企業の防災備蓄は従業員数×9L・9食で出す|東京都条例と国の指針の違い

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従業員が50人いる会社なら、水450リットル、主食450食、毛布50枚。これが「3日分」として広く使われている企業の防災備蓄の量です。式は単純で、従業員数に9をかけるだけ。水は1人1日3リットル×3日で9リットル、主食は1日3食×3日で9食、毛布だけは1人1枚。来社中の顧客や取引先のぶんを1割上乗せするなら、水495リットル・主食495食になります。

ところが、この「9」という数字は、東京都帰宅困難者対策条例の条文をいくら探しても出てきません。条例第7条2項に書かれているのは「三日分」という言葉まで。9リットルという具体的な数量は、条例が「知事が別に定めるところにより」と委任した先――東京都帰宅困難者対策実施計画(平成24年11月策定)の側にあります。しかも条例のQ&A自身が、備蓄量の目安は法的拘束力を持つものではない、と明言しているのです。

総務や人事の担当者が稟議で問われるのは、たいてい数量そのものではなく「その数字は何を根拠にしているのか」のほうでしょう。ここでは、従業員数から量を出す掛け算と、その掛け算がどの文書の何条から来ているかを、2026年8月21日確認時点の一次情報で並べていきます。

この記事でわかること

  • 従業員数×9L・9食・毛布1枚という計算式と、10人〜300人の早見表(外部の来訪者向け10%上乗せ込み)
  • 「三日分」は東京都の条例本文、「9L」は条例が委任した実施計画。目安であって法的拘束力はないという区別
  • 内閣府のガイドラインが2026年1月に名称ごと改定され、地震以外の災害を扱う第2部が加わったこと
  • 100人×3日分で床面積約3㎡という保管の一次情報と、入れ替え・処分の出口の決め方
目次

備蓄の量は、従業員数に9をかけて出す

企業の防災備蓄とは、災害で交通が止まったときに従業員を施設内にとどめておくために、あらかじめ職場に置いておく3日分の水・食料・生活物資のことである。これが東京都帰宅困難者対策実施計画と内閣府ガイドラインに共通する考え方です。

数量の目安は、驚くほどシンプルにまとまっています。水は1人1日3リットル、3日で9リットル。主食は1人1日3食、3日で9食。毛布は1人1枚。日数をかけ算する必要すらなく、人数に9をかければ水と主食の総量が出ます。

3日分の備蓄量を出す3つの式
水(L)= 従業員数 × 9
主食(食)= 従業員数 × 9
毛布(枚)= 従業員数 × 1
外部の来訪者分を見込む場合 = 上記 × 1.10(10%上乗せ)

つまり、社内で最初に確定させるべき数字は「何人分を積むか」の1つだけということ。品目ごとに別々の計算をする必要はありません。人数さえ決まれば、あとは電卓を1回叩けば終わります。

従業員数 水(9L/人) 外部10%込みの水 主食(9食/人) 外部10%込みの主食 毛布
10人 90L 99L 90食 99食 10枚
30人 270L 297L 270食 297食 30枚
50人 450L 495L 450食 495食 50枚
100人 900L 990L 900食 990食 100枚
300人 2,700L 2,970L 2,700食 2,970食 300枚
従業員数から出す3日分の備蓄量の対応表。10人で水90L・主食90食・毛布10枚、30人で水270L・主食270食・毛布30枚、50人で水450L・主食450食・毛布50枚、100人で水900L・主食900食・毛布100枚

数字が大きくなると実感が薄れるので、体積に置き換えてみます。100人分の水900リットルは、2リットルのペットボトルで450本。1ケース6本入りなら75ケースです。300人の会社なら2,700リットル、2リットル換算で1,350本。「水は9L」と聞くと軽く感じますが、全社分になると倉庫の一角がまるごと埋まる量になります。

主食のほうは、1食が1パッケージであることが多いぶん、数え方が素直です。100人の会社なら900食。アルファ米やクラッカーを1人1日3食×3日で配り切る前提の数字なので、「1日1食でしのぐ」という運用にすれば単純に3分の1で済みます。ただしそれは目安を下回る選択なので、社内でその判断を記録に残しておくほうが後々の説明はラクでしょう。

