避難所に着いてから自分で動かせるものは、思っているより少ないものです。居住スペースの広さも、トイレの数も、その建物と運営側の準備で決まってしまいます。だから避難する側が先回りできるのは、手指の衛生と、トイレのあとの始末と、自分が使う衛生用品を自分で持っていくこと——おおよそこの3つに絞られます。
数字で見ると、絞られる理由がはっきりします。内閣府(防災担当)の「避難所におけるトイレの確保・管理ガイドライン」は、スフィア基準に沿って災害発生当初は避難者50人当たり1基、避難が長期化する場合は20人当たり1基という目安を示し、あわせて「トイレの平均的な使用回数は、1日5回」としています。100人が身を寄せる体育館なら、当初は2基という計算です。列ができるのは、運営者の怠慢ではなく最初からそういう設計なのです。
避難生活そのものが体に負担をかけることも、公的な集計に表れています。石川県危機管理部の資料では、令和6年能登半島地震の災害関連死は第37回審査会までに449人が認定され、原因区分(複数選択あり)のうち最も多く選ばれたのが「避難所等生活の肉体的・精神的負担」で395件、88.0%でした(令和7年12月25日時点資料)。この記事は、その環境のなかで避難する側が自分で決められる範囲——持ち物と手順——だけを扱います。
この記事でわかること
- 国立感染症研究所(現・国立健康危機管理研究機構)の資料が、避難所でどんな感染症を想定しているか
- 内閣府の指針とスフィア基準の数値を「何が足りなくなるかの予測」に読み替える方法
- 手指用ウェットティッシュ・携帯トイレ・防臭袋を、人数×日数で数える積算式と早見表
- 子ども・高齢者がいる家庭が足すものと、自分で判断せず救護担当に任せる範囲
避難所で起きやすい感染症は、公的資料の区分で把握する
避難所の感染症とは、人が密集し、水と衛生設備が平時どおりに使えない環境で広がりやすくなる感染症の総称である——というのが、公的資料を読むときの入口になる理解です。個別の病名を覚えることより、「どの区分に入る話なのか」をつかむほうが、持ち物の判断は早く決まります。
国立感染症研究所(2025年4月以降は国立健康危機管理研究機構=JIHSに統合)が令和6年能登半島地震に際してまとめた「石川県における被害・感染症に関するリスクアセスメント表」(2024年2月1日現在)は、避難所で流行しうる感染症を疾患ごとに整理し、それぞれについて「地域・避難所で流行する可能性」「公衆衛生上の重要性」「リスク評価」を1〜3の3段階で評価しています。同表が挙げている疾患を、区分ごとに並べたのが次の表です。
| 資料の区分 | 資料が挙げている疾患の例 | 編集部の整理:個人の持ち物が関わる部分 |
|---|---|---|
| 急性呼吸器感染症 | インフルエンザ、COVID-19 を含む | 使い捨てマスク、咳エチケット、換気への協力 |
| 感染性胃腸炎/急性下痢症 | ノロウイルス、ロタウイルス など | 手指衛生の用品、トイレのあとの始末、使用済み物の分別 |
| 細菌性腸管感染症 | 黄色ブドウ球菌、サルモネラ、カンピロバクター、EHEC など | 食事の前の手指衛生、配給食を長く持ち歩かない判断 |
| 創傷に関わるもの | 破傷風、創傷関連皮膚・軟部組織感染症 | 足元を守る靴と手袋。手当てと判断は医療者へ |
| 水・環境に関わるもの | レジオネラ症、レプトスピラ症 | 浸水した水や泥に素手・素足で触れない工夫 |
| ワクチンに関わるもの | 麻疹、水痘 | 母子健康手帳など接種歴が分かる物を持つ |
同表のなかで、避難所の環境ともっとも直結した書きぶりをしているのが感染性胃腸炎の項目です。「断水の影響等により安全な水の利用が困難であり、衛生状態が維持できない避難所では、感染拡大のリスクは高い。手指衛生対策強化に加えて、食品衛生管理の強化、トイレの衛生状態の保持が重要である。」——ここに出てくる手指衛生・食品衛生・トイレの衛生という3語が、そのまま個人の持ち物リストの骨格になります。
