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夜11時すぎ、エアコンの運転音がふっと消える。冷蔵庫も静かになって、部屋の空気がそこで止まる。窓を開けても入ってくるのは外の熱気だけ——真夏の停電で最初に起きるのは、たいていこれくらい地味な変化です。
この場面で先に効くのは、涼しさを新しく作る道具ではありません。体温を上げない過ごし方と、扇風機1台を回し続けられるだけの電源。公表データを並べると、そこに落ち着きました。総務省消防庁の確定値では、令和7年(2025年)5〜9月の熱中症による救急搬送100,510人のうち住居が38,292人(38.1%)で最多。電気が使えていた夏でも、いちばん多いのは住居です。停電そのものへの初動は停電したらまず何をするかの記事に時系列でまとめてあり、この記事はそこから枝分かれして「冷房が止まった家」だけを扱います。
この記事でわかること
- 停電直後にやることの順番(冷蔵庫・情報・暑さ指数)
- 電気なしで涼をとる手立てと、環境省が示す扇風機の限界
- ポータブル電源で扇風機を何時間動かせるかの計算式と早見表
- 冷蔵庫を開けない時間の目安と、中身を移す順番
この記事は、公的機関とメーカーが公表している内容を整理したものです。医療的な判断は扱いません。意識がはっきりしない、呼びかけへの反応がおかしい、自分で水分を飲めない——そうした状態のときは、ここに書いた手順を試すより先に、我慢せず医療機関や救急に相談してください。環境省の熱中症予防情報サイトには、対処方法(応急処置)のチェックシートがあります。
停電した直後にやることは、涼しくすることではない
停電直後の初動とは、これから数時間を電気が無い前提で過ごすために、家の状態を切り替える作業のことです。順番があります。
- 冷蔵庫のドアから手を離すパナソニックは公式FAQで「ドアを開けなければ約2〜3時間、庫内の冷えを保つことができます」と案内しています。開閉のたびに冷気が逃げる。触らないと決めるのが確実です。
- スマホの残量を確認する復旧見込みは電力会社の停電情報で出ます。心もとないなら通信以外の用途を止めておく。
- 暑さ指数(WBGT)と熱中症警戒アラートを確認する環境省は暑さ指数を危険(31以上)/厳重警戒(28以上31未満)/警戒(25以上28未満)/注意(25未満)の4区分で示し、屋内では「エアコン等を適切に使用し、涼しい環境で過ごす」ことを推奨しています。
- 自宅でしのぐか、涼しい場所へ移るかを決める暑さ指数が高い日ほど、判断は早いほど動きやすい。
熱中症警戒アラートは、いずれかのWBGT地点で日最高暑さ指数が33に達すると予測される場合に、前日17時と当日5時に発表されるものです(全国841地点が対象)。つまり33が出ている日の停電とは、「冷房を使ってしのぐ想定の日に、その冷房が無い」状態。備えの優先順位は、そこから逆算すると決まります。
電気なしで涼をとる手立てには、公的資料が示す限界がある
扇風機の限界とは、環境省の資料が「気温が36℃より高い場合には、扇風機は熱風を送ってしまい、逆効果になることがあります」と記載している、その状態のことです。熱中症環境保健マニュアルの抜粋資料(p.25)にあります。
誤解が起きやすい箇所です。扇風機が役に立たない、という話ではない。エアコンの気流に関する項での記述で、扇風機単体の使用を否定したものでもありません。ただ、気温が上がりきった時間帯に扇風機だけで押し切る考え方には、公式資料が線を引いている。ここは押さえておく価値があります。
水分・塩分について、環境省は「のどが渇く前あるいは暑いところに出る前から水分を補給しておくことが大切」「汗の原料は血液中の水分や塩分」と記載し、あわせて「アルコールで水分を補給しようとする考え方は誤り」としています(同資料p.26)。停電の夜にビールが飲みたくなる場面かもしれませんが、記述はこのとおり。
停電がどれくらい続くかの実績も公表されています。2018年の北海道胆振東部地震では道内全域で約295万戸が停電し、2日間で99%まで復電、完全回復には約45時間を要しました(資源エネルギー庁)。2019年の台風15号(千葉)では、経済産業省が「大方は一両日中に復旧するが、被害が大きい場所は1週間以上かかる」との見通しを公表。一晩で終わる場合と数日続く場合の両方を想定しておくと、必要な容量も見積もりやすくなります。