ここで積むのは会社が全従業員に配る分です。個人がデスクの引き出しに自分用として置いておく分は、また別の話。両者の境界の引き方は会社に置く防災グッズ|デスクの引き出しに入る最小構成で整理しています。会社の備蓄は「配給」、個人の備えは「常備薬やメガネのような代えのきかないもの」と分けて考えると、どちらも過不足が出にくくなります。

その9Lは、条例ではなく実施計画に書かれている

東京都帰宅困難者対策条例とは、平成24年3月30日に公布され平成25年4月1日に施行された条例第17号で、災害時の一斉帰宅の抑制を事業者の努力義務として定めた東京都のルールである。備蓄について定めているのは第7条の2項です。

事業者は、前項に規定する従業者の施設内での待機を維持するために、知事が別に定めるところにより、従業者の三日分の飲料水、食糧その他災害時における必要な物資を備蓄するよう努めなければならない。

読んでいただくとわかるとおり、「三日分」は条例本文に漢数字で明記されています。ここは重要で、「3日分は条例ではなく規則やガイドラインの話」という説明は正確ではありません。条例に書いてあるのです。

一方で、条文のどこにも「3リットル」「9リットル」「1枚」は登場しません。あるのは「知事が別に定めるところにより」という委任の言葉だけ。では、その「別に定めるところ」とは何なのか。答えは条例のQ&Aが自分で書いています。

Q:第7条2項の「知事が別に定める~」とは何を指すのでしょうか。A:第2条で定めている「東京都帰宅困難者対策実施計画」を指します。平成24年11月に策定しました。

そして同じQ&Aには、備蓄量の目安について「3日分の備蓄量は目安であり、法的拘束力を持つものではありません」という記載もあります。出典は東京都帰宅困難者対策ハンドブック(令和5年3月発行)のP.46〜47。都の担当部署が編集・発行している資料が、自ら「目安」と言い切っているわけです。

「10%上乗せ」も条文ではありません。
来訪者向けの1割上乗せは、東京都帰宅困難者対策ハンドブック本文の「外部の帰宅困難者(来社中の顧客・取引先や発災時に建物内にいなかった帰宅困難者など)のために、10%程度の量を余分に備蓄」という記載と、巻末の自己点検チェックリストに出てきます。内閣府ガイドラインにも「外部の帰宅困難者(来客者等)のために、例えば、10%程度の量を余分に備蓄する」と同趣旨の記載あり。つまり条例の努力義務そのものではなく、推奨事項という位置づけです(2026年8月21日確認時点)。

ここまでを整理すると、数字には3つの層があることになります。条例本文にある「三日分」。条例が委任した実施計画にある「9L・9食・1枚」。そして、条例にも実施計画の数量表にもなく推奨として書かれている「10%」。この3層を混ぜずに説明できると、稟議の場で「どこまでが決まりごとで、どこからが自社の判断か」の線が引けます。

国のガイドラインは2026年1月に名称ごと変わっている

全国向けの根拠は、内閣府(防災担当)のガイドラインです。ここに、意外と知られていない変化があります。

従来の名称は「大規模地震の発生に伴う帰宅困難者等対策のガイドライン」。平成27年3月に策定され、令和6年7月に一部改正されました。そのあと令和8年(2026年)1月に、名称ごと改定されています。現行の名称は「災害発生時における大規模な帰宅困難者等の発生への対策に関するガイドライン」。地震以外の災害にも対応するため、第1部を大規模地震、第2部をそれ以外の災害とする構成に組み替えられました。

名前が変わったということは、想定している場面が広がったということ。地震だけを念頭に置いた社内規程を持っている会社は、風水害で交通が止まった場合の扱いを追記する余地があります。この記事の執筆時点でも、令和6年7月版の旧称を「最新」として紹介したままの解説ページは少なくありません。

項目 東京都 全国(内閣府)
根拠文書 東京都帰宅困難者対策条例 第7条2項(法的な努力義務) 災害発生時における大規模な帰宅困難者等の発生への対策に関するガイドライン(法的拘束力のない指針)
数量目安の出どころ 東京都帰宅困難者対策実施計画(条例が「知事が別に定める」と委任) ガイドライン本体「参考資料2」
数量目安 水9L・主食9食・毛布1枚 水9L・主食9食・毛布1枚(同一)
10%上乗せ ハンドブックに推奨記載あり(条例本体には無し) ガイドライン本体に推奨記載あり
対象 東京都内の事業者 全国の企業等
企業備蓄の数量がどこから来ているかの対応表。東京都の条例は第7条2項に三日分と明記、実施計画が水9L・主食9食・毛布1枚、内閣府の指針は令和8年1月に名称ごと改定、10%の上乗せは条文ではなく推奨事項