この記事では、症状から病気を見分けるための材料は扱いません。上記のリスクアセスメント表は流行の可能性を評価した資料であり、「必ず感染する」「これを持てば感染を防げる」という性質のものではないからです。体調の変化については後半の「自分で判断しないほうがいいこと」で扱います。
季節の要素も重なります。夏に避難した場合は、感染症への注意と暑さへの注意が同時に必要になるため、持ち物の優先順位が変わってきます。夏場の避難を想定するなら夏の避難所の暑さ対策もあわせて読んでおくと、荷物の組み立てが立体的になります。
公的ガイドラインの数値は、足りない物の予測に読み替える
スフィア基準とは、人道支援の現場で満たされるべき最低限の水準を示した国際的な基準であり、内閣府の指針類が避難所の目安として繰り返し引用しているものです。ここが大事なところで、これは運営する側に向けた基準です。避難する側は、この数値を「自分が持って行くべき物の量」を逆算する材料として読み替えられます。
内閣府(防災担当)「避難生活における良好な生活環境の確保に向けた取組指針」(平成25年8月、令和6年12月改定)と「避難所におけるトイレの確保・管理ガイドライン」(平成28年4月、令和6年12月改定)が示している数値を並べます。
| 項目 | 公的資料が示す目安 | 避難する側が予測できること |
|---|---|---|
| トイレの基数 | 発災後初期段階は50人に1基、中期段階は20人に1基 | 初期ほど列が長い。自分の分の携帯トイレを持つ意味が大きい |
| トイレの男女比 | 女性用と男性用の割合が3:1となるように想定 | それでも女性側は混みやすい。夜間の移動回数を減らす工夫がいる |
| トイレの使用回数 | 平均的な使用回数は1日5回 | 携帯トイレの必要数を人数×日数×5で計算できる |
| 居住スペース | 1人当たり最低3.5㎡ | 4人家族で14㎡。隣との距離は自分では広げられない前提で考える |
| 入浴施設 | 50人に1つを男女別に設ける | 順番が回らない日がある。体を拭く用品を自分で持つ |
| 便器の形式 | 既設トイレを洋式便器化していくことが望ましい | 和式が残る施設もある。高齢の家族がいるなら別の手段を用意 |
衛生管理そのものについて、取組指針はこう書いています。「避難所における感染症等の疾病予防、健康問題の悪化防止のため、避難者に問診や検温を行うなど、避難者の健康状態を確認すること。また、マスク、手指消毒液の用意、避難所内の適切な換気の実施、避難所内の清掃や消毒、清潔保持等、避難所の衛生管理を適切に行うこと。」文末が「〜すること」で統一されている点に注目してください。これは運営者への要請であって、実施すれば感染を防げるという保証の文ではありません。
誤解しないための注意
ここに挙げた数値はいずれも「最低基準」であり、日本のすべての避難所で常に達成されているわけではありません。内閣府の指針も「〜となるようにすること」という努力目標の書き方をしています。数値を満たしていない避難所を責める材料ではなく、自分の荷物を決めるための物差しとして使ってください。
自分で持っていく衛生用品は、人数×日数で数える
ここからがこの記事の中心です。感染症対策の持ち物とは、避難所に着いてから調達できない前提で、家族の人数と想定日数から逆算して用意しておく消耗品のことである、と定義しておきます。「一式そろえた」ではなく「何枚あるか」で管理するのがコツです。
まず品目の骨格は、公的なリストから借りられます。消防庁の「非常用持出品チェックシート」は、独立したカテゴリとして感染症対策物品を設け、マスク/手指消毒用アルコール/石けん・ハンドソープ/ウェットティッシュ/体温計の5点を挙げています。内閣府のトイレガイドラインが衛生管理の必需品として例示する、トイレットペーパー・生理用品・ウェットティッシュ(手洗い水がない場合)・手指消毒用アルコール(手洗い水がない場合)・マスク(使い捨て)・消毒水作成用の塩素系漂白剤とも、重なる部分が大きい。複数の公的資料が同じ物を挙げているという事実は、迷ったときの優先順位になります。
