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ハザードマップを開いて、最初にやることは色を眺めることではありません。地図の上で「自宅の点」を探し、その1点から2つの値を読み取る——これがすべての出発点です。2つとは、想定される浸水の深さと、そこが「家屋倒壊等氾濫想定区域」に入っているかどうか。この2つが決まると、自宅が避難する家なのか、とどまれる家なのかが見えてきます。
色は、その浸水の深さを表すための道具にすぎません。国土地理院の「重ねるハザードマップ」では、洪水・内水・高潮・津波の浸水想定が7段階の区分で表示され、薄い黄色系から濃い紫系へと段階的に濃くなります(2024年8月1日改定・凡例統一)。つまり、色の名前を覚える必要はなく、自宅の点がその7段階のどこにあるかがわかればいい。
そして読み取った結果は、そのまま備えの中身に変わります。持って出る前提の家と、その場にとどまる前提の家では、そろえるものの重心が違うからです。備蓄の全体像は家庭の備蓄品リスト完全版で整理していますが、この記事はその手前——「うちはどっちの家なのか」を決めるための読み方をまとめます。
この記事でわかること
- 「重ねるハザードマップ」と「わがまちハザードマップ」の違いと、自宅を確認する手順
- 浸水深の7段階の区分と、それが自宅の何階に当たるのかの対応
- 色が薄くても垂直避難では足りない「家屋倒壊等氾濫想定区域」の意味
- 自宅が「避難する家」か「在宅避難できる家」かを判定し、備えに変換する方法
この記事は平時に自宅の想定を調べるための解説です。実際の避難のタイミングと行動は、お住まいの市区町村が発令する避難情報と、気象庁が発表する防災気象情報に従ってください。ハザードマップの色や区分をもとに、当サイトが「避難しなくてよい」と判断することはありません。
ハザードマップを見る場所は2つある。「重ねる」と「わがまち」の使い分け
ハザードマップポータルサイトとは、国土交通省・国土地理院が運営する、全国のハザードマップへの入口となるWebサイトです。ここには性格の異なる2つのサービスが並んでいます。
ひとつが「重ねるハザードマップ」。洪水・土砂災害・高潮・津波などのリスク情報や道路防災情報、土地の特徴・成り立ちなどを、地図や写真に自由に重ねて表示できるサービスで、2014年(平成26年)6月から提供されています。全国どこでも同じ画面・同じ凡例で見られるのが強みです。
もうひとつが「わがまちハザードマップ」。こちらは全国の市町村が作成した独自のハザードマップへのリンク集で、2007年(平成19年)4月から続いています。市町村が配る紙の地図と同じ内容にたどり着けるため、避難場所や地域独自の注意事項まで拾えます。
全国共通の物差しで自宅の想定浸水深を知りたい → 重ねるハザードマップ。自分の市区町村が配る地図そのものを見たい・避難場所や地域の情報まで確認したい → わがまちハザードマップ。両方を1回ずつ見ておくと、抜けが出ません。
順番としては、まず重ねるハザードマップで自宅の点を確認するのが早いです。手順は次のとおり。
- ハザードマップポータルサイトを開く国土交通省・国土地理院が運営する disaportal.gsi.go.jp にアクセスし、「重ねるハザードマップ」を選びます。
- 自宅の住所を入れて地図を動かす住所検索で自宅周辺を表示し、建物が判別できるところまで拡大します。ここで見るのは町全体ではなく、あくまで自宅の1点です。
- 災害の種類を1つずつ表示する洪水・土砂災害・高潮・津波などを、まとめてではなく1種類ずつ重ねます。同時に重ねると、どの色がどの災害のものか判別できなくなります。
- 洪水は「想定最大規模」と「計画規模」の両方を見る洪水浸水想定区域には想定最大規模のレイヤーと計画規模のレイヤーがあり、区域の広さも深さも変わります。違いは後述のとおりです。
- わがまちハザードマップで自分の市区町村の地図も開く避難場所・避難経路、地域独自の注意書きはこちらにしか載っていないことがあります。
