本記事にはアフィリエイト広告(プロモーション)を含みます。
マンションの防災で最初に確かめるのは、階数ではなく給水方式です。3階までの直圧給水なら停電しても水は止まりませんが、増圧直結給水ならポンプが止まった瞬間に中高層階の水圧が落ちます。受水槽と屋上の高置水槽を持つ建物なら、停電直後はしばらく水が出て、水槽が空になったところで終わります。同じ「マンション」という言葉でくくられていても、停電の1時間後に起きることは三者三様なのです。
ところが、検索して出てくる記事の多くは「高層階は揺れが大きい」「エレベーターが止まる」という一般論で止まっています。そこに階数の話が加わることはあっても、給水方式まで踏み込んで「あなたの家は停電で水が止まる側か、止まらない側か」を切り分けた記事はほとんど見当たりません。備蓄水を何リットル置くかも、給水袋を何個買うかも、本当はそこで決まるはずなのに、です。
この記事は、そなえぐらしのマンション防災の入口として、判断の順番だけを整理します。個別の詳細——ベランダに置いてよい物の線引き、エレベーターに閉じ込められたときの動き方、備蓄の置き場所——は、それぞれ専用の記事に譲ります。最後に、あなたのマンションのタイプから読むべき記事を選べる振り分け表を置きました。
この記事でわかること
- 給水方式が3種類あり、停電したときの挙動がそれぞれ違うこと(対応表)
- 自分のマンションがどの方式かを、管理会社と共用部の2方向から確かめる手順
- 階数と給水方式を掛け合わせて、備えの優先順位を決める考え方
- 高層階の揺れ・エレベーター・トイレという、マンション特有の3つの論点
- あなたのマンションのタイプ別に、次に読むべき記事
マンションの防災は「階数」「給水方式」「共用部」の3つで決まる
マンション防災とは、専有部(自分の住戸)だけでは完結しない備えのことです。戸建てなら、水道・電気・玄関・階段のすべてが自分の敷地の中で完結します。マンションはそうではありません。水は共用部の設備を通って上がってきますし、上下の移動は共用のエレベーターと階段に頼っています。だから、備えを考える軸も戸建てとは違ってきます。
その軸は3つです。
- 階数——揺れ方と、物を運ぶ距離が変わる
- 給水方式——停電が断水に直結するかどうかが変わる
- 共用部——自分ひとりでは手を出せない領域があり、管理組合の判断が要る
戸建て向けの防災情報をそのままマンションに持ち込むと、この3つが抜け落ちます。たとえば「水は1人1日3リットル」という目安は建物の種類を問いませんが、その水を止めるスイッチがどこにあるかは建物によって違う。マンションでは、そのスイッチが自分の家の外——共用部の給水ポンプにあることが多いのです。
マンションの防災は「何を買うか」より先に「自分の家は停電で水が止まる側か、止まらない側か」を確かめるところから始まります。ここが決まらないと、備蓄水の量も、給水袋の要否も、置き場所も決められません。
足立区や世田谷区の公式ページでも、マンション特有の注意点として「停電すると電気でくみ上げている水が止まる」「エレベーターが停止すると高層階への運搬が難しくなる」という構造が繰り返し説明されています。逆に言えば、公的資料が挙げているマンション固有のリスクは、ほぼこの2本に集約できます。水と、上下の移動です。
なお、「マンションの備蓄は戸建てより重要だ」と正面から比較して述べた公的資料は、今回の調査では見つかりませんでした。書けるのは構造的な理由——停電が断水に直結しうること、エレベーターが止まると高層階への運搬が困難になること——までで、それ以上の優劣は言えません。この記事も、そこから先には踏み込まない方針で書いています。
停電で水が止まる家と、止まらない家がある
給水方式とは、道路の下を走る配水管から各住戸の蛇口まで、水をどうやって届けるかの設計です。大きく分けて、ポンプを使わない方式、ポンプで圧力を上げる方式、いったん水槽に貯めてから配る方式の3つがあります。停電したときの違いは、ここから生まれます。
先に、ややこしい話をひとつ片づけておきます。この3方式の呼び名は、水道局によって違います。東京都水道局は「貯水槽水道方式」「増圧直結給水方式」「3階までの直圧給水方式/特例直圧給水方式」という言い方をしています。大阪市水道局は同じものを「受水槽方式」「直結増圧式給水」「直結直圧式給水」と呼びます。Web上でよく見かけるのは大阪市側に近い呼称ですが、東京都に住んでいる人が都の資料を読むと「受水槽方式」という語が出てこないので戸惑います。どちらかが正式でどちらかが俗称、という関係ではありません。