備蓄を義務づける法律は、探しても見つからない

「企業の防災備蓄は義務です」という書き出しをよく見かけます。ただ、事業者に備蓄を義務づける法律そのものは存在しません。消防法にも労働安全衛生法にも、「事業者は防災用品・食料を備蓄しなければならない」という直接の規定は置かれていないのです。

語られることがあるのは、労働契約法第5条や労働安全衛生法第3条が定める安全配慮義務との関係。これは従業員の生命・身体の安全に配慮する一般的な義務であって、備蓄の品目や数量を具体的に定めるものではありません。東京都内であれば条例上の努力義務が乗りますが、それも「努めなければならない」という文言で、罰則はついていません。

そなえぐらし管理人

「義務じゃないなら要らない」ではなく、「義務ではないからこそ、自社で決めた根拠を書き残す」。そう考えたほうが、担当者が代わったときに引き継げるものになります。

東京都以外に同じ条例はない。ただし「無い」にも3種類ある

ここでいう「無い」とは、条例そのものが存在しないという意味ではなく、東京都条例第7条2項に相当する「従業者の三日分を備蓄するよう努める」という具体的な条文が無いという意味である。この違いを分けて見ると、自社の事業所がどの立場にいるかが見えてきます。

自治体 根拠文書 種類 策定・施行 3日分の備蓄条文
東京都 東京都帰宅困難者対策条例(条例第17号) 条例 公布 平成24年3月30日/施行 平成25年4月1日 第7条2項に「三日分」と明記
神奈川県 神奈川県地震災害対策推進条例 条例(地震災害対策全般) 施行 平成25年4月1日 東京都第7条相当の規定は確認できず
大阪府 事業所における「一斉帰宅の抑制」対策ガイドライン ガイドライン 平成27年3月策定/平成30年9月改訂 条例ではない
愛知県 愛知県帰宅困難者対策実施要領 実施要領(行政指針) 平成27年3月27日策定 条例ではない

3種類というのは、こういうことです。1つ目は東京都のように条例に具体的な条文があるタイプ。2つ目は神奈川県のように条例はあるが、日数や数量を指定する条文までは無いタイプ。3つ目は大阪府・愛知県のように条例ではなくガイドラインや要領で示しているタイプです。3つ目は行政指針なので、努力義務の根拠としての性格は条例より弱くなります。

神奈川県について。今回の調査では県の公式ページ本文までは確認できましたが、条例全文(例規集)そのものには到達できていません。ページ本文で確認した範囲では、食料・飲料水等の備蓄に触れた努力義務規定はあるものの、日数・数量の指定は見当たらない、というところまでです。神奈川県内に事業所がある場合は、県の例規集で条例本文を直接確認することをおすすめします(2026年8月21日確認時点)。

実務としては、東京都内に本社や主要拠点がある会社なら条例を根拠に説明できます。それ以外の地域なら、内閣府ガイドラインを根拠にする形。数量目安は都も国も同じ9L・9食・1枚なので、積む量は変わらず、説明に使う文書名だけが変わると考えておけば十分です。

なぜ3日なのか——救助と鉄道の再開が根拠になっている

3日分の「3日」とは、行政機関が救命救助を優先する期間と、鉄道の運行停止が見込まれる期間が重なる区間のことである。内閣府ガイドラインは、その前提を数字で書いています。

金曜の夕方、電車が全部止まったオフィスに50人が残る場面を思い浮かべてみてください。窓の外は駅に向かう人の列。改札は閉まったまま。この状態が何日続くのかがわからないと、社内に残るという判断も下せません。ガイドラインは、まさにその「何日」を示しています。

大都市圏においてマグニチュード7クラス以上の地震が平日昼12時に発生し…当該大都市圏内の鉄道・地下鉄は少なくとも3日間は運行の停止が見込まれて

加えて、行政側の動きについてもこう書かれています。「行政機関等は、発災後3日目まで救命救助活動、消火活動等を中心に対応し、発災4日目以降に帰宅困難者等の帰宅支援の体制へ移行」。つまり、3日目までは公助のリソースが救助に向いているから、その間は職場にとどまってほしい、という組み立てなのです。