重ねるハザードマップでは、洪水浸水想定区域(想定最大規模)、洪水浸水想定区域(計画規模)、浸水継続時間(想定最大規模)、航空写真、指定緊急避難場所などをレイヤーとして選んで重ねられます(国土地理院「重ねるハザードマップ 操作マニュアル」令和7年3月)。浸水継続時間は見落とされがちですが、在宅避難を考えるうえで水と食料の日数を決める値になります。
色が示しているのは「浸水の深さ」。7段階の区分と階数の対応
浸水深とは、その場所が浸水したときに想定される水面の高さのことです。ハザードマップの色は、この浸水深を段階ごとに塗り分けたもので、色そのものに固有の意味があるわけではありません。
重ねるハザードマップとオープンデータでは、2024年8月1日の改定により浸水深の凡例が7段階に統一されました。20m以上/10m〜20m未満/5m〜10m未満/3m〜5m未満/0.5m〜3m未満/0.3m〜0.5m未満/0.3m未満、の順に色が段階的に変化し、薄い黄色系から濃い紫系へと濃くなっていきます。洪水だけでなく、内水(雨水出水)・高潮・津波の浸水想定区域図もこの7段階に統一されています(内水のみ、浸水深0〜0.1mの範囲は表示から除かれます)。
では、その数字は自宅の何階に相当するのか。内閣府(防災担当)の「避難行動判定フロー」が示す簡易凡例(4段階)の目安を、7段階の区分に当てはめて整理したのが下の表です。なお国土交通省「川の防災情報」も浸水深と避難行動の関係を示していますが、区切りの粒度が異なるため、ここでは内閣府の凡例を基準にしています。
| 区分(薄い色→濃い色) | 浸水の深さ | 公的資料で目安とされる状態 |
|---|---|---|
| 最も薄い側(1段階目) | 0.3m未満 | 1階の床下浸水(0.5m未満の帯として説明される) |
| 2段階目 | 0.3m〜0.5m未満 | 1階の床下浸水。大人の膝までつかる程度 |
| 3段階目 | 0.5m〜3m未満 | 1階の床上浸水〜1階の軒下まで浸水。大人の腰までつかる |
| 4段階目 | 3m〜5m未満 | 2階の床上浸水〜2階の軒下まで浸水 |
| 5段階目 | 5m〜10m未満 | 3階の床上浸水〜4階の軒下浸水。2階の屋根以上が浸水する領域 |
| 6段階目 | 10m〜20m未満 | 内閣府の簡易凡例(4段階)には対応する記載がないため、市区町村の凡例で確認 |
| 最も濃い側(7段階目) | 20m以上 | 同上 |
数字だけ並べると遠く感じますが、体に置き換えると距離が縮まります。0.5mは大人の膝、3mは1階の軒下、5mを超えたら2階の屋根より上。つまり自宅の点が「3m〜5m未満」に入っているなら、2階に上がっても床上まで水が来る想定ということです。
ここで注意したいのが、凡例が1種類ではないという点。全国のオープンデータと重ねるハザードマップは7段階に統一されましたが、市区町村が配布する紙のハザードマップは、旧来の手引きにもとづく5〜6段階の簡易凡例を使っていることがあります。内閣府の資料にも、着色や凡例は市町村によって異なる場合がある旨が明記されています。手元の紙の地図を読むときは、必ずその地図に印刷された凡例を見てください。
色の濃淡は同じ災害の中でだけ比べられます。洪水の赤系と土砂災害の赤系は別の意味です。1種類ずつ表示して読むのは、この混同を避けるためでもあります。
浸水想定のあるエリアでは、実際に足すべき備蓄の中身が少し変わります。水に浸かる前提で必要になるものは水害の備蓄品リストにまとめました。
同じ地図に載っている「災害の種類」を分けて読む
ハザードマップは1枚の地図ではなく、災害の種類ごとに作られた複数の地図の集合体です。種類が違えば、指定している主体も、規制の意味も違います。
洪水は「想定最大規模」と「計画規模」の2枚がある
洪水浸水想定区域図でつまずきやすいのが、この2つの規模の違いです。ここを知らないまま片方だけ見ると、想定を過小にも過大にも読み違えます。
| 呼び方 | どんな雨か | 年超過確率 | 位置づけ |
|---|---|---|---|
| 想定最大規模(L2) | その地域において想定し得る最大規模の降雨 | 概ね1/1000 | 2015年(平成27年)5月の水防法改正で、この降雨に対する区域図の作成・公表が制度化された |