| 方式(東京都水道局の呼称) | 大阪市水道局の呼称 | 仕組み | 停電したとき |
|---|---|---|---|
| 3階までの直圧給水方式/特例直圧給水方式 | 直結直圧式給水 | 配水管の水圧だけで各戸へ届ける。ポンプを使わない | 影響を受けない。配水管そのものが健全であれば断水しない |
| 増圧直結給水方式(標準型/直列多段型/並列型) | 直結増圧式給水 | 配水管に増圧ポンプを直結し、水圧を上げて中高層階まで届ける | すぐに影響が出る。低層階は配水管の元圧でそのまま出ることが多いが、中高層階は水圧不足で断水(大阪市水道局の説明) |
| 貯水槽水道方式 | 受水槽方式 | 受水槽に貯めた水をポンプで屋上の高置水槽へ揚げ、そこから自然流下で各戸へ配る | 猶予がある。揚水ポンプは止まるが、高置水槽に残っている水は自然流下で使える。使い切れば断水。非常用給水栓があれば、配水管が生きている限り応急給水に使える場合がある(大阪市水道局の例) |
つまりどういうことか。停電というひとつの出来事が、家によって「何も起きない」「即座に蛇口が細る」「数時間しのげるが、そのあと止まる」という3通りに分かれるわけです。高置水槽の残水がどれくらい持つかは水位と建物の規模で変わるため、何時間と言い切ることはできません。数時間から半日程度と説明されることが多い、という言い方が限界です。
注意:この表は「停電だけが起きた場合」の話です。地震で配水管そのものが壊れれば、どの方式でも水は来ません。直圧給水だから安心、という読み方はしないでください。停電に強いことと、震災に強いことは別の話です。
高層階に住んでいて、停電と断水がどの順番で襲ってくるのかを具体的に知りたい方は、マンション高層階の停電と断水で先に止まるのは水という話で時系列に沿って整理しています。給水所まで水をもらいに行く場面を想定するなら、断水したとき給水所へ何を持っていくかと容量の決め方も合わせてどうぞ。
自分のマンションがどの方式かを確かめる手順
確認の方法は2つあります。聞くか、見るかです。確実なのは前者で、その日のうちに手がかりが得られるのが後者です。
- 管理会社か管理組合に聞く——「うちの建物の給水方式を教えてください」の一言で済みます。分譲なら管理組合の理事会または管理会社のフロント担当、賃貸なら管理会社または大家さんが窓口です。同時に「停電したとき、給水ポンプに非常用電源は入りますか」も聞いておくと、備蓄量の判断が一段はっきりします。
- 共用部で水槽の有無を見る——1階の駐輪場脇や建物裏手に、人の背丈ほどの箱型タンク(受水槽)があれば貯水槽水道方式の可能性が高くなります。屋上に上がれる建物なら高置水槽の有無も手がかりです。逆に、どこにも水槽が見当たらず、ポンプ室に「増圧給水ポンプユニット」といった銘板がある場合は増圧直結方式が疑われます。
- 3階建て以下なら直圧の可能性を先に疑う——東京都水道局の区分では、3階までは配水管の水圧だけで給水する方式が用意されています。4階以上でも本管の水圧で足りる場合の「特例直圧給水方式」があるため、階数だけで断定はできません。あくまで当たりをつけるための一歩です。
- 分かった答えをメモに残す——給水方式は、家族の誰もが覚えている情報ではありません。備蓄の棚や玄関の内側に「うちは◯◯方式/停電時は△△」と1行貼っておくと、非常時に迷わずに済みます。
階数と給水方式を掛け合わせて、備えの優先順位を決める
給水方式が分かったら、そこに階数を掛け合わせます。ここからが、この記事でいちばんお伝えしたい部分です。
ただし先にお断りしておきます。以下の整理は、当サイトが公的資料を組み合わせて作った目安です。東京都水道局・大阪市水道局の給水方式の説明と、各区が公表しているマンション向けの注意喚起を突き合わせて構成したもので、公的機関がこの通りの表を出しているわけではありません。自分の建物にあてはめるときは、必ず管理会社・管理組合の情報で裏を取ってください。

| あなたの条件 | 停電したときに起きること | いちばん先に手を打つところ |
|---|---|---|
| 1〜3階 + 直圧給水方式 | 停電だけでは断水しない | 備蓄水より先に、配水管そのものが止まる震災時の備え。運搬距離が短い利点を活かし、給水所への往復を前提に組める |