ただし、ガイドラインは同時に釘も刺しています。「発災後72時間(3日間)は特に人命救助に重要な期間であるが、救助活動に時間的区切りはない」。72時間で救助が打ち切られるわけではない、という注記です。3日という区切りはあくまで計画上の目安であって、自然界の法則ではありません。

「840万人」「453万人」「515万人」は、それぞれ別の数字

帰宅困難者の規模を示す数字は複数流通しています。混ざりやすいので、どの調査のいつの数字なのかを添えて並べます。

人数 何の数字か 推計の主体・時点
約840万人(うち要配慮者 約250万人) 首都直下地震で1都4県に発生する帰宅困難者の最大数 中央防災会議 首都直下地震対策検討ワーキンググループ報告書(令和7年12月19日公表)
約453万人(うち行き場のない人 約66万人) 東京都内で発生する帰宅困難者数 東京都「首都直下地震等による東京の被害想定」(令和4年5月公表)
約515万人 東日本大震災の際に首都圏で実際に発生した帰宅困難者数 内閣府推計(平成23年3月11日の発災について)

3つ目の515万人だけが「実際に起きた数」で、あとの2つは「起きたらこうなるという推計」。しかも840万人は1都4県、453万人は東京都内と、範囲も違います。社内資料に引くときは範囲と時点をセットで書いておかないと、あとで別の数字と突き合わせたときに説明できなくなります。

66万人という数字は少し性格が異なっていて、職場や学校といった身を寄せる場のない買い物客等を指しています。企業が10%の上乗せを検討する意味は、ここにあります。自社の従業員ではない誰かが、たまたま建物の中にいる。その人たちに配る余地を持っておくか、という話です。

従業員が「今日は帰らない」と決めたあと、次に必要になるのは家族への連絡手段でしょう。ここは会社の備蓄では埋められない部分なので、家族の安否確認方法の決め方|災害用伝言ダイヤル171と伝言板・SNSの使い分けを社内周知の材料として渡しておくと、待機の合意が取りやすくなります。従業員が自分で職場に用意しておく備え全般については帰宅困難者の備え|会社から歩いて帰る前に確かめる3つと、職場に置く3日分の中身のほうに委ねます。この記事はあくまで、会社が全従業員分をどう積むかの話に絞ります。

施設内待機は「避難所に行く」こととは別です。オフィスにとどまるのは建物が安全な場合の選択で、建物が使えないときは自治体の一時滞在施設や避難所へ移動することになります。持って出るものの考え方は避難所に持っていくものリストが参考になります。

何を積むか——品目は都と国でほぼ同じ

備蓄品目とは、東京都帰宅困難者対策実施計画と内閣府ガイドライン「参考資料2」が例示している、水・主食から救急医療薬品類までの物資群のことである。両者を並べると、例示されている品目はほぼ同一です。

  • 水(ペットボトル飲料水)
  • 主食(アルファ化米、クラッカー、乾パン、カップ麺)
  • 毛布・保温シート
  • 簡易トイレ・衛生用品
  • 敷物
  • 携帯ラジオ
  • 懐中電灯
  • 乾電池
  • 救急医療薬品類

水・主食・毛布の3つだけが「1人あたり何L・何食・何枚」という数量つきで、それ以外は「品目ごとに必要量を算定」とされています。裏を返すと、簡易トイレや乾電池の数量は、公的な目安が示されていないということ。ここは各社が自分で決めるしかない領域です。

主食:湯がなくても配れるものを軸にする

オフィスの備蓄で真っ先に詰まるのが熱源です。停電すればポットも電子レンジも動きません。ここで効いてくるのが、湯でも水でも戻せるタイプのアルファ米。尾西食品のアルファ米は、公式の製品規格ページで白飯・わかめごはん・五目ごはん・ドライカレーなど12種類以上のラインナップが示されており、アルファ米・おかゆ・携帯おにぎりのいずれも5年保存と明記されています(2026年8月21日確認時点)。

水で戻せるという一点が、オフィスでは大きい。カセットコンロの本数を人数分そろえなくても配れますし、袋のまま食べられるので食器も要りません。100人分900食を配る場面を想像すると、「お湯を沸かす工程がない」ことの価値がわかります。