必要数を出す積算式(当サイトの想定を含みます)
品目は分かっても、数が分からなければ買い物は決まりません。そこで、そなえぐらしでは次の形で数えることを提案します。
必要数 = 人数 × 日数 × 1日あたりの使用回数
この式の3つ目、「1日あたりの使用回数」だけが公的な基準に存在しません。公的資料が定めているのはトイレの1日5回だけで、ウェットティッシュを1日何枚使うかを決めた公的基準は存在しないからです。以下の回数はそなえぐらし編集部が設定した想定値であり、公的な基準ではないことを最初にお断りしておきます。根拠が公的資料にある部分だけ、出典を添えました。
| 品目 | 1人1日あたり | この回数にした理由 |
|---|---|---|
| 手指用ウェットティッシュ | 8枚 | トイレの平均的な使用回数1日5回(内閣府ガイドライン)+食事の前3回(当サイトの想定) |
| 携帯トイレ | 5回分 | 内閣府ガイドラインの「1日5回」をそのまま採用 |
| からだ拭きシート | 1枚 | 入浴施設は50人に1つが目安(内閣府指針)。順番が回らない日がある前提の当サイトの想定 |
| 防臭袋・ごみ袋 | 3枚 | 使用済みのマスク・ウェットティッシュ・生理用品などをまとめる回数の当サイトの想定 |
| 使い捨てマスク | 1枚 | 内閣府ガイドラインが「マスク(使い捨て)」を例示。1日1枚交換とした当サイトの想定 |

人数×日数の早見表
式に当てはめた結果が次の2つの表です。避難所での滞在を3日で見るか7日で見るかは、住んでいる地域の事情で変わります。まず3日分から。
3日分の必要数(当サイトの想定値による計算)
| 人数 | 手指用ウェット(枚) | 携帯トイレ(回分) | からだ拭き(枚) | 防臭袋(枚) | マスク(枚) |
|---|---|---|---|---|---|
| 1人 | 24 | 15 | 3 | 9 | 3 |
| 2人 | 48 | 30 | 6 | 18 | 6 |
| 3人 | 72 | 45 | 9 | 27 | 9 |
| 4人 | 96 | 60 | 12 | 36 | 12 |
| 5人 | 120 | 75 | 15 | 45 | 15 |
3日分の数字が出たところで、同じ式に7を当てはめておきます。
7日分の必要数(同上)
| 人数 | 手指用ウェット(枚) | 携帯トイレ(回分) | からだ拭き(枚) | 防臭袋(枚) | マスク(枚) |
|---|---|---|---|---|---|
| 1人 | 56 | 35 | 7 | 21 | 7 |
| 2人 | 112 | 70 | 14 | 42 | 14 |
| 3人 | 168 | 105 | 21 | 63 | 21 |
| 4人 | 224 | 140 | 28 | 84 | 28 |
| 5人 | 280 | 175 | 35 | 105 | 35 |
数字が並んだので、意味を翻訳しておきます。4人家族が7日を見込むと、手指用のウェットティッシュだけで224枚。これは市販の大容量パックをまるごと1つ、避難用に確保しておく規模です。一方で3日なら96枚まで下がります。3日と7日のあいだに2倍以上の差がある——ここが、備蓄の量を決めるときにいちばん効いてくる分かれ目です。
この表は「これだけあれば感染しない」という意味ではありません。感染症にかかるかどうかは、持ち物だけで決まるものではないからです。表の役割は、当日になって「足りない」と気づく事態を減らすことにあります。
では、何から買い足すか
枚数の目安が出たら、次は器の話です。避難所では手を洗える場所そのものが限られます。内閣府のガイドラインが「ウェットティッシュ(手洗い水がない場合)」「手指消毒用アルコール(手洗い水がない場合)」と条件つきで例示しているのは、まさにその状況を想定しているためです。まとまった枚数を1つの箱で確保できると、家族分の管理が一気に楽になります。