| 中高層階 + 増圧直結給水方式 | ポンプ停止=水圧不足。低層階は出ていても、自分の階では出ない状態が起こりうる | 備蓄水。停電対策と断水対策を同じ優先度で扱う。非常用電源の有無を管理組合に確認する |
| 高層階 + 貯水槽水道方式 | 停電直後は高置水槽の残水でしのげる。揚水ポンプが止まっているため、水槽が空になれば断水 | 猶予時間の使い方。停電を知った時点で、浴槽や容器へ水を確保し、備蓄水へ切り替える段取りを決めておく |
| 全方式に共通 | 排水管が損傷していても、蛇口から水が出ることはある | トイレを流すかどうかの判断。断水の有無とは別に必要(東京都防災ホームページの注意喚起) |
自分がどれに当たるか、次のチェックで拾ってみてください。
- 建物は4階建て以上で、自分の住戸は4階より上にある
- 敷地内に受水槽らしき箱型タンクが見当たらない
- 屋上に高置水槽があるかどうかを知らない
- 停電時に給水ポンプが動くかどうかを聞いたことがない
- 家にある水は、ペットボトル数本分しか思い当たらない
3つ以上あてはまったなら、備蓄水の量を見直す前に、まず管理会社への1本の確認から始めるのが早道です。量を決めるための前提が、まだ手元にないからです。水の量そのものの考え方は水の備蓄は1人何リットル必要かを日数から逆算する記事にまとめています。
高層階の揺れは、低層階と違う
長周期地震動とは、周期の長いゆっくりとした揺れのことで、高層建築物のように固有周期の長い建物と共振しやすい性質があります。気象庁はこの揺れの大きさを4段階の指標として整理していて、その定義を「固有周期がおおむね1〜2秒から7〜8秒程度の揺れが生じる高層ビル内における、地震時の人の行動の困難さの程度や、家具・什器の移動・転倒などの被害の程度から4段階に区分した揺れの大きさの指標」と説明しています。
各階級が具体的にどういう状態を指すのかは、気象庁の「長周期地震動階級関連解説表」にまとめられています。ここで引用の形で書けるのは上の定義文までで、各階級の中身については、階級が上がるほど人の行動が困難になり、家具・什器の移動や転倒が増えていくという趣旨の説明にとどめます(解説表は気象庁ページ上で画像として掲載されており、本調査では原文の文字起こしができていないためです)。
制度面では、令和5年2月1日12時00分から、長周期地震動階級が緊急地震速報の発表基準に加わりました。階級3以上が予想される場合に緊急地震速報(警報)が発表され、階級4が予想される場合は特別警報に位置づけられます。つまり、高層階に住む人にとっては「震度いくつ」とは別の物差しが、正式に運用されているということです。
ここから備えの話に翻訳すると、こうなります。高層階で警戒すべきなのは、瞬間的な激しい衝撃よりも、長く続く大きな横揺れによって家具が「移動する」ことです。倒れなくても、キャスター付きの家具や重い収納が部屋の中を滑れば、避難経路がふさがれます。固定は、倒れないためだけでなく、動かないためにも要るわけです。
器具の選び方には壁と天井の下地という前提があり、そこを外すと固定した意味がなくなります。L字金具・突っ張り棒・ジェル・マットを下地から選び分ける方法を先に読んでおくと、買い物で迷いません。賃貸で壁に穴を開けられない場合は、穴を開けずに固定する2種組み合わせの考え方のほうが実情に合います。
エレベーターは地震で止まり、点検が終わるまで戻らない
地震時管制運転装置とは、地震を感知したときにエレベーターのかごを最寄り階へ自動停止させ、ドアを開く装置です。建築基準法の改正により、平成21年9月28日から設置が義務化されました(戸開走行保護装置とセットで規定されています)。設置の有無は、安全マークの表示制度で確認できます。
動き方は、複数のエレベーターメーカーの技術解説で共通しています。地震のP波(初期微動)を感知した時点でかごを最寄り階に停止させ、ドアを開けて乗客を降ろす。そのうえで強い揺れを検知して運転を休止した場合は、技術者の点検が終わるまで自動では復旧しません。ここが誤解されやすいところで、揺れが収まったから乗れる、という性質のものではないのです。
件数の話をします。数字には出どころの違いがあるので、そこも一緒に書きます。
