屋根に上る前に、地上から写真を撮る
台風が抜けた翌朝。ベランダに出たら瓦が一枚、鉢植えの横に落ちていました。見上げると屋根のどこかが欠けている気がする。家には脚立があり、ホームセンターにはブルーシートが平積みされている——。
ここで最初にやることは、屋根に上ることではありません。先に、地上から写真を撮る。上るかどうかを決めるのは、そのあとです。そして写真を撮っているあいだに「近くで工事をしている者ですが、お宅の屋根、浮いてますよ」と声をかけられることがあります。この「向こうから来る話」には、屋根そのものの危険とはまったく別の注意がいります。
この記事は、ブルーシートの張り方を教えるものではありません。上る前に確かめることと、上らないと決めたときに頼る先を並べたものです。数字で言えることは数字で書き、確かめられなかったことは「確かめられなかった」と正直に書きます。
この記事でわかること
- 屋根の応急処置より先に、地上から被害の写真を撮っておいたほうがよい理由
- 屋根の上が「見た目で危険を判断しにくい場所」だと言える、構造的な理由
- 台風のあとに相談が増える屋根工事の点検商法について、年度別の相談件数(国民生活センターが2023年10月11日に公表)
- 自分で上らないと決めたときに相談できる窓口と、それぞれが何をしてくれるのか
被害状況の写真とは、屋根や外壁が壊れた直後の状態を、片づけたり直したりする前に記録したもののことです。ブルーシートをかぶせてしまうと、その下がどうなっていたかは写真からは分からなくなります。順番が逆になると取り返しがつかない、というのはここだけの話です。
撮る位置は、まず家の全体が入る引きの一枚。そのあとに、落ちてきた瓦や剥がれた板金など、地上で拾える被害物。日付が分かるようにしておくと、あとで説明しやすくなります。
写真の撮り方の詳細と、そこから先の申請手続きは罹災証明書の申請の流れ|片づける前に撮る写真と、判定に納得できないときの再調査が担当しています。この記事では「屋根に上る前にも撮っておく」という一点だけ押さえてください。
写真は、そのあとに続く手続きの入口にもなります。判定の区分によって受けられる支援が変わる仕組みについては、被災者生活再建支援金はいくら?基礎支援金と加算支援金の額を罹災証明書の判定と対応させるにまとめました。焦って屋根に上る前に、カメラのシャッターを何回か押すほうが先です。
屋根の上は、見た目で危険を判断しにくい場所である
屋根の勾配とは屋根面の傾きのことで、地上から見上げたときの印象と、実際に足を乗せたときの傾きは一致しません。ここが、屋根上作業のいちばん厄介なところです。
「見た目で判断しにくい」と言えるのは、少なくとも三つの理由があります。
- 雨のあとは、乾いて見えても濡れている/表面が乾いたように見えても、瓦の重なりや谷になった部分には水が残ります。苔や砂ぼこりが乗っていれば、なおさら足が滑りやすい。
- 勾配は、下から見上げた印象より急/地上からは緩やかに見える面でも、乗ってみると身体が傾く。傾きの感覚は、視線の高さが変わるだけで狂います。
- 下地の破損は、上からは分からない/表面の瓦やスレートが残っていても、その下の板が傷んでいることがあります。台風で一度めくれて戻った屋根は、外から見て健全そうに見えることがある。踏んで初めて分かる、では遅すぎます。
建物が今どれだけ傷んでいるか、上って作業してよい状態かどうかは、写真とインターネットの情報だけでは決められません。建物の危険性の判断と、修理をどう進めるかの可否は、市区町村の窓口と専門業者に委ねてください。この記事は、その判断を仰ぐまでのあいだに何をするかを整理したものです。
ちなみに、台風の「前」にできる対策と、台風の「後」に考える応急処置は、住み分けができます。前はこちら、後がこの記事です。窓まわりの備えは台風の窓ガラス対策|養生テープは効くのか、フィルム・雨戸との使い分け、飛ばされるものを減らす作業は台風前のベランダの片づけ|物干し竿と排水溝、順番を決めれば10分で終わるにあります。屋根が壊れてからできることは、驚くほど少ないのです。
台風のあとに来る「点検商法」は、相談件数が公表されている
点検商法とは、業者のほうから訪ねてきて「無料で点検します」と申し出て、点検を口実に工事の契約を勧める勧誘の手口を指します。屋根工事に関するこの手の相談は、国民生活センターが件数を公表しています。
| 年度 | 屋根工事の点検商法に関する相談件数 | 契約当事者に占める60歳以上の割合 |
|---|---|---|
| 2018年度 | 923件 | 16.2% |
| 2019年度 | 1,157件 | 20.1% |
| 2020年度 | 1,824件 | 26.0% |
| 2021年度 | 2,352件 | 31.6% |
| 2022年度 | 2,885件 | 35.4% |
| 2023年度(8月末まで) | 1,346件 | 35.9% |
出典: 国民生活センター 報道発表資料(2023年10月11日発表)/2026年8月30日確認
数字が並んだので、いったん言葉に翻訳します。2018年度の923件が2022年度には2,885件ですから、5年ほどで3倍を超えました。2,885件を単純に365日で割れば、全国のどこかで毎日8件ほど、屋根工事の点検商法について誰かが相談していた計算になります。そして、契約した人の3人に1人以上が60歳以上です。この割合も16.2%から35.9%へと、右肩上がりで動いてきました。
