恐怖」が88.0%です。家庭で何ができますか

正直に書きます。この区分に対して、家庭の備蓄でできることはほとんどありません。この記事が扱ってきた4つは、統計上でいえば「電気・水道等の途絶」(51.9%)や「避難所等生活の負担」(39.2%)、「感染等に伴う身体機能低下」(16.0%)に届く範囲のものです。心身の不調が続くときは、自治体が設ける被災者向けの健康相談窓口や、かかりつけの医療機関に相談してください。

まとめ:今日決めるのは、トイレの数だけでいい

この記事では原因区分の表を2つ並べ、そこから4つの備えを取り出しました。ただ、4つを一度に整えようとすると、たいてい何も始まりません。今日やることは1つで十分です。家族の人数と、想定する日数を決めて、簡易トイレの必要数を出すこと。そこだけ決まれば、水も清潔用品も同じ「人数×日数」の式に乗ってきます。

  1. 人数と日数を紙に書く家族の人数を書き、日数は「最低3日、可能なら1週間」(内閣府・中央防災会議)から選びます。
  2. 簡易トイレの必要回数を計算する人数×日数×1日あたりの回数。当サイトでは1人1日5回を目安として使っています。
  3. 置き場所を先に決める水は1人1日3リットル(農林水産省)。3日分なら1人9リットル=2リットルのペットボトル4.5本。箱数に換算して、置ける場所から逆算します。

災害関連死の統計は、亡くなった方一人ひとりの記録の集まりです。数字として並べたのは、そこから同じことが繰り返されない道筋を読み取るためであり、それ以上の意味を持たせるつもりはありません。備えの目的は、生活の質を落とさないまま、次の日を迎えられるようにしておくことです。

自宅にとどまる前提での必要量は在宅避難の準備リスト|成立する3つの条件と、人数×日数でわかる水・トイレの必要量早見表で計算できます。

参考・出典

※BOS 非常用トイレとぽかぽか家族 貼るカイロのスペックは、メーカー公式の製品仕様ページで確認したものです(2026年8月25日確認時点)。大判からだふき KRD-20 の内容量とサイズだけは、公式の製品仕様ページに到達できず、販売ページの商品情報で確認しています。仕様は変更される場合がありますので、購入前に最新の記載をご確認ください。

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この記事を書いた人

登山が趣味の会社員。山で非常食を食べてきた経験から「食べ慣れないものは災害時つらい」と実感し、家庭の備蓄を見直し中です。実際に買って食べたものだけ「おすすめ」と書きます。失敗も隠しません。

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