東日本大震災でのエレベーター閉じ込め:全国1都1府19県で合計257件。これは埼玉県の公表ページが、日本エレベーター協会の調査として掲載している数です(協会の一次統計そのものには本調査では到達できていません)。
東京都の被害想定:都内のエレベーター約166,000台のうち、人の閉じ込めにつながり得る停止台数は22,426台、閉じ込め率13.5%とされています。公表日が令和4年5月25日であることは東京都の公式ページで確認しましたが、台数そのものは解説記事を経由して確認した数値です。
13.5%という率は、ざっくり言えば7〜8台に1台の割合です。エレベーターが1基しかないマンションで、その1基が該当してしまう可能性は決して小さくない、という受け止め方になります。
そして復旧を待つあいだ、高層階の住人にとっては階段がすべての搬入路になります。給水所から水を担いで上がるのも、支援物資を受け取るのも、階段です。この前提を置いてから備蓄の量を決めないと、「買ったけれど運べない」という形の失敗が起きます。
閉じ込められた側の動き方については、地震でエレベーターに閉じ込められたとき最初にする3つと、3時間を想定した備えで詳しく扱っています。
断水していなくても、トイレを流してはいけない場合がある
これが、マンション防災でいちばん見落とされやすい論点です。東京都防災ホームページは、排水管の損傷に気づかずにトイレを使用すると、下の階で汚水があふれ出るおそれがあると注意を呼びかけています。
蛇口をひねって水が出ることと、流した水が正しく下水まで届くことは、別の話です。給水管が無事でも排水管が割れていれば、あなたの家から流した水は途中で外へ出ます。マンションは縦に積み上がった構造なので、その「外」が下の階の住戸になりうるわけです。戸建てでは起こりにくい、集合住宅ならではの事故です。
地震のあと、管理会社・管理組合から排水管の安全確認の連絡が来るまでは、トイレを流さない判断が要ります。給水方式が何であっても、階数が何階であっても、この判断は共通です。判断に迷う状況では、自治体・管理組合など公的な窓口の指示に従ってください。
そのあいだ、トイレは使わないのではなく別の方法で使うことになります。凝固剤つきの携帯トイレを便座にセットして使い、密閉して保管する。この段取りを知っているかどうかで、発災後の数日の快適さがまったく変わります。停電時の手動洗浄の可否や、メーカーごとの手順については停電するとトイレは流せるのかをメーカー3社の手順から整理した記事にまとめました。
在宅避難が基本とされる理由
在宅避難とは、自宅の安全が確認できる場合に、避難所へ行かず自宅で生活を続けることです。マンションでこれが基本とされるのには、感覚ではなく説明があります。
世田谷区は公式ページで、在宅避難について「プライバシーの確保が可能であり、感染症や精神的なリスクが低く、特にマンションは耐震性や耐火性が高いため自助・共助による『在宅避難』が期待できる」と説明しています。避難所が足りないから残ってくれ、という消極的な理由ではなく、建物の性能と生活の質の両面から積極的に選ばれているという書き方になっているのが重要なところです。
都には「東京とどまるマンション」という制度もあります。停電時でも水の供給やエレベーターの運転に必要な最小限の電源を確保するハード面の対策と、防災マニュアルの策定や共同での防災活動というソフト面の対策によって、自宅での生活を続けやすい共同住宅を都が普及啓発するものです。なお、この制度の趣旨は区市が転載している都の制度説明で確認したもので、都の制度ページ本体での照合はできていません。自分のマンションが登録されているかどうかは、管理組合に確認するのが確実です。
在宅避難を前提にすると、備えの中身が変わります。持ち出して逃げるための軽い荷物より、家の中で数日暮らすための水・灯り・トイレ・調理・冷蔵庫の中身の守り方のほうが比重が大きくなる。停電中に冷蔵庫の食材をどう保たせるかという話は、そのまま在宅避難の食事の話です。クーラーボックスと保冷剤の組み合わせについては公表値と測定条件の有無から詰め方を決める記事で数字の読み方から扱っています。
参考までに、大規模地震後のライフライン復旧の目安として、電気6日・上水道30日・都市ガス55日(被災地域の95%が復旧するまで)という数字が複数の解説で一致して示されています。内閣府の被害想定にもとづく目安とされている数値で、原資料そのものは本調査では直接照合できていません。ただ、上水道の30日は約1か月、都市ガスの55日は2か月近くにあたります。電気が戻っても水が戻らない期間が、そのくらい続きうるという心づもりは要ります。