エリエールの「除菌できるアルコールタオル」は、ボトルとつめかえがセットになった構成で、Amazonの商品ページでは「210枚(70枚×3パック)」と表示されています(2026年8月10日確認)。先ほどの早見表に当てはめると、4人家族の3日分96枚は十分にまかなえ、7日分224枚にはあと少し届かない規模。1箱で何日分になるかを、枚数で確かめてから買う——それがこの記事の使い方です。
ただし、アルコールが肌に合わない人はいます。小さな子どもの手や口のまわりに使うことをためらう場面もあるでしょう。持ち物を1種類に絞らず、アルコールを含まないタイプを併せて持つ選択肢を用意しておくと、家族のなかで使い分けができます。
シルコットの「ウェットティッシュ ノンアルコール除菌」は、Amazonの商品ページでは「344枚」「厚手やわらかシート」と表示されています(2026年8月10日確認)。枚数だけで見れば、4人家族の7日分224枚を上回る計算になります。肌あたりを優先したい人や、乳幼児がいる家庭の一次候補として押さえておきたいところです。
手だけでなく、体の清潔も同じ考え方で数えられます。内閣府の指針が入浴施設の目安を「50人に1つ」としている以上、100人規模の避難所では順番が毎日回ってくるとは限りません。体を拭くための大判シートを、手拭き用とは別に確保しておく理由がここにあります。拭く順番や必要枚数の考え方は断水でお風呂に入れない日の体の清潔|拭く順番と必要枚数で詳しく整理しました。
アイリスオーヤマの「大判からだふき KRD-20」は、Amazonの商品ページでは「20枚入り」「64×40cm」と表示されています(2026年8月10日確認)。1日1枚という当サイトの想定で計算すると、4人家族の3日分12枚は1箱で収まり、7日分28枚なら2箱という見当になります。
なお、衛生用品以外の持ち物——食料・照明・充電・貴重品といった全体像は別の記事にまとめてあります。自治体が用意する物と自分で持つ物の線引きから確認したい方は、避難所に持っていくものリスト|自治体が用意する物と自分で持つ物の線引きを先に読むと、この記事の枚数計算が荷物全体のどこに収まるか見えてきます。
手指衛生とトイレまわりで、自分ができることを決める
手指衛生とは、手を洗う・拭く・消毒するという一連の行為のことで、公的資料が避難所の感染症対策として最初に挙げる項目です。国立感染症研究所のリスクアセスメント表も、感染性胃腸炎の対策として真っ先に「手指衛生対策強化」を挙げていました。
ポイントは、水が使えるかどうかで手順が変わるという一点です。石けんと流水が使えるなら、それが基本。使えないときのために、内閣府のガイドラインは「手洗い水がない場合」の代替としてウェットティッシュと手指消毒用アルコールを例示しています。つまり公的資料が想定しているのは、両方を状況で使い分ける形です。

消毒薬の使い分けは、公的資料の推奨のまま覚える
茨城県保健福祉部の「避難所感染症対策の手引き」(平成29年12月)は、消毒薬を用途で整理した比較表を載せています。原文の記述はこうです。「どちらも多くの細菌,ウイルスに有効ですが,ノロウイルスの消毒には次亜塩素酸ナトリウムを使用する(嘔吐,下痢等の感染性胃腸炎の場合)」。ここは推奨の形で書かれており、他方の薬剤が無効だと断定した文言ではありません。当サイトも、公的資料の書きぶりを超えない範囲でお伝えします。
| 薬剤 | 手引きが示す使い方 | 手引きが示す対象 |
|---|---|---|
| 次亜塩素酸ナトリウム | 通常60〜300倍希釈、10分浸す | 環境に使用(便器・ドアノブ・遊具・衣類・嘔吐物や下痢便が付着した場所等) |
| アルコール | 原液70〜80%で希釈せず使用 | 環境用と手指用の2種 |
感染性胃腸炎への対応として同手引きが挙げている具体的な数値も、原文のまま記しておきます。「(1)熱湯あるいは蒸気消毒………85℃以上で1分以上/(2)塩素系消毒剤(次亜塩素酸ナトリウム)……0.02%(200ppm)又は0.1%(1000ppm)約10分」。使用済みの布については「ビニール袋に0.1%次亜塩素酸ナトリウムをしみ込む程度に入れておく」とされています。