| 計画規模(L1) | 長期的な河川整備の目標となる降雨規模 | 河川の重要度に応じて概ね1/10〜1/200 | 整備の目標として設定されている降雨 |
ここで誤解しやすいのが確率の読み方です。年超過確率1/100は「100年に1回起きる」という周期を意味しません。1年間にその規模を超える確率が1/100という意味で、100年の間に2回以上起こることも、1回も起こらないこともある——ハザードマップポータルサイトの「よくある質問」に、そう明記されています。1/1000も同じで、「1000年に1度の大雨」という言い方は正確ではありません。
自宅の想定を知るという目的なら、まず想定最大規模を見るのが素直です。区域が広く、深さも大きく出るため、備えを考える側の前提としては安全側に立てます。
土砂災害は「警戒区域」と「特別警戒区域」で意味が変わる
土砂災害警戒区域(通称イエローゾーン)とは、急傾斜地の崩壊・土石流・地すべりが発生した場合に、住民等の生命または身体に危害が生じるおそれがあると認められる区域のことです。都道府県知事が指定し、市町村地域防災計画への記載、警戒避難体制の整備、土砂災害ハザードマップによる周知が行われます(土砂災害防止法第7条等)。
土砂災害特別警戒区域(通称レッドゾーン)は、そのイエローゾーンのうち、急傾斜地の崩壊等で建築物に損壊が生じ、住民等の生命または身体に著しい危害が生じるおそれがある区域。こちらは指定されると、①住宅地分譲・社会福祉施設・学校・医療施設等の特定開発行為が許可制になる、②建築物の構造規制がかかり建築確認の対象になる、③著しい損壊が生じるおそれのある建築物の所有者等に移転勧告が行われる、という規制が加わります(同法第9条・第23〜25条)。
イエローとレッドの差は「色が濃いかどうか」ではなく、建物の壊れ方に踏み込んで規制がかかっているかどうか。レッドゾーンは、建築物に損壊が生じる前提で指定されている区域です。
高潮・津波も同じ7段階で読める
高潮と津波の浸水想定区域図も、2024年8月の凡例統一により洪水と同じ7段階で表示されます。深さの読み方が共通なので、洪水で覚えた「3mなら1階の軒下」という感覚をそのまま流用できます。
台風の接近時は、高潮とあわせて停電や物流の停止も同時に起こりえます。時間の流れに沿って何を先にそろえるかは台風に備える備蓄リストで時系列に並べました。
家屋倒壊等氾濫想定区域は、色の濃さと別枠で見る
家屋倒壊等氾濫想定区域とは、想定最大規模の降雨で河川が氾濫した場合に、氾濫流(洪水の流勢によって木造家屋等が流失・倒壊するおそれがある区域)または河岸侵食(洪水時の河岸侵食により家屋等が流失・倒壊するおそれがある区域)が生じるとして、国土交通大臣または都道府県知事が指定・公表する区域です。
この区域が重要なのは、浸水深の色が薄くても、そこでは「2階に上がる」が答えにならないから。内閣府(防災担当)の「避難行動判定フロー」は、自宅にとどまる「屋内安全確保」を選べる条件の1つに家屋倒壊等氾濫想定区域の外側であることを挙げています。裏を返せば、この区域の中では上の階へ移動するという選択肢が最初から外れ、立退き避難が前提になるということです。家ごと流されうる場所では、上の階へ移動しても前提が成立しません。
国土交通省 関東地方整備局が公表している家屋倒壊等氾濫想定区域図の解説には、この区域に指定されていない区域においても家屋倒壊・流出等が発生する場合がある旨が明記されています。区域の境界も厳密なものではなく目安とされています。「区域外だから大丈夫」という読み方はできません。
実務上のつまずきもひとつ。家屋倒壊等氾濫想定区域のデータは、自治体によって掲載されていない場合があります。重ねるハザードマップで表示されないときは、わがまちハザードマップ側や、市区町村の窓口で確認するのが確実です。
備蓄を扱うメディアとして正直に書くと、ここが一番怖い項目だと考えています。備蓄は「その場にとどまれる」ことが前提の備え。家屋倒壊等氾濫想定区域の中では、どれだけ水と食料を積んでも前提が崩れます。だから当サイトでは、備蓄の話をする前にこの区域の確認をお願いしています。