管理組合にできること、個人にできないこと
共用部とは、エントランス・廊下・階段・エレベーター・給水設備など、区分所有者が共同で持ち、共同で管理する部分です。ここに個人が勝手に手を加えることはできません。逆に言えば、ここを動かせるのは管理組合だけです。
国土交通省が示しているマンション標準管理規約(令和7年10月17日最終改正)には、災害時の権限について定めた条項があります。第21条第6項では、理事長は災害等の緊急時において、総会や理事会の決議によらずに敷地および共用部分等の必要な保存行為を行うことができる、という趣旨が定められています。また第23条第4項では、災害や事故等が発生し、緊急に立ち入らなければ共用部分等や他の専有部分に物理的・機能上の重大な影響を与えるおそれがあるとき、理事長は専有部分等に立ち入り、または委任した者を立ち入らせることができる、という趣旨が定められています。
標準管理規約はあくまで国が示す雛形であり、実際に適用されるのは各マンションが定めた管理規約です。自分の建物の規約に同じ条項が入っているか、条番号が同じかは、手元の規約集を確認してください。なお上記の条番号・内容は、マンション管理士団体の条文解説で確認したものです(国土交通省のPDF原本は本調査では開けませんでした)。
この制度を知っていることの意味は、「誰かがやってくれるはず」を「理事長には権限がある」に置き換えられる点にあります。災害時に断水の原因を調べるため受水槽まわりに立ち入る、破損した共用配管を応急的に止める——こうした行動の根拠が、あらかじめ規約の中に用意されているわけです。
個人ができるのは、共用部の備えの「現状」を知っておくことです。防災倉庫に何が入っているのかを把握していれば、各戸で足すべきものが決まります。中身の実例と線引きはマンションの防災倉庫には何が入っているかを整理した記事にまとめました。年2回の消防訓練だけでは共助の訓練にならない理由と、住民として確かめておくべき項目はマンションの防災訓練で住民が確かめることで扱っています。
共用部がらみでもうひとつ、住戸側の判断に関わるのがバルコニーです。東京都火災予防条例の第53条の2は「何人も、(略)防火対象物において、みだりに次に掲げる行為をしてはならない。一 避難施設に、火災の予防又は避難に支障となる施設を設け、又は物件を置くこと。」と定めています。ここでいう避難施設にバルコニーがどこまで含まれるかは条文だけでは読み取れないため、断定はしません。実際の線引きと、避難ハッチの前をどこまで空けるべきかはベランダに置いてはいけない物と法令の根拠を整理した記事で詳しく扱っています。
では、何から用意するか
ここまでの整理をふまえて、マンションで優先度が高いものを順に見ていきます。順番には理由があります。
最優先はトイレです。理由は前の章のとおりで、マンションでは排水管が損傷していても蛇口から水が出てしまうことがあり、そのまま流すと下の階で汚水があふれるおそれがある。つまり断水していない家でも、トイレだけが使えない期間が生じます。水や食料は近所で分け合うこともできますが、トイレだけは各戸で用意しておくしかありません。凝固剤つきの簡易トイレは保存期間の長さも選ぶ基準になり、15年保存であれば、買い替えを気にする回数がぐっと減ります。
次が水です。給水方式が増圧直結や貯水槽水道なら、停電がそのまま断水につながりうるため、「水は止まらない前提」で家を回すことはできません。逆に3階までの直圧給水なら停電単体では止まらないので、備蓄は震災で配水管そのものが止まる場合に向けた量として組み立てることになります。どちらにしても、家の中に一定量は要る。5年保存の2Lペットボトル×6本という単位は、1人1日3リットルの目安で考えると、ひと箱でおよそ4日分にあたる計算です。
給水所から水をもらうことになったときの道具も要ります。ただし、ここは配分の話を先にしておきたいところです。10リットルの水は約10キログラム、2リットルのペットボトル5本分にあたります。エレベーターが止まった高層階で、これを階段で担いで上がる場面を想像してみてください。10リットルを一度に運ぶのは、多くの人にとって現実的ではありません。だから、大容量のタンクを1つ持つより、運べる量に分けて複数回に分ける前提で考えるほうが実際に合います。折りたためるタンクは、使わないときに場所を取らないぶん、複数持ちやすいという利点もあります。