ポータブル電源で扇風機が何時間動くかは、かけ算1つで出る
使用可能時間とは、電源の容量(Wh)に変換効率をかけ、つなぐ家電の消費電力(W)で割って出す概算値です。ポータブル電源メーカーのJackery Japanは、公式ブログで次の式を示しています。
使用可能時間(h)= バッテリー容量(Wh)× 0.8 ÷ 家電の消費電力(W)
電力変換時のロスがあるため、実容量の8割程度で見積もるのが一般的とされています。
あとは家にある扇風機のW数を入れるだけ。メーカー公表値を並べると、同じ「扇風機」でも消費電力に3倍近い開きがありました。パナソニックの比較表ではDCモーターのF-C337Dが約15W、F-C339Dが約22W、ACモーターのF-C324Dが約35〜40W(いずれも最大風量・首振り時)。アイリスオーヤマのサーキュレーターPCF-SC15Tは上下左右首振り時で38/36Wと公表されています。
これを式に入れたのが下の表。いちばん右は「容量100Whあたり何時間か」で、手持ちの容量を100で割って掛ければ自分の数字が出ます。
| 機種(メーカー公表値) | 消費電力 | 512Whクラスの電源での目安 | 容量100Whあたりの目安 |
|---|---|---|---|
| パナソニック F-C337D(DCモーター) | 約15W | 約27時間 | 約5.3時間 |
| パナソニック F-C339D(DCモーター) | 約22W | 約18時間 | 約3.6時間 |
| アイリスオーヤマ PCF-SC15T(サーキュレーター) | 38/36W | 約10〜11時間 | 約2.1〜2.2時間 |
| パナソニック F-C324D(ACモーター) | 約35〜40W | 約10〜11時間 | 約2.0〜2.3時間 |
比較表に出したのはメーカーが消費電力を公表している機種ですが、選ぶ側の結論はもっと単純です。DCモーターかどうかで、同じ電源から引き出せる時間が倍近く変わる。停電を前提に1台選ぶなら、そこだけ外さなければ大きく損はしません。山善のサーキュレーター YARP-QD15(C) はDCモーターで、Amazonの商品ページには「モバイルバッテリーでも動かせる/PD対応」と表示されています(2026年8月10日確認)。ポータブル電源を持っていない家でも、手元のモバイルバッテリーで風を作れる余地があるということです。消費電力の実数と対応する規格は、販売ページとメーカーの最新情報で確かめてください。
体感に置き換えます。512Whクラスに22WのDC扇風機をつなぐと約18時間、夜の8時間を2晩ぶん回してもまだ余る長さです。40Wクラスなら約10時間で一晩と少し。扇風機しだいで倍近く変わる。何人ぶん・何日ぶん必要かの逆算はポータブル電源の容量を人数×日数で決める考え方で整理しています。
表の基準を「512Whクラス」に置いたのは、市販品にこの容量帯があるためです。アンカー・ジャパンのAnker 535 Portable Power Station(PowerHouse 512Wh)が、製品名のとおり512Whを公表しています。表で自分が出した時間——22Wの扇風機なら約18時間——が、そのままこの容量帯の目安に対応する。あとは販売ページで現在の仕様を見ておいてください。
真夏に備える持ち物は、冬の停電とは中身が違う
真夏の備えとは、明かりと情報という共通項に「体温を上げない手立て」と「食品の温度を保つ手立て」を足したもののことです。冬なら着込めば済む部分が、夏は道具でしか埋まりません。
- 消費電力の小さい扇風機かサーキュレーター/冬は衣類で体温を保てるが、夏は着るもので下げられないため
- ポータブル電源/その扇風機を何時間回せるかが、自宅にとどまれる時間の目安になるため
- クーラーボックスと保冷剤/冬は室温が保冷代わりになるが、夏は冷蔵庫を出た食品の温度が上がる一方だから
- 飲料水(ふだんの備蓄より多め)/環境省が「のどが渇く前あるいは暑いところに出る前から水分を補給しておくことが大切」と記載しており、消費ペースが冬より速いため
- モバイルバッテリー/暑さ指数、警戒アラート、復旧見込みと、確認したい情報が冬より多いため
- カセットコンロとボンベ/イワタニ・プリムスは直射日光の当たらない40℃以下での保管を推奨。ボンベ本体にも「40度以上になる車内などに置かない」と明記され、ダッシュボード上など70℃を超える場所では破裂のおそれがあるとされています。夏は置き場所そのものが条件になるため、車載の防災バッグに入れっぱなしなら見直しを
