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マンションの高層階で停電したとき、最初に効いてくるのは暗さではありません。水です。建物の4階以上へ水を届けているのは水道本管の圧力ではなく、建物の中にある電動ポンプだから。東京都水道局は、配水管の水圧だけで給水できるのは3階までで、4階以上に給水栓を設ける場合は増圧直結給水方式か貯水槽水道方式を選ぶ必要がある、としています(特例で4階以上も認める地域あり)。電気が止まれば、ポンプも止まる。停電はそのまま断水になりえます。
ただし止まり方には差があります。大阪市水道局の説明では、増圧直結方式は建物内のポンプが停電で即停止して断水するのに対し、受水槽方式は高置水槽に水が残っている間は断水せず、その水がなくなった時点で断水する。猶予があるかないか、という違いです。福岡市水道局も、中高層建物では管理組合・管理会社の電動ポンプで各戸に給水しているため、停電時は基本的に断水状態になると案内しています。
そしてもう一つ、電気で動いているものがあります。エレベーターです。国土交通省住宅局の資料によれば、2018年の大阪府北部を震源とする地震では、2府3県の保守台数約122,000台のうち約66,000台、割合にして54%が停止しました。水が止まり、運ぶ手段も止まる。高層階の停電がやっかいなのは、この二重の連鎖があるからです。なお備蓄を家のどこに置くかはマンションの備蓄の置き場所(4部屋に分散する)で整理しているので、この記事はライフラインの止まり方と、階段を何往復することになるのかだけに絞ります。
この記事でわかること
- 停電で断水するのは水道管が壊れたからではなく、建物内の給水ポンプが止まるから
- 給水方式によって「停電と同時に断水」か「水槽が空になるまで猶予あり」かが分かれる
- エレベーター停止の実数(大阪府北部地震で54%が停止・復旧は最短でも当日以降)
- 自分の階数と家族人数を入れて、階段の往復回数を計算する方法
高層階の断水は、水道管ではなくポンプで起きる
増圧直結給水方式とは、水道本管の水を建物内のポンプで加圧し、受水槽を経由せずに各戸へ直接送る給水方式のことです。貯水槽水道方式(受水槽方式)は、いったん地下などの受水槽に水を溜め、ポンプで屋上の高置水槽へ汲み上げ、そこから重力で各戸へ落とします。どちらもポンプが要です。
断水と聞くと、多くの人が地面の下の水道管が折れた場面を思い浮かべます。でも高層階で起きる断水の入口は、たいてい建物の中にあります。水道は生きているのに、電気がないから上まで届かない。それだけのことで、蛇口からは何も出なくなる。ここを取り違えると「復旧の見込みは水道局に聞けばわかる」と思ってしまい、実際には管理会社と電力の復旧待ちだった、というすれ違いが起きます。
給水方式別・断水するタイミング早見表
| 給水方式 | 4階以上への給水 | 停電した瞬間 | 断水までの猶予 | 建物での見分け方の手がかり |
|---|---|---|---|---|
| 直結直圧方式 | 東京都では原則3階まで | 影響を受けにくい | ― | 低層の建物。高層階では基本的に採用されない |
| 増圧直結方式 | 可(増圧ポンプで加圧) | ポンプが停止 | なし(即断水) | 受水槽・高置水槽が見当たらず、増圧ポンプ室がある |
| 貯水槽水道方式(受水槽方式) | 可(高置水槽から重力給水) | 汲み上げポンプが停止 | 高置水槽に残っている分だけ | 屋上に水槽がある/敷地内に受水槽がある |
表の「見分け方の手がかり」は、あくまで手がかりです。増圧ポンプと受水槽を併用する建物もあります。確定させるなら、管理規約か設備台帳、あるいは管理会社への一本の電話。それが今日できることの本命です。