読み取った結果を、備えの中身に変換する
ここからが本題です。ハザードマップを見る目的は、地図を理解することではなく、自宅が「避難する家」なのか「在宅避難できる家」なのかを決めることにあります。判断の骨格は、内閣府(防災担当)の「避難行動判定フロー」が示しています。
同フローでは、浸水の危険がある場所でも、次の3つをすべて満たす場合に限り、自宅にとどまる「屋内安全確保」を選ぶことができるとされています。①洪水により家屋が倒壊・崩落するおそれの高い区域(家屋倒壊等氾濫想定区域)の外側であること、②浸水する深さよりも高い場所(居室)にいること、③浸水しても水がひくまで我慢できる水・食糧等の備えが十分にあること。原則は立退き避難であり、屋内安全確保はあくまで例外的な選択肢という位置づけです。
これを、自宅の地図を見ながらそのまま答えられる形に置き直しました。1つでも空欄が残るなら、それは「避難する家」側だと考えてください。
- 自宅は家屋倒壊等氾濫想定区域の外にある(区域内、または未確認なら該当しない)
- 普段いる階の床の高さが、想定浸水深より上にある(例:想定3m〜5m未満なら2階の床上まで浸水しうる)
- 浸水継続時間の間、水・食料・トイレの備えが足りている
- 自宅は土砂災害特別警戒区域(レッドゾーン)の外にある
- 家族に高齢者・障害のある人・妊産婦・乳幼児連れなど、避難に時間がかかる人がいない(いる場合は警戒レベル3の段階で動く前提になる)
| 判定 | 前提となる行動 | 備えの重心 | 動くタイミングの目安 |
|---|---|---|---|
| 1つでも欠ける=避難する家 | 避難所等への立退き避難(水平避難) | 持って出られる装備。1つにまとまった持ち出し品 | 警戒レベル4「避難指示」で危険な場所から全員避難。避難に時間がかかる人はレベル3「高齢者等避難」で |
| 3条件すべて満たす=在宅避難できる家 | 屋内安全確保も選択可(原則は立退き避難) | その場で消費し続けるもの。水・食料・トイレの日数分 | 同上。自治体が発令する避難情報に従う |
警戒レベルは1から5まであり、レベル3「高齢者等避難」とレベル4「避難指示」は市区町村が発令します。令和3年の災害対策基本法改正で「避難勧告」は廃止され、避難指示に一本化されました。レベル5「緊急安全確保」は災害の発生または切迫を示すもので、市区町村が可能な範囲で発令するため、必ず出るとは限りません。レベル5を待つ設計にはできない、ということです。
「避難する家」だった人が、最初にそろえるもの
持って出る前提の家では、備えの評価軸が「量」から「持てるか」に変わります。棚に分散して置いてある食料や水は、避難の直前にかき集められません。最初の1つは、リュックにまとまった状態で玄関に置けるものが動かしやすいはずです。
ここで挙げるのは、1人用の防災セット(リュック型・食品付き・40点)。非常食と水を含む40点が1つのリュックに収まっている構成で、中身を自分で選び直す前の「ひとまずの基準線」として機能します。1人用なので、家族の人数分を段階的に足していく買い方もできます。持ち出しを前提とする判定になった人が、最初に手をつける対象として素直な選択肢です。まずは現在の内容と在庫を確認してみてください。
市販の防災セットは、メーカーごとに点数の数え方も中身の質もかなり違います。当サイトでは各社の公表内容を1点ずつ確認して並べた市販の防災セットの比較を用意しているので、セットを本気で選び分けたい人はそちらもあわせてどうぞ。
「在宅避難できる家」だった人が、最初にそろえるもの
3条件を満たしてその場にとどまる場合、家は「避難所」になります。とはいえ、内閣府のフローが3つ目の条件に置いているのは、水がひくまで我慢できる水・食糧等の備えが十分にあること。裏を返せば、備えが足りなければ在宅避難は成立しないということでもあります。在宅避難が成立する条件の整理は在宅避難が成立する3つの条件に詳しくまとめました。