ひとつ正直に書いておきます。通販でよく見る「12種類セット」という商品名は、尾西食品公式サイトの製品規格ページ上では確認できませんでした。通販サイト側の呼称である可能性があります。公式で確認できるのは、12種類以上の味がラインナップされていることと、各製品が5年保存であることまでです(2026年8月21日確認時点)。

水:2リットルが「3㎡」の計算の前提になっている

水は品目のなかでいちばん重く、いちばん場所を取ります。だからこそ、容量の選び方が保管計画を左右します。アイリスオーヤマの長期保存水(2L×6本)は、系列のアイリスフーズ公式サイトで製造日より5年6ヶ月と確認できました(2026年8月21日確認時点)。5年ではなく5年6ヶ月なので、入れ替え計画に半年の余裕が生まれます。

2リットルという容量には、もうひとつ意味があります。このあと出てくる東京都の「100人×3日分で床面積約3㎡」という試算は、2リットルペットボトルで積み上げた場合の数字です。つまり2Lで揃えておくと、公表されている面積の目安をそのまま自社に当てはめられる。計算の前提が揃うわけです。

500mLタイプの保存年数については、メーカー公式ページにアクセスできず確認できていません(HTTP 403で読めなかったため)。読めなかったことは「存在しない」ことの証明にはならないので、500mLで揃えたい場合はメーカー公式で保存年数を確認してください。

補助食:水も湯も要らないものを引き出しに

アルファ米は主食として優秀ですが、水を使います。水を1滴も使わずに食べられるものが少しあると、配給の設計に幅が出ます。大塚製薬のカロリーメイト ロングライフは、公式サイトに賞味期限3年と明記されている長期保存タイプ(2026年8月21日確認時点)。調理も加水も不要なので、備蓄倉庫ではなく各フロアのデスクや会議室のキャビネットに分散して置けます。

注意したいのは周期のほう。3年は、5年のアルファ米や5年6ヶ月の保存水より更新が速いという意味です。同じ日にまとめて買うと、3年後に補助食だけが期限を迎え、その2年後に主食と水が来る。品目ごとに入れ替えの年が違うことを最初から台帳に書いておかないと、担当者が代わったときに漏れます。

頭を守る道具:品目例示にはないが、待機の前提になる

ここでひとつ、正直な前置きを。ヘルメットは東京都・内閣府の備蓄品目例示には登場しません。品目例示は「施設内で3日間過ごすための物資」に寄っているためです。ただ、施設内待機という判断そのものが「建物の中が安全である」ことを前提にしている以上、落下物から頭を守る道具は待機の入口を支える装備だと言えます。

折りたたみ式で人数分を置くという発想なら、トーヨーセーフティの防災用折りたたみヘルメット BLOOM No.100が条件を満たします。公式製品ページによると、厚生労働省の保護帽規格「飛来・落下物用(タイプA)」の国家検定合格品。重量は約430g、帽体はPP+PE樹脂で中央カバーはABS樹脂、対応頭囲は52〜61cm、収納時の寸法は345×195×80mmです(2026年8月21日確認時点)。

収納時8cm厚というのは、A4のファイルボックスに近い感覚。ロッカーの棚板1段や、書庫の空いた1列に人数分を並べられます。なお社名は公式表記が「トーヨーセーフティ」で、販売サイトで見かける「トーヨーセフティー」は表記ゆれです。社内文書に書くなら公式表記のほうを使ってください。

毛布:1人1枚を、人数から逆算して買う

水と主食は「9」でしたが、毛布だけは1人1枚。都と国に共通する目安です。人数がそのまま枚数になるので、10枚・50枚といった単位で買える形のほうが実務に合います。災害備蓄用不織布毛布「もしもうふ」は10枚入りのカートンで、販売ページ表示(2026年8月21日確認時点)では140×200cm・アルミ真空パックとされています。真空パックは、東京都の面積試算が前提にしている状態そのものです。

10枚単位という区切りは、地味にありがたいところです。従業員50人なら5カートン、100人なら10カートン。人数が増減したときも、カートン数を足し引きするだけで済みます。

「もしもうふ」については、メーカー公式の仕様ページを確認できていません。ここに書けるのは販売ページ表示(2026年8月21日確認時点)の範囲までです。保管年数や素材の詳細を稟議書に載せる場合は、購入前にメーカーまたは販売元へ直接確認してください。