この中で真夏に優先度が上がるのがモバイルバッテリーです。冬なら明かりがあれば落ち着けますが、夏は「いつ復旧するか」で自宅にとどまるかの判断が変わるため、通信を切らさないこと自体が備えになります。容量の決め方は防災用モバイルバッテリーの容量の考え方にまとめました。製品としては、アンカー・ジャパンのAnker Power Bank(20000mAh・30W出力)のように20000mAhクラスで30W出力を公表しているものが、情報と連絡を保つ最小限に当たります。扇風機は動かせない代わりに軽く、避難時にそのまま持ち出せます。ふだん使うモールで現在の仕様を見ておいてください。
もうひとつ、真夏だけ必要量が変わるのが水です。環境省の資料にあるとおり補給のペースが上がるうえ、停電中は冷やせないので、冷蔵庫の麦茶をあてにできません。ふだんの備蓄に上乗せするなら、1本を飲みきりやすい500mlサイズのほうが扱いやすい。アイリスオーヤマの保存水は500ml×24本で、製造から5年の長期保存を公表しています。ローリングストックで回している水とは別に「動かさない箱」をひとつ持っておくと、夏場の消費が読めなくても足りなくなりません。必要な本数の出し方は水の備蓄は1人何リットルかで計算式にしてあります。
冷蔵庫は開けない。目安は約2〜3時間
停電時の冷蔵庫とは、電源が切れた瞬間から庫内の冷気を消費し続けるただの保冷箱です。パナソニックの公式FAQは「ドアを開けなければ約2〜3時間、庫内の冷えを保つことができます」「ドアの開閉は極力控えてください」と案内しています。2〜3時間は、夕食を作って食べ終え、片付けが済むくらいの長さ。短い。
だから開けるのは「これを取り出す」と決めてからの1回にまとめるほうが、結果的にもちます。メーカー6社の公表値を並べた比較は停電中の冷蔵庫は何時間もつかの記事にあり、社によって案内に幅があることも確認できます。なお復旧後は、コンプレッサー保護のため7分以上待ってから通電させるよう同社は案内しています。
2〜3時間を超える見込みなら、中身をクーラーボックスへ移す判断に切り替えます。冷凍室のものを保冷剤代わりに下へ敷き、その上に冷蔵室の食品を載せる。食べる順番は停電に備える食べ物の記事で整理しています。
クーラーボックスの保冷時間は、製品と保冷剤の組み合わせで変わります。ロゴスは「氷点下パック」と特定型番のクーラーボックス(サーモテクト氷点下クーラー)を組み合わせた参考値として、50Lで6日間、30Lで4日間と公表。全般の値ではありませんが、容量が大きいほど保冷が持続しやすいという傾向は読み取れます。
実際に選ぶ枠としては、コールマン(Coleman)のエクストリームクーラーのように保冷力を製品名に掲げているシリーズが該当します。保冷日数は容量や使用条件で変わるため、ここでは具体的な時間を書きません。容量(何Lか)と公表の保冷日数を販売ページで見比べてください。冷蔵庫の中身を丸ごと移すなら、思っているより大きい容量が要ります。
「エアコンが止まると室温が何度まで上がるか」の数字を出さなかったのには理由があります。環境省・気象庁・国民生活センターを当たったのですが、該当する公表データが見つかりませんでした。企業ブログには「猛暑日には40℃近く」といった記述もあります。ただ出典が確認できないものは載せません。
この備えが向かないケース
自宅でしのぐ前提が置けない家とは、冷房が止まること自体が健康上の問題に直結しうる人がいる家です。
消防庁の確定値では、令和7年(2025年)5〜9月の熱中症による救急搬送のうち65歳以上が57,433人(57.1%)と過半数を占めました。発生場所が住居で最多という傾向も、令和5年(36,541人・39.9%)から令和7年(38,292人・38.1%)まで一貫しています。高齢の家族がいる場合や、医師から冷房環境を保つよう言われている持病がある場合は、扇風機と電源で自宅をしのぐ計画を主軸に置かず、事前に医療機関や自治体へ相談してください。
その場合にやるのは、停電してからの工夫ではなく事前の相談です。かかりつけの医療機関に停電時の対応を確認しておく。自治体に、暑さをしのげる公共施設や避難先の開設条件を聞いておく。電源が必要な医療機器があるなら確保方法も相談する。ここは記事の情報で代替できない部分です。避難先へ移る場合の暑さは夏の避難所の暑さ対策に別途まとめました。