最後が家具の固定です。高層階では長周期地震動によって家具が移動・転倒しやすく、しかもその揺れは長く続きます。穴あけ不要のベルトタイプなら、分譲でも賃貸でも使えるのが利点です。防災士監修という設計の裏づけがあるものは、耐荷重の表示も含めて選ぶ材料になります。とはいえ固定具は壁の下地との相性で効きが変わるため、貼る場所の見極めは必ずセットで考えてください。
置き場所の話まで含めた買い物の全体像は、マンション防災で買うものリストを階数と給水方式から決める記事で1枚にまとめています。買ったあとの収納を4か所に分ける考え方はマンションの備蓄の置き場所と収納マップをどうぞ。
あなたのマンションはどのタイプ? 読む記事の振り分け
ここまでが入口です。ここから先は、あなたの状況に応じて読む記事が変わります。

停電したときに止まるものを、生活のどこに効くかで並べ直すと3本になります。給水ポンプが止まれば水、エレベーターが止まれば運搬、そして多くのマンションで電気を使って動いているオートロックやインターホンが止まれば出入りです。自分がどれから困るかで、読む順番も変わってきます。
| あなたの状況 | 先に確かめること | 読む記事 |
|---|---|---|
| 4階以上に住んでいて、停電のときに何が起きるか知らない | 給水方式と、止まる順番 | マンション高層階の停電と断水|先に止まるのは水 |
| 何を買えばいいかが決まらない | 階数と給水方式による優先順位 | マンション防災で買うものリスト |
| 買ったものの置き場所がない | 住戸内で分散できる場所 | マンションの備蓄の置き場所|4か所に分ける収納マップ |
| ベランダに物を置いているが、良いのか分からない | 避難ハッチ・隔て板まわりの線引き | ベランダに置いてはいけない物はどこまで? |
| 管理組合の防災倉庫の中身を知らない | 共用備蓄と各戸備蓄の境目 | マンションの防災倉庫には何が入っている? |
| 防災訓練に出ても実感がない | 訓練で確かめるべき項目 | マンションの防災訓練で住民が確かめること |
| 賃貸で、壁に穴を開けられない | 2種組み合わせと壁の下地 | 賃貸の家具固定は穴を開けずにできる? |
| 固定器具の種類が多すぎて選べない | 壁・天井の下地 | 家具の転倒防止具はどう選ぶ? |
| 毎日エレベーターに乗るのが不安になってきた | 閉じ込め時の初動と携行品 | 地震でエレベーターに閉じ込められたら |
| 停電したときトイレを流していいのか分からない | 手動洗浄の可否と排水管の安全確認 | 停電するとトイレは流せる? |
| 給水所へ行くことになりそう | 運べる重さから決める容量 | 断水したら給水所へ何を持っていく? |
| 停電中の冷蔵庫の中身が気になる | 保冷剤の公表値と測定条件 | 停電時のクーラーボックスと保冷剤 |
| そもそも自宅の立地リスクを知らない | 浸水・土砂・揺れやすさ | ハザードマップの見方 |
この記事の考え方が当てはまらないケース
ここまでの整理は、「管理組合または管理会社が機能していて、共用部の情報にたどり着ける分譲・賃貸マンション」を想定しています。そこから外れる状況では、前提が崩れます。
- 低層(2〜3階建て)の分譲マンション・アパート——直圧給水であれば停電と断水の連動を気にする必要が薄く、この記事の中心的な論点が当てはまりません。戸建て向けの備えの考え方のほうが近くなります。
- 自主管理で、管理組合が実質的に機能していない建物——給水方式を聞く窓口がなく、共用備蓄や防災訓練の話も進みません。まず各戸単位で完結する備え(水・トイレ・灯り・家具固定)から固めるほうが現実的です。
- 賃貸で、共用部にまったく関与できない立場——防災倉庫や非常用電源の整備を働きかける立場にはありません。それでも給水方式の確認は管理会社に聞けます。専有部でできることに集中してください。
- 築年数が古く、受水槽の現況が分からない建物——図面や竣工時の資料が残っていないケースがあります。目視での判断には限界があるので、断定せず「不明」として、備蓄を多めに見積もるのが安全側の判断です。
- 非常用発電機を備えたマンション——停電時に給水ポンプやエレベーターの一部が動く場合があります。ただし燃料には限りがあり、稼働時間も設備によって違うため、管理組合に具体的な運用を確認してください。