最初に効くのは水です。とどまる日数がそのまま必要量になるうえ、断水は浸水が引いたあとも続きます。ここで挙げるのは長期保存水(500ml×24本・5年保存)。500mlのペットボトルなので、1本=1回分として消費量を数えやすく、持ち運びも軽い。5年保存なので、買い替えの管理も年単位で済みます。ローリングストックの土台としてケース単位で置いておく前提なら、まず現在の在庫状況を見ておくとよいでしょう。
なお、マンションの高層階は「浸水深より高い場所」の条件を満たしやすい一方で、停電でエレベーターと給水ポンプが止まると、水の運搬という別の問題が立ち上がります。この分岐についてはマンション高層階の停電と断水で整理しました。上階だから安全、という単純な話にはなりません。
浸水想定が浅い家は、玄関と掃き出し窓を先に塞ぐ
判定が「在宅避難できる家」に落ち着き、しかも自宅の点が「0.3m未満」か「0.3m〜0.5m未満」——1階の床下浸水の帯に入っていた人には、もうひとつ手前の作業が残ります。水が入ってくる場所を、あらかじめ決めておくことです。色が薄い帯でも、床下に水が入れば断熱材と設備配管は濡れ、片付けと乾燥は週の単位でかかります。
家の中で水が入る場所は、だいたい決まっています。玄関、勝手口、掃き出し窓、それに半地下の階段や地下車庫の入口。開口部の下端が地面から低い順に、水は入ってきます。道具を買う前に、自宅のどこがいちばん低いのかを1回歩いて確かめてください。巻尺で下端の高さを測っておくと、あとで製品の高さと突き合わせられます。
この節で扱うのは道具の選び方だけです。水のう・土のう・止水板をどこに・どの順で置くかという手順そのものは、自治体が公表している方法に沿って家庭でできる浸水対策|水のう・土のう・止水板を自治体の公表手順で使い分けるにまとめました。設置の前には、そちらとお住まいの市区町村の案内を必ず確認してください。
止水の道具は、浸水を防げると約束するものではありません。メーカーが公表しているのは「何cmまでを想定した製品か」という数値で、それを超える水位には設計上対応していません。浸水深が大きい家、家屋倒壊等氾濫想定区域の中にある家では、開口部を塞ぐ作業よりも立退き避難が先です。避難するかどうか、いつ動くかの判断は、内閣府・国土交通省の資料と、お住まいの市区町村が発令する避難情報、気象庁の防災気象情報に従ってください。
| 地図で読み取った区分 | 開口部でやれること | 押さえておく限界 |
|---|---|---|
| 0.3m未満(最も薄い側) | 玄関・勝手口・掃き出し窓の下端を塞ぐ余地がある帯 | 家庭向け製品の公表値は10〜20cm程度。区分の上限より低いことがある |
| 0.3m〜0.5m未満 | 塞ぐのと同時に、家財を上階へ動かす手を並行させる | 大人の膝までつかる水位。水が来てからの屋外作業は危険 |
| 0.5m以上 | 開口部を塞ぐという発想では足りない | 立退き避難、または上階への移動が前提(家屋倒壊等氾濫想定区域の外である場合) |
玄関の幅を塞ぐ:旭電機化成の止水板(ABO-32903)
1つめは旭電機化成の止水板 3枚組(型番ABO-32903)です。同社の公式製品ページに記載されている仕様では、1枚の商品サイズが約W445×D50×H400mm、商品重量が約360g/1枚、本体の材質はポリプロピレン、付属の結束バンドはナイロン、クッションゴムはEPDM。板を横につないで幅を伸ばす構成で、公式ページには5枚セットすれば幅1.75m・高さ10cmまでの浸水を防げる、同社の吸水土のうを2段重ねすれば高さ20cmの止水ができる、と書かれています(旭電機化成 公式製品ページ)。
この数値の読み方が肝心です。10cm、土のうと組んでも20cm。ハザードマップのいちばん薄い区分「0.3m未満」の上限にすら届きません。浸水深の帯全体をカバーする道具ではなく、帯の下のほうに自宅が位置する場合の、開口部1か所ぶんの守り——そう受け取るのが正確です。だから先に測るのは自宅の玄関の幅と、下端の高さ。3枚で足りなければ連結して伸ばす前提の製品なので、必要な枚数は測ってから決まります。1枚360g程度という軽さも、水が迫る短い時間に1人で立てられるかどうかに直結する要素でしょう。現在の仕様と在庫は販売ページで確認できます。