なお2023年度の1,346件は8月末までの集計なので、前の年度と単純には並べられません。この数値は2023年10月11日に発表されたもので、それ以降の年度がどうなっているかは、今回は確認していません。最新の状況を知りたい場合は、国民生活センターの発表を直接あたってください。
「保険が使える」「負担額なく修理できる」という勧誘については、日本損害保険協会が注意を呼びかけています。契約する前に、加入している保険会社や代理店に相談すること。悪質な業者と契約してしまうと、保険金が支払われない、高額な解約手数料を請求されるといったリスクがあること——この2点が示されています。
出典: 日本損害保険協会 住宅修理をめぐる悪質な勧誘への注意喚起ページ(2026年8月30日確認・ページの更新表示は2026年7月31日)
ここで大事なのは、訪ねてくる業者を十把一絡げに疑うことではありません。公表されているのは相談の件数と、公的機関・業界団体が出した注意喚起の内容までです。判断の材料はそこまでで、あとは「その場で決めない」という一点を守れば足ります。
相談先は消費者ホットライン188番。番号を押すと、最寄りの消費生活センターにつながります。契約してしまったあとでも、まずここです。(出典: 国民生活センター/2026年8月30日確認)
自分で上らないと決めたときの、頼る先
災害ボランティアセンターとは、被災地の市区町村社会福祉協議会に設置されるケースが一般化している、ボランティア活動の受付と調整の拠点です。ここを含め、屋根に上らないと決めた人が連絡できる先を並べます。「何をしてくれるか」とセットで見てください。
| 窓口 | 何をしてくれるか | 備考・出典 |
|---|---|---|
| 消費者ホットライン 188 | 点検商法や、保険金請求の代行をめぐるトラブルの相談を、最寄りの消費生活センターにつなぐ | 国民生活センター(2026年8月30日確認) |
| 災害ボランティアセンター(市区町村の社会福祉協議会が設置) | ボランティアの受付と、活動内容の調整 | 屋根の応急処置に対応してもらえるかは公式ページに明記がなく、自治体・センターによって異なる可能性があります。まず地元のセンターに確認を。(内閣府/2026年8月30日確認) |
| 市区町村の罹災証明の窓口 | 被害の程度についての証明書の申請受付。その後の支援制度の入口になる | 申請の流れはこちらの記事に整理 |
| 加入している保険会社・代理店 | 契約内容の確認と、修理業者との契約前の相談 | 日本損害保険協会が「契約前に相談を」と案内(2026年8月30日確認) |
この4つを並べてみると、性格が違うことに気づきます。188は「向こうから来た話」への窓口。ボランティアセンターは人手の窓口。罹災証明はお金と手続きの入口。保険会社は契約の相談先です。困りごとを一つの窓口に丸ごと持ち込もうとすると、たいてい遠回りになります。
次の台風が近づいているなら、進路の読み方から確認しておくと動きが早くなります。台風の進路予報の見方|予報円は「中心が入る確率70%」で被害範囲ではない。予報円の見誤りは、備えの空振りと油断の両方を生みます。
この記事で確かめられなかったこと
正直に書きます。この記事を書くために調べて、たどり着けなかったものが二つありました。
- 屋根からの転落事故について、公的機関が公表している件数を確認できませんでした。数が取れていないので、この記事では「事故が多発している」といった書き方をしていません。危険性は、勾配・濡れ・下地という構造の説明にとどめています。
- 災害ボランティアセンターが屋根の作業をするかどうかは、内閣府と全国社会福祉協議会の公式ページのどちらにも明記がありませんでした。だから「上ってくれます」とも「くれません」とも書けません。書けるのは「地元のセンターに確認を」までです。
読者が自分で確かめられる入口は、次の2つです。総務省消防庁「救急・救助の現況」(https://www.fdma.go.jp/publication/rescue/)と、東京消防庁の救急搬送データのページ(https://www.tfd.metro.tokyo.lg.jp/learning/elib/kkhdata/index.html)。数字が必要な方は、ここから年度別の資料に入ってください。空欄のままにしておくほうが、それらしい推測で埋めるより安全だと考えました。
この記事が当てはまらないケース
次のような場合は、この記事の前提から外れます。
- 賃貸住宅に住んでいる場合/建物の所有者が別にいます。自分で判断して手を加える前に、貸主または管理会社へ連絡してください。
- マンション・アパートの共用部分の被害/屋上やバルコニーの外側は、居住者が個別に手を出す場所ではありません。管理組合や管理会社の窓口が先です。
- 地上から手が届く範囲の被害/落ちた瓦の片づけや、庭に飛んできた板の回収など、脚立を使わずにすむ作業はこの記事の対象外です。ただし、割れた瓦や金属片は手を切りやすいので、手袋は用意してください。