停電時でも使える非常用水栓(停電時給水栓)が設けられている建物があります。福岡市水道局は、非常用水栓があれば停電時も給水を受けられると案内しています。設置の有無と場所は建物ごとに違うため、管理会社・管理組合に確認してください。
停電した直後の順番
停電の瞬間にやることは水の確保だけではなく、通電火災を避ける手順や、冷蔵庫・情報端末の扱いまで含みます。この記事の主題から外れるので、停電したらまず何をするかにまとめてあります。ひとつだけこの記事の文脈で足すなら、受水槽方式の建物にお住まいなら、高置水槽の水が残っている「猶予」の時間帯こそ、風呂に水を溜める最後のチャンスだということです。
高層階では、そもそも停電の引き金が風であることも珍しくありません。飛来物で窓が割れれば室内は一気に荒れます。窓側の備えは台風の窓ガラス対策で扱っています。
エレベーターは、揺れた時点で止まる前提で考える
地震時管制運転装置とは、初期微動(P波)を感知して本震(S波)の到達前にかごを最寄り階へ自動停止させ、扉を開けて乗客を降ろす装置のことです。国土交通省住宅局の資料では、震源に近い場所ではP波感知器の効果がない場合があるとも書かれています。
同じ資料が示す大阪府北部地震の実数を並べます。保守台数約122,000台のうち停止は約66,000台で54%。閉じ込めは339件で全体の0.3%。閉じ込め339件のうち、地震時管制運転装置が設置済みだったものが155件、46%を占めていました。救出までの時間は平均約80分、最大で約320分。約90%は180分以内に解消しています。
数字が続いたので、生活の言葉に置き換えます。最大約320分は、5時間20分です。夕方に閉じ込められたら、外に出られるのは夜中になる計算になります。そして閉じ込められなかった残り99.7%の人にとっての問題は、別にあります。動かないエレベーターの前で、これから何日そこに立つのか、という問題です。
復旧は「専門技術者が来てから」
止まったエレベーターは、二次災害を防ぐために専門技術者が安全性を確認してから復旧します。ボタンを押し直せば動くものではありません。大阪府北部地震では、部品破損や立入不可のものを除いて2日以内に復旧し、部品破損分も4日以内に大半が復旧した、と記録されています。震度が大きい地震で、この速さです。
順番も決まっています。日本エレベーター協会の資料によれば、復旧の優先順位は①閉じ込めが発生した建物、②病院等の弱者が利用する建物、③公共性の高い建物、④高層住宅(地上高さ概ね60m以上)、⑤一般の建物、の5段階。大規模地震では閉じ込め救出が最優先になるため、停止したエレベーターの復旧は救出が終わってからになる場合があります。高層住宅は4番目です。優先されている方ではありますが、真っ先ではない。
編集部として悩んだのは、この「4番目」をどう書くかでした。煽れば怖い話になりますが、実際の記録では2日から4日で大半が復旧しています。過度に恐れる話ではない。ただ、その2日から4日をどう過ごすかは自分で決めておく必要がある、という整理にしました。
階段の往復回数は、自分の階数で計算できる
飲料水の備蓄目安とは、農林水産省が示す「1人1日3リットル」のことです。最低3日分として、1人あたり9リットルが必要とされています。この数字を、階段の往復に変換します。
水は1リットルが約1キログラムです。10リットルのポリタンクを満タンにすれば、およそ10キロ。スーパーで買う10キロの米袋を、そのまま抱えて階段を上るのと同じ重さになります。往復回数の式は単純です。
必要な水の量(L)÷ 1回に運べる量(L)= 往復回数
必要な水の量=3L × 家族の人数 × 日数(飲料・調理用のみ。トイレや洗い物の水は別勘定)
階数別・階段の上り下り早見表(3日分・10Lタンク1個を運ぶ場合)
| 世帯人数 | 3日分の飲料水 | 往復回数 | 10階の場合 | 15階の場合 | 20階の場合 |
|---|---|---|---|---|---|
| 1人 | 9L | 1往復 | 20階分 | 30階分 | 40階分 |