また、この記事は防災の備えの考え方を整理したものであり、避難するかどうかの判断、けがや体調不良への対処については扱っていません。実際の避難判断は自治体や気象庁の発表に、医療に関わることは医療機関や消防の指示に従ってください。
よくある質問
Q. 給水方式は、管理会社に聞かないと分からないのでしょうか。
A. 確実なのは聞くことですが、手がかりは自分でも探せます。敷地内に受水槽らしき箱型タンクがあれば貯水槽水道方式の可能性が高く、3階建て以下の建物なら直圧給水である可能性があります。ただし東京都水道局には4階以上でも本管の水圧で対応する「特例直圧給水方式」の区分があるため、階数だけでは決められません。目視はあくまで当たりをつけるための手段です。
Q. タワーマンションは、普通のマンションより危ないのですか。
A. 危険か安全かという単純な比較はできません。はっきり言えるのは、階が高くなるほど長周期地震動の影響を受けやすく、エレベーターが止まったときの移動距離が長くなるということです。一方で、世田谷区が説明しているようにマンションは耐震性・耐火性が高く在宅避難が期待できるという性質もあります。階数は危険度の目盛りではなく、備えの内容を変える条件だと考えてください。
Q. 停電のあと、エレベーターはいつ動きますか。
A. 停電が復旧すれば自動で動き出す、とは限りません。地震時管制運転装置が強い揺れを検知して運転を休止した場合、技術者の点検が終わるまで自動では復旧しないとメーカー各社が説明しています。地震のあとは、電気が戻ってからさらに待つ時間があるという前提で考えておくのが安全です。
Q. 水が出ているのに、なぜトイレを流してはいけないのですか。
A. 給水管と排水管は別の系統だからです。東京都防災ホームページは、排水管の損傷に気づかずトイレを使用すると下の階で汚水があふれ出るおそれがあると注意を呼びかけています。蛇口から水が出ることは、流した水が正しく下水まで届くことの証明にはなりません。管理会社・管理組合による安全確認が済むまでは、携帯トイレで対応してください。
Q. 備蓄はどのくらいの期間分を用意すればよいですか。
A. 大規模地震後のライフライン復旧の目安として、電気6日・上水道30日・都市ガス55日(被災地域の95%が復旧するまで)という数字が複数の解説で一致して示されています。内閣府の被害想定にもとづく目安とされる値です。上水道の30日をすべて自宅の備蓄でまかなうのは現実的ではないため、備蓄でしのぐ期間と給水所を使う期間を分けて考えるのが実際的な組み立てになります。
まとめ:今日やることは1つだけ
マンションの防災は、買い物から始めると迷子になります。同じ「マンション」でも、停電したときに起きることが3通りに分かれるからです。先に条件を確定させてしまえば、必要な量も、置く場所も、優先順位も後から自動的に決まります。
- 管理会社か管理組合に、給水方式を聞く——「貯水槽水道方式(受水槽方式)ですか、増圧直結ですか、直圧ですか」と尋ねれば通じます。ついでに、停電時に給水ポンプが動くかどうかも確認しておきましょう。
- 答えをメモにして、備蓄の棚か玄関の内側に貼る——家族の誰が見ても分かる場所に置きます。「うちは◯◯方式/停電すると△△」の1行で十分です。
- トイレ・水・家具固定の3つの現状を数える——携帯トイレは何回分あるか、水は何日分か、固定していない大型家具はいくつか。数えて初めて、足りないものが見えてきます。
この3ステップのうち、今日できるのは1つ目だけで構いません。電話1本の確認が、そのあとの判断をすべて楽にしてくれます。
買うものの順番と置き場所まで含めた全体像は、マンション防災で買うものリストを階数と給水方式から決める記事に1枚でまとめています。
条件が確定したら、次は具体的な買い物へ進んでください。マンション防災で買うものリスト|階数と給水方式で変わる優先順位で、ここまでの判定をそのまま持ち込める形にまとめています。
参考・出典
- 東京都水道局「給水方式について」 https://www.waterworks.metro.tokyo.lg.jp/kurashi/chokketsu/houshiki(2026-09-12確認)
- 大阪市水道局「本市における給水方式について」 https://www.city.osaka.lg.jp/suido/page/0000391113.html(2026-09-12確認)