よくある質問
Q. 停電中、扇風機だけで涼しくなりますか?
A. 環境省の資料には「気温が36℃より高い場合には、扇風機は熱風を送ってしまい、逆効果になることがあります」と記載されています。気温が上がりきる時間帯に扇風機だけで押し切る想定は避け、涼しい場所へ移る選択肢も併せて考えてください。
Q. ポータブル電源は、どのくらいの容量があれば足りますか?
A. 用途で変わるため、まず計算してみてください。式は「容量(Wh)× 0.8 ÷ 消費電力(W)」。512Whクラスに22Wの扇風機をつなぐと約18時間、40Wクラスなら約10時間が目安。何時間ぶん確保したいかを決めてから逆算するほうが、買い直しが起きにくくなります。
Q. 具合が悪くなったときは、どこに相談すればいいですか?
A. 判断を記事や家族の経験に委ねず、医療機関や救急に相談してください。環境省の熱中症予防情報サイトには対処方法(応急処置)のチェックシートがあります。意識がはっきりしない、自分で水分を飲めないといった状態は、この記事が扱える範囲の外です。
あわせて読みたい: 停電したらまず何をする?発生直後10分→3時間→1日の時系列やることリスト
まとめ:今日やることは1つだけ
真夏の停電で効くのは、涼しさを新しく作ることではなく、体温を上げない過ごし方と扇風機を回し続けられるだけの電源でした。冷蔵庫は開けない(目安は約2〜3時間)。扇風機は、気温が36℃より高い場合には逆効果になることがあると環境省が記載している。この2つで当日の判断はだいぶ楽になります。
今日やることは買い物ではありません。家にある扇風機の消費電力(W)を、本体のラベルか取扱説明書で確認する。これだけです。15Wか40Wかで、必要な電源の容量が倍以上変わってしまうからです。
- 扇風機のW数を調べる本体背面のラベルか説明書に記載があります。DCモーターかACモーターかでも大きく違う。
- 必要な時間から容量を逆算する「容量(Wh)× 0.8 ÷ 消費電力(W)」に、確保したい時間を当てはめます。一晩8時間か二晩かを先に決めてください。
- 電源以外の3つを点検するクーラーボックス、飲料水、カセットボンベの保管場所。自宅で過ごせるかは電源だけで決まらないので、在宅避難が成立する3つの条件の側からも見ておくと抜けに気づけます。
最後にもう一度だけ。この記事は公的資料とメーカー公表値を整理したもので、医療の判断は扱いません。具合が悪いときは我慢せず、医療機関や救急に相談してください。
参考・出典
- 環境省 熱中症予防情報サイト「熱中症警戒情報とは」(暑さ指数の区分・警戒アラートの発表基準)https://www.wbgt.env.go.jp/sp/about_alert.php(2026年8月10日時点)
- 環境省 熱中症予防情報サイト「熱中症の対処方法(応急処置)チェックシート」https://www.wbgt.env.go.jp/heatillness_checksheet.php(2026年8月10日時点)
- 環境省「熱中症を防ぐためには」(熱中症環境保健マニュアル抜粋・p.25、p.26)https://www.env.go.jp/chemi/heat_stroke/manual/003-1.pdf(2026年8月10日時点)
- 総務省消防庁「令和7年(5月~9月)の熱中症による救急搬送状況」確定値https://www.fdma.go.jp/disaster/heatstroke/items/r7/heatstroke_nenpou_r7.pdf(2026年8月10日時点)
- 総務省消防庁「令和5年(5月~9月)の熱中症による救急搬送状況」確定値https://www.fdma.go.jp/disaster/heatstroke/items/r5/heatstroke_nenpou_r5.pdf(2026年8月10日時点)
- Jackery Japan 公式ブログ「ポータブル電源の使用可能時間」https://www.jackery.jp/blogs/power-station/using-time-of-power-station(2026年8月10日時点)
- パナソニック 扇風機 公式比較表https://panasonic.jp/fan/comparison.html(2026年8月10日時点)
- アイリスオーヤマ 公式商品サポート(PCF-SC15T)https://www.irisohyama.co.jp/products/support/4967576347761(2026年8月10日時点)
- パナソニック 公式FAQ(停電時の冷蔵庫の扱い)https://jpn.faq.panasonic.com/app/answers/detail/a_id/9886/(2026年8月10日時点)
- イワタニ・プリムス 公式ブログ(カセットボンベの保管温度)https://www.iwatani-primus.co.jp/blog/2022/0808/index.html(2026年8月10日時点)
- ロゴス 公式(氷点下パック使用時の保冷時間)https://www.logos.ne.jp/special/127(2026年8月10日時点)
- 資源エネルギー庁(経済産業省)特設ページ(北海道胆振東部地震によるブラックアウト)https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/blackout.html(2026年8月10日時点)
- 経済産業省 電力レジリエンスワーキンググループ資料(台風15号の復旧見通し)https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/denryoku_gas/denryoku_gas/resilience_wg/pdf/005_04_00.pdf(2026年8月10日時点)