| 2人 | 18L | 2往復 | 40階分 | 60階分 | 80階分 |
| 3人 | 27L | 3往復 | 60階分 | 90階分 | 120階分 |
| 4人 | 36L | 4往復 | 80階分 | 120階分 | 160階分 |
右3列は、往復回数に階数と上り下りの2を掛けた「昇降した階数の合計」です。4人家族で15階なら120階分。しかもこれは飲料と調理の水だけを3日分運んだ場合で、トイレを流す水まで汲むなら何倍かになります。36リットルは2リットルのペットボトル18本。ケース買いした6本入りを3ケース、階段で担ぎ上げる絵だと思ってください。
あなたの数字を書き込んでみてください
3L × [ ]人 × [ ]日 = [ ]L
[ ]L ÷ 1回に運べる [ ]L = [ ]往復
[ ]往復 × [ ]階 × 2 = [ ]階分の昇降
出た数字を見て「これは無理だ」と思ったなら、その感覚が正解です。運ぶ量を減らす方法は、あらかじめ家に置いておくことだけ。家に置く水の重さで床が抜けないのかという不安については、備蓄水の置き場所(床は抜けないのか)で計算しています。
それでも運ぶ場面は残ります。給水車や非常用水栓まで取りに行くとき、10キロのタンクを片手で提げるのと、背負えるタイプの給水袋を使うのとでは、階段での負担がまったく違ってきます。なお、階段で何キロまでなら安全か、どのくらいの間隔で休むべきかについての公的な目安は、今回の調査では見つかりませんでした。ここは各自の体力と、無理をしない判断に委ねるほかありません。
運ぶ回数そのものを減らす側の備えが、長期保存水です。2リットル6本入りを1ケース置けば12リットル、4人家族の1日分をわずかに上回ります。
断水中のトイレは、流していいか確認してから使う
停電と断水の話は、必ずトイレの話に着地します。ここでの最初の判断は「水をどう調達するか」ではありません。そもそも流していいのか、です。
東京都下水道局は、配管が破損していると下水が詰まって汚水が逆流したり、破損箇所から噴出したりすることがあると注意を促しています。特に集合住宅では下の階へ汚水が逆流する場合があるため、排水設備が破損していないか確認できるまでは使用を控え、管理会社に確認するよう求めています。自分の階で流した水が、下の階の部屋に出る可能性があるということです。
- 建物の排水管に損傷がないか、管理会社・管理組合に確認できているか
- 確認が取れるまでは、便器に水を流さないと家族で決めてあるか
- 使わない前提で、便器に直接かぶせる携帯トイレの用意があるか
- 使用済みの袋を数日置いておける場所を決めてあるか
確認が取れて流せる場合でも、残り湯を使ってよいかどうかには条件があります。断水時のトイレは残り湯で流していいかで条件ごとに整理しました。必要な数の考え方は簡易トイレは何回分必要かにまとめてあります。人数と日数を掛けると、想像より大きい数字が出てくるはずです。
この記事が当てはまらないケース
3階以下にお住まいなら、この記事の前提はほぼ当てはまりません。東京都水道局の基準では3階までは配水管の水圧で直接給水できるため、停電しても蛇口から水が出る可能性があります。ただし直結給水で届く階数は自治体ごとに異なります。仙台市は条件付きで5階程度まで、川崎市は原則2階まで(特例で3階まで可)、札幌市は直圧に必要な水圧の目安として4階で0.25MPa、5階で0.30MPaを示しています。全国共通の階数基準は存在しません。お住まいの水道局の公式ページで確認してください。
非常用発電機を備え、停電時も給水ポンプやエレベーターの一部を動かせるマンションもあります。その場合は管理規約に書かれた稼働時間と対象設備が優先します。また、断水の原因が水道本管側の被害なら、電気が戻ってもすぐには水が出ません。ここで扱ったのは「建物内のポンプが電気で止まる」タイプの断水だけです。