- 気象庁「長周期地震動階級及び長周期地震動階級関連解説表について」 https://www.jma.go.jp/jma/kishou/know/jishin/ltpgm_explain/about_level.html(2026-09-12確認)/各階級の解説表は同ページ内に画像として掲載されているため、当サイトでは定義文のみを引用し、各階級の内容は趣旨の説明にとどめています。
- 気象庁 報道発表「緊急地震速報への長周期地震動階級の追加」 https://www.jma.go.jp/jma/press/2301/25a/20230125_lpgm_suikei.html(2026-09-12確認)
- 国土交通省「昇降機(エレベーター、エスカレーター等)について」 https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/build/jutakukentiku_house_tk_000105.html(2026-09-12確認)/地震時管制運転装置の動作の説明は、東芝エレベータ・フジテック等の各メーカー技術解説の一致内容によりました(格付けC:メーカー解説であり、業界団体の一次資料での照合はできていません)。
- 埼玉県「エレベーターの閉じ込め対策について」 https://www.pref.saitama.lg.jp/a0401/togikome.html(2026-09-12確認)/格付けB:東日本大震災の閉じ込め257件は、同ページが日本エレベーター協会の調査として掲載している数で、協会の一次統計そのものには到達できていません。
- 東京都「首都直下地震等による東京の被害想定」 https://www.bousai.metro.tokyo.lg.jp/taisaku/torikumi/1000902/1021571.html(2026-09-12確認)/格付けB:公表日(令和4年5月25日)は都の公式ページで確認しましたが、台数(約166,000台・22,426台・13.5%)は解説記事を経由して確認した数値です。
- ライフライン復旧の目安(電気6日・上水道30日・都市ガス55日)/格付けB:内閣府の被害想定にもとづく目安として複数の解説で一致している数字で、内閣府の資料本体は本調査では直接確認できていません。
- 国土交通省「マンション標準管理規約」 https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/mansionkiyaku.html(2026-09-12確認・令和7年10月17日最終改正)/格付けB:第21条第6項・第23条第4項の条番号および内容は、マンション管理士団体(京都府マンション管理士会)の条文解説によって確認したものです。そのため本記事では条文の完全一致引用を行わず、趣旨の説明としています。
- 東京都例規集データベース「火災予防条例」第53条の2 https://www.reiki.metro.tokyo.lg.jp/reiki/reiki_honbun/g101RG00002311.html(2026-09-12確認)
- 世田谷区「マンション防災」 https://www.city.setagaya.lg.jp/02049/24885.html(2026-09-12確認)
- 東京都防災ホームページ「マンション防災」 https://www.bousai.metro.tokyo.lg.jp/kyojyo/1023239/index.html(2026-09-12確認)
- 東京都「東京とどまるマンション」制度の趣旨/格付けB:江東区など区市が転載する都の制度説明で確認したもので、都の制度ページ本体での文言照合はできていません。 https://www.city.koto.lg.jp/057102/bosai1001.html(2026-09-12確認)
- 足立区「マンションの防災対策」 https://www.city.adachi.tokyo.jp/saigai/manshonbosai.html(2026-09-12確認)
本記事中の「階数×給水方式の判定フロー」は、上記の公的資料を当サイトが組み合わせて作成した目安であり、公的機関がこの通りの表を公表しているものではありません。