土や砂が用意できない家に:水で膨らむ吸水土のう
板を立てても、地面との境やドア枠の隅には必ず隙間が残ります。その隙間を埋めるのが土のうの役割です。ところが集合住宅やアパートで暮らしていると、土や砂そのものが手に入らない。都市部では、土のうを積んでおく場所も無いという事情もあります。
2つめの水で膨らむ吸水土のうは、袋に吸水ポリマーを封じた形式で、水を吸わせると袋がふくらんで重さのある土のうになります。土砂を用意しなくていいのが利点。メーカー名は商品ページの表示のとおりで、型番は公表されていません。吸水後の重量やサイズ、吸水にかかる時間は製品ごとに違うため、購入ページに表示されている数値をそのまま確認してください。当サイトでは推測した数値を載せません。
段取りだけは先に決めておきたいところ。膨らませるには水が必要です。断水してから、あるいは水が玄関まで迫ってから袋を開けても間に合いません。浴槽に水を張るのと同じタイミング——台風の接近が分かった時点、大雨の警報が出た時点で、玄関先に置いて吸水させておくのが順番です。使う水は飲用でなくてかまいません。上の止水板と組み合わせる場合も、自治体が公表している積み方に沿って設置してください。
浸水を伴う停電で両手を空ける明かり:GENTOS EX-136S
水害では、浸水と停電がほぼ同時に来ます。家財を上階へ動かす、止水板を立てる、家族を連れて階段を上がる——どれも両手を使う作業です。片手が塞がる懐中電灯より、置いて面を照らせるランタンのほうが役に立つ場面が多い。立退き避難で避難所に入ったあとも、手元の明かりとして続けて使えます。
3つめはGENTOS(ジェントス)のLEDランタン EX-136S。公式サイトの仕様では、明るさ370ルーメン(Highモード)、質量355g(電池含む)、サイズφ78.0×141.5mm、使用電池は単3形アルカリ乾電池6本。点灯時間はHigh 9時間・Mid 18時間・Eco 142時間・キャンドルモード60時間で、保護等級はIP67準拠(防塵・1m防水)、2m落下耐久、水に浮く構造と記載されています(GENTOS 公式製品ページ)。
浸水を前提にすると、この2つが効きます。1m防水と、水に浮くこと。足元が濡れている場所で取り落としても、沈まないなら拾い直せます。乾電池式なので、充電式のように停電後の残量に左右されないのも水害では素直な設計です。ただし単3形6本という本数は、備蓄側で確保しておく必要があります。停電が絡む水害でそろえるものの全体像は水害の備蓄品リストにまとめています。
この節の3点は、すべて「浸水深が浅い」と地図で読み取れた家を前提にしています。判定が「避難する家」だった場合は、優先順位が持ち出しの装備と早い避難に移り、開口部の作業はその次です。順番を入れ替えないでください。
ハザードマップでわからないこと
ハザードマップは、想定にもとづいて危険性の高い区域を着色した地図です。したがって、着色されていない場所が安全であることを示す地図ではありません。ここは公的資料が繰り返し注意している点なので、そのまま引きます。
- 大雨特別警報が発表されるような極端な大雨や大地震の場合には、ハザードマップに表示がある範囲を超えて浸水や、土石流・地滑り・がけ崩れが発生することがある(ハザードマップポータルサイト「よくある質問」)
- 土砂災害警戒区域でない区域でも土砂災害が発生する場合がある。危険性が表示されていなくても、渓流沿いやがけ地の近辺は土石流やがけ崩れが発生するおそれがある(同上)
- 着色されていないところでも災害が起こる可能性がある。色が塗られていなくても、周りと比べて低い土地や崖のそばに住んでいる場合は、市区町村からの避難情報を参考に必要に応じて避難する(内閣府「避難行動判定フロー」)
- 家屋倒壊等氾濫想定区域の外でも、家屋倒壊・流出等が発生する場合がある(国土交通省 関東地方整備局)
もうひとつ、時間の問題があります。ハザードマップは想定計算にもとづく静的な情報で、改定は数年から十数年の単位。一方で、当日の危険度を示すのは気象庁の「キキクル(危険度分布)」で、大雨警報・洪水警報等が発表された際に概ね10分ごとに更新される1kmメッシュの情報です。事前に見るのがハザードマップ、当日見るのがキキクル。役割が分かれています。