避難所で嘔吐物や下痢便の処理に出くわしたとき、良かれと思って自分で片づけようとするのは避けてください。希釈濃度も換気も、その場の設備に左右されます。避難所の運営者・救護担当に申し出るのが先です。内閣府の指針も、感染症を発症した避難者や疑いのある者について「専用のスペースないし個室を確保することが適切であること」とし、保健所や医療機関等と連携した対応を求めています。
トイレの数が足りない前提で、自分の分を持つ
夜中、体育館の出入口に人が並んでいる。前に10人。この光景は、基数の目安が「初期は50人に1基」である以上、想定の範囲内に起こります。ここで効くのが携帯トイレです。順番待ちを減らせるだけでなく、水が止まった自宅に戻る場面でもそのまま使えます。
数の見当をつけておきましょう。内閣府の「1日5回」をそのまま使うと、4人家族の7日分は140回。1人が7日なら35回です。「1セット買ったから安心」では届かない規模になりやすい——これが計算してみて分かることでした。
クリロン化成のBOS「非常用トイレ Bセット」は、Amazonの商品ページでは「50回分」「15年保存」、同社の防臭袋BOSが付く構成と表示されています(2026年8月10日確認)。1人7日分の35回はこれで収まり、4人7日分の140回には3セット相当が必要という計算。長期保存をうたう商品なので、押し入れに入れたまま年単位で置く前提の家庭と相性がよい構成です。
凝固剤のタイプや1回あたりの単価、処理袋の仕様まで比べて選びたい方は、簡易トイレのおすすめ比較|凝固剤・単価・処理袋・保管性で選ぶにメーカー各社の公表値を横並びで整理してあります。
使ったあとの物は、自分の袋で始末する
避難所ごみとは、環境省の「災害廃棄物対策指針(改定版)」(平成30年3月)の定義では「避難所から排出されるごみで、容器包装や段ボール、衣類等が多い。事業系一般廃棄物として管理者が処理する」ものを指します。同指針は仮設トイレ等からのくみ取りし尿を「し尿」として別に定義し、有害廃棄物の分類のなかに「感染性廃棄物」の語も置いています。
ただし、避難所で出る使用済みマスクやウェットティッシュを名指しで扱った手順は、今回確認できた範囲の指針本文には見当たりませんでした。分別のルールは避難所ごとに掲示されると考え、現地の指示に従うのが基本です。そのうえで個人ができるのは、自分が出したものを口の閉まる袋にまとめ、他の人の手を煩わせない形にしておくこと。「捨て方が分からないから、とりあえず置いておく」という状態を作らないだけでも意味があります。
- 使用済みのマスク・ウェットティッシュは、その都度まとめて口を閉じる
- 生理用品・おむつは、他のごみと分けた袋に入れる
- 袋には家族名など目印を書き、置き場所を家族で共有しておく
- 指定の集積場所と分別区分を、到着した日のうちに確認する
この用途で使う袋は、ふつうのポリ袋でも成立します。ただ、避難所は逃げ場のない共同空間です。においを外に出しにくい仕様の袋を選ぶことは、自分のためというより周囲との関係のための備えになります。
クリロン化成のBOS「臭わない袋 ストライプ L」は、Amazonの商品ページでは「90枚入り」と表示されています(2026年8月10日確認)。当サイトの想定(1人1日3枚)で計算すると、4人家族の3日分は36枚、7日分は84枚。90枚入り1つで、4人7日分をほぼカバーできる規模という見当が立ちます。用途を限定せず、おむつ・生理用品・使用済み衛生用品をまとめて任せられる点も、荷物を増やさずに済む理由です。
子ども・高齢者がいる場合に足すものを決める
要配慮者とは、高齢者・障害のある人・乳幼児・妊産婦など、避難生活で特別な配慮を要する人たちのことです。公的資料はこの人たちへの配慮を運営者に求めていますが、避難する側にも先回りできる部分があります。