まとめてケースで買うときは、1食あたりで見るのか、セット全体の内訳で見るのかで判断が変わります。その見方は非常食セット7日分の比較|1食あたりで見る選び方と落とし穴に整理してあるので、発注前の1回だけ目を通しておくと単価の比較がしやすくなります。

もうひとつ、夏の話を。空調が止まった建物に3日とどまるのは、冬とはまったく別の難しさがあります。保温のための毛布は用意されていても、熱を逃がす手立てを備蓄品リストに入れている会社は多くありません。真夏の停電に備える|空調が止まったときに最初にすることで扱っている考え方は、そのままオフィスにも当てはまります。

置き場所は3㎡から考える

備蓄スペースとは、水・食料・毛布を高さ1メートルに積み上げたときに床が埋まる面積のことである。東京都の条例Q&Aは、この面積をピンポイントの数字で示しています。

100人×3日分の水(2リットルペットボトル)・食料(乾パン)・毛布(真空パックしたもの)を高さ1mに積み上げた場合、床面積は約3㎡程度

3㎡は、畳2枚分弱。会議室の隅、給湯室の脇、階段下の物入れ。100人規模の会社でも、そのくらいの場所が1つ空いていれば置ける、という話です。「備蓄は倉庫がないと無理」と思われがちですが、公表されている試算はもっと現実的な広さを示しています。

この数字を出発点にして、人数で按分してみます。

従業員数 床面積の目安(按分値) だいたいの広さ
10人 約0.3㎡ 段ボール2〜3箱ぶんの足元
30人 約0.9㎡ 畳半分ほど
50人 約1.5㎡ 畳1枚ぶん弱
100人 約3㎡ 畳2枚分弱(東京都の一次情報)
300人 約9㎡ 6畳間ほど

この表で東京都の資料に基づく一次情報は「100人=約3㎡」の1行だけです。他の行は、その1点を人数比で機械的に割ったり掛けたりした参考値。実際には梱包形態や棚の使い方で変わります。稟議に添えるなら「都の試算(100人・高さ1m積みで約3㎡)を人数按分した社内試算」と注記しておくのが誠実でしょう。

もうひとつ、高さの前提にも目を向けてください。約3㎡は「高さ1メートルに積み上げた場合」の数字です。棚を使って2段にすれば、床面積は理屈のうえで半分。逆に、床置きで腰の高さまでしか積まない運用なら、必要な面積は広がります。面積の話は、必ず高さとセットで決めるということです。

そして分散配置。全部を1か所にまとめると、その部屋のドアが歪んで開かないだけで全滅します。フロアごとに水と主食を分けて置き、毛布だけ倉庫にまとめる、といった配り方のほうが災害時には強い。ただし分散すると期限管理が難しくなるので、置き場所と数量の一覧を1枚の台帳にしておくことが前提になります。

入れ替えは「捨てる」以外の出口を先に決める

入れ替えとは、賞味期限が切れる前に中身を出し、同じ数量を補充する作業のことである。買うときより難しいのは、実はこの出口のほうです。

難しさの正体は、期限がそろわないことにあります。この記事で触れた製品でいえば、アルファ米は5年保存、保存水は製造日より5年6ヶ月、補助食のカロリーメイト ロングライフは賞味期限3年。同じ日に発注しても、期限が来る年はバラバラです。しかも保存水の5年6ヶ月は「製造日から」なので、納品日からではありません。

だから台帳に書くべき列は、品名と数量だけでは足りません。

  • 品名・メーカー・数量
  • 置き場所(フロア・部屋・棚の段まで)
  • 賞味期限または保存期限(製造日起算か納品日起算かも書く)
  • 入れ替え予定年月(期限の3〜6か月前に設定しておく)
  • 入れ替え時の出し先(誰に配るか、どこへ持ち込むか)

最後の1行がいちばん抜けます。期限が近づいてから慌てて考えると、結局まとめて廃棄――という結末になりがちです。

出し先の選択肢は、社内と社外の2方向

社内に出す方法はいくつかあります。防災訓練の日に全員へ配って実際に食べてもらう。避難訓練の後の説明会で試食に使う。フロアの共有スペースに置いて自由に持ち帰ってもらう。どれも「備蓄品の味と開け方を全員が一度体験する」という副次的な効果があるので、廃棄を減らす以上の意味があります。