ハザードマップの色は「起こりうることの上限に近い姿」を描いたもので、いま危険かどうかを示すものではありません。この記事の判定も、あくまで平時に自宅の前提を決めるためのもの。実際に動くかどうかの判断は、市区町村の避難情報と気象庁の防災気象情報に従ってください。
見たあとにやっておくと効く3つのこと
地図を読んだ状態を、いざというときに使える形に落とすまでが準備です。手数は多くありません。
- 印刷して紙で持つスマホが使えない状況を前提にすると、自宅と避難場所が写った範囲を紙で持っておく価値が出ます。わがまちハザードマップ経由なら、市区町村が配布する版をそのまま入手できます。
- 家族で同じ結論を共有する「うちは避難する家」なのか「とどまれる家」なのかを、家族全員が同じ答えで持っていること。判定と、行き先と、連絡手段の3つを合わせておくと迷いが減ります。連絡手段は家族の安否確認方法(171・災害用伝言板)に手順をまとめました。
- 警戒レベルとの対応を確認する自宅の判定と、どのレベルで動くかをセットにします。避難に時間がかかる人がいる家庭はレベル3「高齢者等避難」、それ以外はレベル4「避難指示」が全員避難のタイミングです。
防災気象情報の名称は2026年5月29日に新体系へ移行しました。河川氾濫・大雨・土砂災害・高潮の4種類について、レベル2=注意報、レベル3=警報、レベル4=新設の「危険警報」(氾濫危険警報・大雨危険警報・土砂災害危険警報・高潮危険警報)、レベル5=特別警報という形に統一されています。以前の「土砂災害警戒情報」は「土砂災害危険警報」へ呼称が変わりました。ただし、市区町村が発令する避難情報と、気象庁等が発表する警戒レベル相当情報は、対象地域やタイミングが必ずしも一致しません(内閣府「避難情報のポイント」/気象庁「気象業務はいま2026」)。
ハザードマップの見方についてよくある質問
Q. ハザードマップの色は何を意味しているのですか?
A. 洪水・内水・高潮・津波では、色は想定される浸水の深さを表します。重ねるハザードマップとオープンデータでは2024年8月1日の改定で7段階に統一され、20m以上/10m〜20m未満/5m〜10m未満/3m〜5m未満/0.5m〜3m未満/0.3m〜0.5m未満/0.3m未満の順に、薄い黄色系から濃い紫系へ変化します。ただし市区町村が配る紙の地図は5〜6段階の簡易凡例を使っている場合があるため、その地図に印刷された凡例を必ず確認してください。
Q. 「重ねるハザードマップ」と「わがまちハザードマップ」はどちらを見ればいいですか?
A. 用途が違うので、両方を一度ずつ見るのが確実です。重ねるハザードマップは国土交通省が提供する全国共通のWebサービスで、洪水・土砂災害・高潮・津波などのリスク情報や土地の成り立ちを自由に重ねられます。わがまちハザードマップは全国市町村が作成した独自のハザードマップへのリンク集で、避難場所や地域固有の情報にたどり着けます。
Q. マンションの上層階なら、浸水は関係ないと考えていいですか?
A. 「浸水する深さよりも高い場所(居室)にいる」は、内閣府の避難行動判定フローが示す屋内安全確保の3条件のうちの1つにすぎません。残る2つ——家屋倒壊等氾濫想定区域の外側であること、水がひくまで我慢できる水・食糧等の備えが十分にあること——も満たす必要があります。停電や断水が重なると上層階ほど生活の負担が増える点も含めて判断してください。最終的な行動は市区町村の避難情報に従ってください。
Q. 洪水の「想定最大規模」と「計画規模」はどちらを見るべきですか?
A. 自宅の備えを考える目的なら、まず想定最大規模です。想定最大規模は年超過確率が概ね1/1000の、その地域で想定し得る最大規模の降雨によるもの。計画規模は長期的な河川整備の目標となる降雨で、年超過確率は河川の重要度に応じて概ね1/10〜1/200です。なお1/100は「100年に1回」という周期ではなく、1年間にその規模を超える確率を指します。