高齢の家族がいる場合、最初に確認したいのがトイレの形式です。内閣府のトイレガイドラインは「高齢者や障害者等にとっては、和式便器の使用は極度に困難であるので、既設トイレを洋式便器化していくことが望ましい」と書いています。逆に読めば、洋式化が済んでいない施設が現に存在するということ。避難先に指定されている施設の設備を平時に確認しておくか、携帯トイレを高齢者の分だけ多めに持つか、どちらかの手を打っておきたいところです。
女性の衛生用品も、公的資料が明示的に挙げている品目です。前掲のガイドラインは衛生管理の必需品として「生理用品」を例示しています。ここも人数と周期から数を逆算できる領域なので、生理用品の備蓄|1周期30枚から逆算する必要数の計算式で計算式を確認しておくと、この記事の早見表とそのまま組み合わせられます。
口の中の清潔にも触れておきます。日本歯科医師会の災害歯科医療対策ページは、「避難所生活や水不足でお口の中を清潔に保つことができないと、お口の中の菌が身体に悪影響を及ぼす可能性があり、特に誤嚥性肺炎には注意が必要です」と記しています。「可能性があり」「注意が必要」という書きぶりであり、防げると断言した文ではありません。水を使わずに口をケアする方法は避難生活の口腔ケア|歯みがきができない日に使うものにまとめました。
家族構成で足すもの(当サイトの整理)
乳幼児がいる:ノンアルコールの拭き取り用品、おむつ用の防臭袋を多めに
高齢者がいる:携帯トイレを多めに、口腔ケア用品、常用薬とお薬手帳
女性がいる:生理用品、中身が見えない袋、着替えのための工夫
持病のある人がいる:かかりつけの情報が分かる物。判断は必ず医療者に
最後の一行が重いのは、数字の裏づけがあるからです。石川県の資料では、令和6年能登半島地震の災害関連死449人のうち、既往歴のある人が430人(95.8%)を占めていました。避難生活は、もともとの持病を抱えた人にとってとくに負担が大きい環境である——その前提で、薬と情報の準備を荷物の最上位に置いてください。
自分で判断しないほうがいいことを、先に線引きしておく
ここは持ち物の話ではなく、線引きの話です。避難所で体調に変化があったとき、自分や家族で病名を判断しようとしないこと——これがこの記事でもっとも伝えたい一項目になります。
理由は単純で、避難所という環境は判断の材料がそろわないからです。国立感染症研究所のリスクアセスメント表が呼吸器の感染症も腸管の感染症も同時に想定していたとおり、原因になりうるものは複数あります。手元の市販薬で様子を見ようとするより、避難所の救護担当・保健師・医療者に伝えるほうが早い。内閣府の指針も、感染症を発症した避難者や疑いのある者について専用のスペースないし個室の確保を求め、「感染症の種類に応じ、保健所や医療機関等と連携して、病院等への移送を含め、必要な対応を行うこと。発熱した避難者についても、同様の対応を行うよう努めること」としています。体調不良を申し出ることは、迷惑ではなく想定された手順の一部なのです。
自分で判断せず、避難所の救護担当・医療者に相談すること
- 発熱・嘔吐・下痢など体調の変化があったとき(市販薬で対処しようとしない)
- 嘔吐物や下痢便の処理が必要になったとき(消毒液の希釈を自己流で行わない)
- けがをしたとき、傷が汚れた水や泥に触れたとき
- 常用している薬が切れそうなとき、飲む量を自分で調整したくなったとき
- 子ども・高齢者の様子がいつもと違うと感じたとき
この記事は医療の判断を提供するものではありません。診断・治療については必ず医療者にご相談ください。
避難所の感染症対策でよくある質問
Q. アルコールとノンアルコール、どちらを持てばいいですか
内閣府のガイドラインは「手洗い水がない場合」の必需品として、ウェットティッシュと手指消毒用アルコールの両方を例示しています。どちらか一方に決める書き方はされていません。肌質や年齢で使い分けられるよう、家族の構成に応じて両方を少しずつ持つのが現実的です。なお、茨城県の手引きは感染性胃腸炎の場面について「ノロウイルスの消毒には次亜塩素酸ナトリウムを使用する」と推奨しています。
Q. 次亜塩素酸ナトリウムの消毒液は、自分で作って持って行くべきですか