- すでに室内に雨漏りが達している場合/屋根に上る前に、家財を動かして受け止めるほうが先になります。そのうえで、業者や自治体の窓口に状況を伝えてください。
台風対策を場所別に整理する
よくある質問
Q. 災害ボランティアセンターは、屋根に上ってブルーシートを張ってくれますか?
A. この記事を書くにあたって内閣府と全国社会福祉協議会の公式ページを確認しましたが、どちらにも「ボランティアが屋根の応急処置を行う/行わない」という明記はありませんでした。公式に確認できたのは、センターの設置主体が市区町村の社会福祉協議会であることまでです。対応の可否は自治体やセンターによって異なる可能性があるため、まず地元の災害ボランティアセンターに問い合わせてください。(2026年8月30日確認)
Q. 「今なら火災保険で、自己負担なく直せます」と言われました。契約していいですか?
A. 契約する前に、加入している保険会社または代理店に相談してください。日本損害保険協会は、こうした勧誘について注意を呼びかけており、悪質な業者と契約した場合には保険金が支払われない、高額な解約手数料を請求されるといったリスクがあることを示しています。判断に迷ったら、消費者ホットライン188番も使えます。
Q. 相談件数の数字は、いまも同じ傾向ですか?
A. この記事に載せた件数は、国民生活センターが2023年10月11日に発表した資料の数値です。それ以降の年度がどうなったかは、今回は確認していません。最新の状況は、同センターの発表を直接ご確認ください。
Q. 業者の手配がつくまで数日かかりそうです。それでも上らないほうがいいですか?
A. 上るかどうかの判断は、この記事では下せません。屋根の状態と建物の傷み方を実際に見られるのは、市区町村の窓口と専門業者だけだからです。待つあいだにできるのは、地上からの写真を撮り足しておくこと、室内側で家財を守ること、そして連絡した窓口の名前と日時をメモしておくこと。これは屋根に上らなくても全部できます。
まとめ|今日やることは、一つだけ
屋根が壊れた朝にやることを一つに絞るなら、地上から写真を撮ることです。上るかどうかは、そのあとで決められます。そして向こうから来る「点検しましょうか」には、その場で答えない。この二つが揃えば、あとの選択肢は残ります。
- 家の全体が入る引きの写真と、落ちてきた被害物の写真を、地上から撮る。
- 屋根に上るかどうかを自分で決めず、市区町村の窓口・専門業者・加入している保険会社に状況を伝えて相談する。
- 訪問してきた業者とは、その場で契約しない。不安があれば消費者ホットライン188番へ。
そして、次の台風が来る前に戻れるなら、備えは屋根の前から始まっています。台風に備える備蓄リスト|上陸3日前・前日・当日にやることを時系列でで全体像を見ておくと、この記事が必要になる場面そのものを減らせます。
参考・出典
- 国民生活センター 報道発表資料(2023年10月11日発表)https://www.kokusen.go.jp/news/data/n-20231011_1.html(2026年8月30日確認)
- 日本損害保険協会 住宅修理サービスに関する注意喚起 https://www.sonpo.or.jp/news/caution/syuri.html(2026年8月30日確認・ページの更新表示は2026年7月31日)
- 内閣府 防災情報のページ 災害ボランティアセンターについての解説ページ https://www.bousai.go.jp/kyoiku/bousai-vol/saigaivc.html(2026年8月30日確認)
- 全国社会福祉協議会 災害ボランティア https://www.shakyo.or.jp/bunya/saigai/bora.html(2026年8月30日確認)
- 総務省消防庁「救急・救助の現況」https://www.fdma.go.jp/publication/rescue/(読者が自分で確認するための入口として掲載)
- 東京消防庁 救急搬送データからみる日常生活の事故 https://www.tfd.metro.tokyo.lg.jp/learning/elib/kkhdata/index.html(同上)