在宅避難を続けるか避難所へ移るかの判断は、この記事では扱えません。内閣府・消防庁・気象庁およびお住まいの自治体が出す情報と指示に従ってください。
マンション防災の全体像
よくある質問
Q. 停電したら、うちのマンションは必ずすぐ断水しますか?
A. 給水方式によります。大阪市水道局の説明では、増圧直結方式はポンプが停電で即停止するため断水しますが、受水槽方式は高置水槽に水が残っている間は断水せず、その水がなくなった時点で断水します。どちらの方式かは管理会社・管理組合に確認するのが確実です。
Q. エレベーターは停電が復旧すればすぐ動きますか?
A. 動きません。国土交通省住宅局の資料では、停止したエレベーターは二次災害防止のため専門技術者が安全性を確認したうえで復旧するとされています。大阪府北部地震では、部品破損や立入不可のものを除いて2日以内、部品破損分も4日以内に大半が復旧しました。
Q. 高置水槽の水が残っている間なら、いくら使っても大丈夫ですか?
A. 残量は建物ごとに違い、居住者全員で共有しています。大阪市水道局が示すとおり、水槽の水がなくなればその時点で断水します。猶予がある建物ほど、その時間内に風呂へ水を溜めるなどの行動を先に済ませておくのが現実的です。
まとめ:今日やることは1つ
高層階の停電は、水とエレベーターを同時に奪います。断水の原因は水道管ではなく建物内のポンプで、増圧直結方式なら猶予はありません。エレベーターは大阪府北部地震で54%が停止し、復旧には専門技術者の点検が必要でした。この2つを頭に入れたうえで、今日やることを1つだけ選ぶなら――自分のマンションの給水方式を確認することです。それが決まらないと、猶予があるのかないのかも決まりません。
- 給水方式を確認する管理規約か設備台帳を見る、または管理会社に「うちは増圧直結ですか、受水槽ですか」と電話で聞く。非常用水栓の有無も同時に確認する。
- 往復回数を計算する3L × 家族の人数 × 3日分を出し、10Lタンクなら何往復か、自分の階数で何階分の昇降になるかを紙に書く。
- 運ばずに済む分を家に置く計算で出た量のうち、階段で運ぶのが現実的でない分を家に置く。置き場所はマンションの備蓄の置き場所(4部屋に分散する)と備蓄水の置き場所(床は抜けないのか)を参考に決める。
参考・出典
- 大阪市水道局「給水方式について」 https://www.city.osaka.lg.jp/suido/page/0000515637.html (2026年8月9日時点)
- 福岡市水道局「水道のABC」 https://www.city.fukuoka.lg.jp/mizu/sessui/abc.html (2026年8月9日時点)
- 東京都水道局「給水方式について」 https://www.waterworks.metro.tokyo.lg.jp/kurashi/chokketsu/houshiki (2026年8月9日時点)
- 国土交通省住宅局「大阪府北部を震源とする地震に係る建築物等の被害状況と今後の取組みについて」(平成30年8月3日) https://www.mlit.go.jp/common/001248321.pdf (2026年8月9日時点)
- 一般社団法人日本エレベーター協会「大規模地震発生時のエレベーター早期復旧等に関するご協力のお願い」 https://www.n-elekyo.or.jp/docs/20150408_elesoukifukkyu_hp.pdf (2026年8月9日時点)
- 東京都下水道局「災害時のトイレ対策について」 https://www.gesui.metro.tokyo.lg.jp/living/takuchi/toilet_disaster (2026年8月9日時点)
- 農林水産省「大事な水、どうやって備えますか?」 https://www.maff.go.jp/j/zyukyu/foodstock/imadoki/imadoki02_10.html (2026年8月9日時点)
- 仙台市水道局/川崎市上下水道局/札幌市水道局 各公式ページ(直結給水の階数・水圧の目安)(2026年8月9日時点)