希釈した液を作り置きして持ち歩くことは、この記事ではおすすめしません。濃度と保管条件の管理が難しいためです。内閣府のトイレガイドラインは避難所の必需品として「消毒水作成用の塩素系漂白剤」を挙げており、これは運営側が備えるものとして例示されています。避難所で消毒が必要な場面に遭遇したら、まず運営者・救護担当に伝えてください。
Q. 携帯トイレは何回分あれば足りますか
内閣府のガイドラインが示す「トイレの平均的な使用回数は、1日5回」を使うと、人数×日数×5で見当がつきます。1人が3日なら15回分、4人が7日なら140回分。実際にどれだけ必要かは在宅避難に切り替わるかどうかでも変わるため、この数字は上限の目安として使ってください。
Q. マスクは1日何枚で計算すればいいですか
公的資料に「1日◯枚」という基準はありません。内閣府のトイレガイドラインが「マスク(使い捨て)」を必需品として例示していることから、当サイトでは1日1枚交換として計算しています。これはあくまで当サイトの想定値であり、公的な基準ではない点にご注意ください。
Q. 避難所に着いたら、まず何を確認すればいいですか
トイレの場所と数、手を洗える場所があるか、ごみの分別区分と集積場所、そして救護担当が誰かの4点です。この4つを到着した日のうちに把握しておくと、体調に変化があったときの動きが速くなります。
まとめ|今日やることは、家族の人数を式に入れることだけ
避難所の感染症対策は、運営側の仕事と個人の仕事がはっきり分かれています。トイレの基数も居住スペースの広さも、避難する側には動かせません。動かせるのは、自分が使う消耗品を、自分で数えて持っていくこと。今日やることは1つ、家族の人数を「人数×日数×1日あたりの使用回数」に入れて、手元の在庫と引き算してみることです。
- 数える家族の人数と、想定する日数(3日か7日か)を決め、早見表の該当する行を見る。手指用ウェットティッシュ・携帯トイレ・防臭袋の3品目だけでも先に数字を出す。
- 引き算する家にある在庫を数えて差を出す。「なんとなく足りない」を「あと◯枚」に変えると、買い物が1回で終わる。
- 置き場所を決める持ち出し袋のどこに入れるかまで決める。分けて入れておくと、避難先で家族が同じ物を探し回らずに済む。
買い足す時期を選べるなら、8〜9月は防災用品が動く季節です。値動きの傾向と狙い目は防災の日セールで買うもの|8〜9月に安くなりやすい時期に整理しています。衛生用品以外もまとめて見直したい場合は、家庭の備蓄品リスト完全版をハブとしてお使いください。
知る、数える、備える。この順番で進めば、避難所の感染症対策は「気をつける」という曖昧な決意ではなく、枚数という形で家に置いておけるものになります。
あわせて読みたい: 避難所に持っていくものリスト|自治体が用意する物と、自分で持つ物の線引き/避難生活の口腔ケア|歯みがきができない日に使うものと、備える量の目安
参考・出典
- 内閣府(防災担当)「避難生活における良好な生活環境の確保に向けた取組指針」(平成25年8月、令和6年12月改定)PDF(2026年8月14日確認)
- 内閣府(防災担当)「避難所におけるトイレの確保・管理ガイドライン」(平成28年4月、令和6年12月改定)PDF(2026年8月14日確認)
- 国立感染症研究所(現・国立健康危機管理研究機構)「令和6年能登半島地震による石川県における被害・感染症に関するリスクアセスメント表」(2024年2月1日現在)PDF(2026年8月14日確認)
- 茨城県保健福祉部保健予防課健康危機管理対策室「避難所感染症対策の手引き」(平成29年12月)PDF(2026年8月14日確認)
- 石川県危機管理部危機対策課「令和6年能登半島地震における災害関連死の概況(第37回審査会まで)」PDF(2026年8月14日確認)
- 消防庁「非常用持出品チェックシート」PDF(2026年8月14日確認)
- 環境省環境再生・資源循環局災害廃棄物対策室「災害廃棄物対策指針(改定版)」(平成30年3月)PDF(2026年8月14日確認)
- 日本歯科医師会 災害歯科医療対策ページ(2026年8月14日確認)
