避難場所は、命を守るために緊急に逃げ込む場所。避難所は、その後をしのぐための施設です。名前が一文字違うだけの用語に見えて、法律上はまったく別のものとして定義されています。
そしてもう一つ。避難場所には「洪水のときは使える/津波のときは使えない」といった災害の種類ごとの指定がついています。近所の小学校が避難場所になっていたとしても、それがすべての災害に対して安全という意味ではありません。ここを取り違えると、逃げた先で被災するという最悪の事態が起こりえます。
通学路の電柱や公園の入口に、避難場所の表示板が付いているのを見かけたことがあると思います。あの板に並んでいる小さな絵記号は飾りではなく、「この場所はどの災害に使えるか」を一目で伝えるための規格化された図記号。読み方さえ分かれば、家族の行き先はその場で決められます。
- 避難場所と避難所が、災害対策基本法のどの条文でどう分かれているか
- 2013年の法改正で「災害種別ごとの指定」に変わった理由(東日本大震災の教訓)
- 政令で定める7種類の災害と、自宅の行き先を災害別に確かめる手順
- 避難所へ行くことだけが避難ではない、という国の公式な考え方
避難場所と避難所は、災害対策基本法で別々に定義されている
指定緊急避難場所とは、災害が迫ったときに命を守るため一時的に逃げ込む施設または場所である。これに対して指定避難所は、避難した人が必要な間とどまるための施設です。目的が「逃げる」と「とどまる」で分かれている、と考えると混乱しません。
それぞれ、条文の文言はこうなっています。
| 項目 | 指定緊急避難場所 | 指定避難所 |
|---|---|---|
| 根拠条文 | 災害対策基本法 第49条の4第1項 | 災害対策基本法 第49条の7第1項 |
| 条文の文言 | 「災害が発生し、又は発生するおそれがある場合における円滑かつ迅速な避難のための立退きの確保を図るため、政令で定める基準に適合する施設又は場所を、洪水、津波その他の政令で定める異常な現象の種類ごとに、指定緊急避難場所として指定しなければならない」 | 「避難のための立退きを行った居住者、滞在者その他の者を避難のために必要な間滞在させ、又は自ら居住の場所を確保することが困難な被災した住民その他の被災者を一時的に滞在させるための施設」 |
| 役割 | 差し迫った危険から逃れる(命を守る) | 避難生活を送る/住まいを失った人を受け入れる |
| 災害種別ごとの指定 | あり(種類ごとに指定する義務) | 条文上の種別指定はなし |
条文をそのまま読むと、違いが一段はっきりします。避難場所の側には「異常な現象の種類ごとに」という一句が入っている一方、避難所の側にその文言はありません。つまり、災害の種類で使い分けが必要なのは避難場所のほうだ、ということが法律の書きぶりから分かるわけです。
同じ建物が両方を兼ねていることもある
災害対策基本法第49条の8は「指定緊急避難場所と指定避難所とは、相互に兼ねることができる」と定めています。近所の学校が両方に指定されていても矛盾ではありません。ただし兼ねている場合でも、避難場所としての指定は災害種別ごとに付いています。「避難所だから、どの災害でも駆け込んで大丈夫」とはならない点に注意してください。
逃げ込んだあとの滞在まで見据えるなら、持ち出す物の線引きも一度整理しておくと動きが速くなります。自治体が用意する物と自分で持つ物の切り分けは避難所に持っていくものリストにまとめました。
同じ場所が、すべての災害で安全とは限らない
災害種別ごとの指定とは、一つの避難場所について災害の種類ごとに安全性を判定し、使える災害・使えない災害を区別する仕組みである。この制度が導入された背景には、はっきりした理由があります。
内閣府「指定緊急避難場所の指定に関する手引き」(令和8年1月改定・2026年8月11日確認時点)は、経緯をこう記しています。「平成23年3月の東日本大震災では、津波からの避難先として想定されていた、法改正以前のいわゆる『避難所』に避難した結果、居住者等が被災するといった事例が報告されており、法はこのような教訓を踏まえ、同一の施設や場所(例:学校)が全ての災害種別に対して安全な避難場所であるとは限らないことから、災害種別に応じた適切な指定の検討を求めている」。