Q. 家を借りる・買うときに、ハザードマップの説明は受けられますか?
A. 宅地建物取引業法施行規則の改正(令和2年内閣府令・国土交通省令第2号)により、重要事項説明の対象項目に「水防法にもとづく水害(洪水・雨水出水・高潮)ハザードマップにおける対象物件の所在地」が追加されました。施行は令和2年8月28日で、売買・賃貸のいずれも対象です。土砂災害警戒区域・特別警戒区域内の物件についても、宅地建物取引業法第35条等にもとづき区域内である旨の説明が義務づけられています。
Q. ハザードマップで色が塗られていなければ安全ということですか?
A. そうは言えません。ハザードマップポータルサイトの「よくある質問」には、大雨特別警報が発表されるような極端な大雨や大地震の場合、表示された範囲を超えて浸水や土石流・地滑り・がけ崩れが発生することがあると明記されています。内閣府の避難行動判定フローも、着色されていないところでも災害が起こる可能性があるとしたうえで、周りと比べて低い土地や崖のそばに住む場合は市区町村からの避難情報を参考に必要に応じて避難するよう促しています。
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まとめ:今日やることは、自宅の点を1回開くこと
ハザードマップの見方は、突き詰めると地図の知識ではありません。自宅の1点から浸水深と家屋倒壊等氾濫想定区域の有無を読み取り、それを「避難する家」か「在宅避難できる家」かという1つの判定に変える。そこまで進めば、そろえるものの向きは自然に決まります。
今日やることは1つだけ。重ねるハザードマップで自宅を1回開くことです。
- 自宅の点を出すハザードマップポータルサイトの重ねるハザードマップで住所を検索し、建物が見える倍率まで拡大します。
- 2つの値を読む想定最大規模の浸水深がどの区分か、そして家屋倒壊等氾濫想定区域に入っているかどうか。この2つをメモします。
- 判定して、備えの向きを決める本記事のチェックリストで自宅がどちら側かを判定し、判定に合った備えから手をつけます。全体像は家庭の備蓄品リスト完全版で確認できます。
くり返しになりますが、避難するかどうか、いつ動くかの最終的な判断は、お住まいの市区町村が発令する避難情報と、気象庁が発表する防災気象情報に従ってください。ハザードマップは、その判断を早く正確に下すための事前準備の道具です。
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参考・出典
- 国土交通省・国土地理院「ハザードマップポータルサイト」/同 広報資料(https://disaportal.gsi.go.jp/)2026年8月10日確認
- 国土地理院「重ねるハザードマップとオープンデータの凡例統一について」(2024年8月1日掲載)2026年8月10日確認
- 国土地理院「重ねるハザードマップ 操作マニュアル」(令和7年3月)2026年8月10日確認
- ハザードマップポータルサイト「よくある質問」(https://disaportal.gsi.go.jp/hazardmap/faq/faq.html)2026年8月10日確認
- 内閣府(防災担当)「避難行動判定フロー」(flow.pdf)2026年8月10日確認
- 内閣府(防災担当)「避難情報のポイント」(point.pdf)2026年8月10日確認
- 国土交通省「川の防災情報」浸水深と避難行動について(city.river.go.jp)2026年8月10日確認
- 国土交通省「土砂災害防止法の概要」(mlit.go.jp)2026年8月10日確認
- 国土交通省「洪水浸水想定区域図・洪水ハザードマップ」家屋倒壊等氾濫想定区域の公表について(mlit.go.jp)2026年8月10日確認
- 国土交通省 関東地方整備局 京浜河川事務所「家屋倒壊等氾濫想定区域図」解説(区域外でも家屋倒壊等が発生しうる旨の注記)(ktr.mlit.go.jp)2026年8月10日確認
- 気象庁「洪水キキクル」解説ページ(jma.go.jp)2026年8月10日確認
- 気象庁「気象業務はいま2026」特集1 新たな防災気象情報 2026年8月10日確認
- 国土交通省 報道発表資料「不動産取引時において、水害ハザードマップにおける対象物件の所在地の説明を義務化」(mlit.go.jp)2026年8月10日確認