この教訓を受けて、災害対策基本法等の一部を改正する法律が平成25年(2013年)6月に公布され、市町村長による指定緊急避難場所の指定制度は平成26年(2014年)4月1日から施行されました。それまで一括りだった「避難所」が、目的別・災害種別に整理し直されたのがこのタイミングです。
では、災害の種類はいくつに分かれているのか。災害対策基本法施行令第20条の4が定める「異常な現象の種類」は7項目で、7番目の枠が内閣府令に委ねられています。中身は以下のとおり。
| 災害の種類 | 定めている規定 | 屋内安全確保という選択肢 | わが家の行き先(記入欄) |
|---|---|---|---|
| 洪水 | 施行令第20条の4 | 選択肢になりうる | |
| 崖崩れ・土石流及び地滑り | 施行令第20条の4 | 立退き避難が原則 | |
| 高潮 | 施行令第20条の4 | 選択肢になりうる | |
| 地震 | 施行令第20条の4 | 立退き避難が原則 | |
| 津波 | 施行令第20条の4 | 立退き避難が原則 | |
| 大規模な火事 | 施行令第20条の4 | 立退き避難が原則 | |
| 内水氾濫 | 内閣府令(施行規則第1条の6) | 市町村の避難情報で確認 | |
| 火山現象 | 内閣府令(施行規則第1条の6) | 立退き避難が原則 |
7番目の「内閣府令で定める異常な現象」の中身は、施行規則第1条の6が「一時的に大量の降雨が生じた場合において下水道その他の排水施設又は河川その他の公共の水域に当該雨水を排水できないことによる浸水及び火砕流、溶岩流、噴石その他噴火に伴い発生する火山現象」と規定しています。前半が内水氾濫、後半が火山現象です。なお、屋内安全確保を選べる災害を内閣府のガイドラインは「洪水等・高潮」としており、内水氾濫がその「洪水等」に含まれるかどうかは市町村が出す避難情報で確かめてください。
指定基準の骨格(施行令第20条の3)
地震以外の災害では「管理条件+立地条件(安全区域内にあること)」が基本で、立地条件を満たさない場合は「管理条件+構造条件」で指定されます。地震については「管理条件+耐震条件」。同じ建物でも、洪水なら立地でアウト、地震なら耐震でセーフ——という判定のねじれが起こりうるのは、条件そのものが災害ごとに違うからです。
浸水想定エリアに自宅があるなら、行き先の確認と同時に備蓄の中身も水害向けに寄せておくと無駄がありません。足すべき物は水害の備蓄品リストで確認できます。
図記号と地図で、自分の行き先を確かめる
災害種別避難誘導標識システムとは、避難場所の表示を全国で統一するために定められた日本産業規格である。JIS Z9098として、平成28年(2016年)3月22日付で制定されました。
表示板の読み方はシンプルです。「緊急避難場所」を表す記号に、災害種別ごとの記号が並び、それぞれに丸かバツが付く。テストの採点用紙のように、この場所が災害ごとに◯なのか×なのかが一目で判別できる仕組みです。内閣府の手引きが例示している災害種別記号は、土石流、がけ崩れ・地すべり、洪水、大規模な火事、高潮/津波など。看板の前で立ち止まって、自宅に関係する災害の記号だけ探せば十分です。
紙とネットの両方から確かめる手順も押さえておきましょう。
- 地図で指定緊急避難場所を探す国土地理院の「地理院地図」では、平成29年(2017年)2月22日から指定緊急避難場所の情報が公開されています。オープンデータとして提供されており、防災訓練やアプリ開発にも使える形です。
- ハザードマップポータルサイトで自宅のリスクを重ねる国土交通省のポータルサイトは「重ねるハザードマップ」と「わがまちハザードマップ」の2本立て。前者で住所や現在地から災害リスクを重ね表示し、後者で市区町村が公表しているハザードマップを探します。
- 現地の表示板で災害種別の丸バツを確かめる候補が絞れたら、実際に近くを通ったときに図記号を見ておきます。地図上は避難場所でも、自宅に関係する災害にバツが付いていることがあるためです。
重ねたハザードマップの色が何を意味するのかで手が止まりやすいので、そこはハザードマップの見方(色と浸水深の読み解き方)を先に開いておくと進みが良くなります。
避難所へ行くことだけが避難ではない
避難行動とは、災害から命を守るためにとる行動の総称であり、避難所へ移動することだけを指す言葉ではない。内閣府「避難情報に関するガイドライン」(令和8年3月・2026年8月11日確認時点)は、避難行動を3つに整理しています。
- 立退き避難……危険な場所から離れ、安全な場所へ移動する
- 屋内安全確保……自宅や施設の浸水しない上階などにとどまる。洪水等・高潮の場合にのみ選択できる
- 緊急安全確保……避難し遅れた場合に、その場で少しでも安全性の高い場所へ移る次善の行動
2番目に付いた条件が重要です。屋内安全確保が選べるのは洪水等と高潮に限られます。土砂災害や津波、大規模な火事では、建物ごと危険にさらされる以上「上の階へ」という判断は成り立ちません。同じ「家にいる」でも、災害の種類によって意味が正反対になるわけです。
そして国は、避難先の選択肢そのものを広く示しています。「『避難』とは、文字通り『難』を『避』けることであり、小中学校や公民館等の指定緊急避難場所に行くことだけが避難ではなく、それ以外にも安全な親戚・知人宅やホテル・旅館等の避難先に立退き避難したり、自らの判断で屋内安全確保をする等、様々な避難行動がある」。いわゆる分散避難の考え方です。
行き先は1つに絞らなくていい
自宅にとどまる、親戚宅へ行く、宿泊施設を使う、避難場所へ走る——どれも避難行動として並列に扱われています。家族で決めておくべきは「どこか1つ」ではなく、「この災害ならここ」という組み合わせのほうです。
自宅にとどまる選択肢を持つなら、成立する条件を先に確かめてください。判断の分かれ目は在宅避難の準備リスト(成立する3つの条件)で整理しています。家族がばらばらの場所にいる時間帯に備えるなら、家族の安否確認方法の決め方もあわせて。
避難所が向かない人・当てはまらないケースがある
要配慮者とは、高齢者・障害者・乳幼児その他の特に配慮を要する人を指す法律上の用語である(災害対策基本法第8条第2項第15号)。この人たちのための受け皿として、平成25年の改正で福祉避難所の指定制度が新設されました。位置づけとしては、指定避難所の基準の一つ(施行令第20条の6第5号)として、要配慮者の円滑な利用の確保などが定められている形です。細かな運用は内閣府の「福祉避難所の確保・運営ガイドライン」に委ねられています。
在宅避難や屋内安全確保が最初から成り立たないケースもあります。屋内安全確保がそもそも選べない災害——土砂災害、地震、津波、大規模な火事、火山現象——では、立退き避難が原則。加えて、自宅が浸水想定区域や土砂災害の危険区域にかかっていれば、上階があっても屋内にとどまる判断は取りにくくなります。
津波については、もう一つ知っておきたい特徴があります。津波は段階的に切迫度が上がっていく災害ではないため警戒レベルを付さず、基本的に「避難指示」のみが発令されます(緊急安全確保は基本的に発令されません)。レベル3、レベル4と上がっていくのを待つ、という発想が通用しない災害だということです。
浸水深と家屋被害
内閣府のガイドラインによれば、東日本大震災の際、津波浸水深が1.5〜2.0mであっても木造家屋の倒壊・流失が約3割にのぼりました。大人の胸から背丈を超えるあたりの水深で、木造家屋の3軒に1軒近くが持ちこたえられなかった計算になります。
そのうえで、最も大切な原則を一つ。最終的な行き先と避難のタイミングは、市町村が出す避難情報および公的機関の指示に従ってください。この記事は制度の読み方を整理したものであり、個別の状況における避難の可否を判断するものではありません。
よくある質問
Q. 指定緊急避難場所と指定避難所が同じ建物のことがあるのはなぜですか?
災害対策基本法第49条の8が「指定緊急避難場所と指定避難所とは、相互に兼ねることができる」と定めているためです。両方の基準を満たす施設であれば、一つの建物が二役を担えます。ただし避難場所としての指定は災害種別ごとに付いているので、兼ねている建物でも「すべての災害で使える」わけではありません。
Q. 「広域避難場所」という表示を見ますが、これも法律の用語ですか?
災害対策基本法が定める用語は指定緊急避難場所と指定避難所であり、広域避難場所はその中に登場しません。大規模な市街地火災の延焼対策として、地方公共団体が独自にこうした区分を設けている場合があります。全国一律の制度ではないため、お住まいの地域でどう扱われているかは、市町村が公表している資料で確かめてください。
Q. 表示板の図記号にバツが付いている災害では、そこへ行ってはいけないということですか?
その災害に対しては指定緊急避難場所として指定されていない、という意味になります。JIS Z9098(平成28年3月22日制定)の図記号は、災害種別ごとに丸とバツで対応関係を示す仕組み。バツの災害で駆け込む先には適しません。行き先の判断は、市町村が発表する避難情報に従ってください。
Q. 避難場所へ行かずに自宅にとどまるのは、避難したことになりますか?
洪水等・高潮の場合であれば、浸水しない上階などにとどまる「屋内安全確保」は避難行動の一つとして位置づけられています。内閣府も、指定緊急避難場所に行くことだけが避難ではないと明示しています。ただし選べるのは洪水等・高潮に限られ、それ以外の災害では立退き避難が原則です。
まとめ:今日やることは、自宅の災害種別を1つ確かめること
避難場所は命を守るために逃げ込む場所、避難所はその後を過ごす施設。そして避難場所は災害の種類ごとに指定されており、同じ建物がすべての災害で安全とは限りません。この一点さえ頭に入れば、看板も地図も読めるようになります。
今日やることを1つに絞るなら、自宅が最も影響を受けそうな災害を1つ選び、その災害で使える避難場所を1か所だけ確かめること。全部そろえようとすると手が止まります。
- 災害を1つ選ぶハザードマップポータルサイトで自宅の位置を重ね、洪水・土砂災害・津波などのうち、色が付いている災害を選びます。
- その災害の避難場所を1か所決める地理院地図か市区町村の公表資料で、その災害種別に対応した指定緊急避難場所を探します。徒歩で行ける距離かどうかも見ておきましょう。
- 家族に共有して書き出す「この災害のときはここへ/誰と/何を持って」の3点をメモにして、冷蔵庫や玄関など目に入る場所へ貼ります。
書き出すときの項目は、この4つで足ります。
- 災害の種類(洪水/土砂災害/津波/地震 など、自宅に関係するものだけ)
- どこへ(避難場所の名称と、徒歩でおおよそかかる時間)
- 誰と(在宅時/不在時それぞれの集合方法)
- 何を持って(すぐ持ち出す物と、後から取りに戻る物の線引き)
最後の欄が埋まらないときは、中身の最低ラインから逆算するのが早道です。防災リュックの中身リスト(最低限の6つ)を土台にして、家族の人数分だけ足していってください。
参考・出典
- 内閣府「指定緊急避難場所の指定に関する手引き」(令和8年1月改定)https://www.bousai.go.jp/taisaku/pdf/hinanjo_01.pdf(2026年8月11日確認)
- 内閣府「避難情報に関するガイドライン」(令和8年3月)https://www.bousai.go.jp/oukyu/hinanjouhou/r3_hinanjouhou_guideline/pdf/hinan_guideline_r8_1.pdf(2026年8月11日確認)
- 内閣府「避難場所等の図記号の標準化の取組」https://www.bousai.go.jp/kyoiku/zukigo/index.html(2026年8月11日確認)
- 内閣府「福祉避難所の確保・運営ガイドライン」(令和3年5月改定)https://www.bousai.go.jp/taisaku/hisaisyagyousei/pdf/sanko2-03.pdf(2026年8月11日確認)
- 国土交通省「ハザードマップポータルサイト」https://disaportal.gsi.go.jp/(2026年8月11日確認)