社外に出す方法としては、フードバンクへの寄贈があります。セカンドハーベスト・ジャパンは、法人・団体向けに防災食品の寄贈を受け付ける窓口を公式サイトに設けています。

受入の条件については、賞味期限が一定期間残っていることを条件とする運用がある、というところまでにとどめます。今回の調査では受入基準の正確な文言まで確認できませんでした。具体的な残存期間や対象品目、送付方法は団体ごとに異なるため、寄贈を検討する際は各団体の公式ページで最新の条件を直接確認してください。期限が切れてからでは受け付けてもらえないという点だけは共通していると考えて、入れ替え予定は期限の数か月前に置いておくのが安全です。

家庭でいうローリングストックを、会社の規模でやろうとすると管理コストが跳ね上がります。全量を回すのではなく、補助食のように期限の短いものだけを回して、水と主食は5年ごとの一括入れ替えにする。そんな二層構造にしている会社もあります。家庭側の回し方の全体像は家庭の備蓄品リスト完全版|人数×日数の早見表つきにまとめてあるので、社内向けの説明資料をつくるときの下敷きに使えます。

この計算が当てはまらない会社

当てはまらない会社とは、「従業員数×9」という掛け算の前提が成り立たない会社のことである。ここまで書いてきた式は万能ではないので、外れるパターンを正直に挙げておきます。

1. 東京都以外に本社がある会社

条例を根拠にできません。とはいえ数量目安は内閣府ガイドラインでも同じ9L・9食・1枚なので、積む量は変わらず、稟議書に書く根拠文書の名前が変わるだけです。大阪府ならガイドライン、愛知県なら実施要領という具合に、自治体側にも文書がある場合はそちらを併記しておくと地域性のある説明になります。

2. 在宅勤務が中心の会社

ここは掛け算の分母そのものが揺らぎます。従業員数100人でも、平日の日中にオフィスにいるのが常時30人なら、100人分を積む意味は薄い。ただし「たまたま全員が出社している日」もあるはずで、月次の全体会議や期初の集合研修がその典型でしょう。分母は在籍者数ではなく、想定される最大在館人数で置くのが実務的です。

3. 来客が極端に多い施設

10%の上乗せは、あくまで「来社中の顧客・取引先」を念頭に置いた推奨値です。商業施設、ショールーム、大規模なセミナールームを持つ拠点では、在館者に占める外部の人の割合が1割どころではありません。この場合は10%という数字を機械的に当てるのではなく、平日昼の平均来館者数から別に積算するほうが実態に合います。

4. 従業員の家族分をどうするか

結論から言うと、オフィス備蓄の対象は基本的に従業員本人分です。東京都の実施計画も内閣府ガイドラインも、数量の単位は「1人当たり」で、従業員の家族分を含める前提にはなっていません。家族分を会社が持つかどうかは企業の任意判断です。

それでも家族分に手を伸ばすなら、備蓄そのものより先に「家族と連絡がつく状態をつくる」ほうが費用対効果は高くなります。安否確認の手段を決めておくことは、従業員が施設内待機を受け入れる条件でもあるからです。

そなえぐらし管理人

「全員分・全部そろえる」を最初から目指すと、たいてい着手が止まります。まず水と主食だけを想定最大在館人数ぶん。毛布とその他は次年度――くらいの刻み方でも、去年より確実に前へ進みます。

よくある質問

よくある質問とは、稟議や社内説明の場で実際に返ってきやすい問いのことである。一次情報で答えられるものと、答えが示されていないものを分けて書きます。

Q. 備蓄をしないと罰則はありますか。

ありません。東京都帰宅困難者対策条例第7条2項の文言は「備蓄するよう努めなければならない」という努力義務で、罰則規定は設けられていません。また、事業者に備蓄を義務づける法律(消防法・労働安全衛生法など)にも直接の規定はありません。条例のQ&A自身が「3日分の備蓄量は目安であり、法的拘束力を持つものではありません」と書いています(2026年8月21日確認時点)。

Q. 3日分ではなく、もっと多く備蓄すべきという話も聞きます。

内閣府ガイドラインには「備蓄量の目安は3日分とするが、3日分以上の備蓄についても検討する」という記載があります。3日分が上限ではなく下限側の目安、という位置づけです。増やす場合は保管面積と入れ替えコストが比例して増えるので、面積の按分試算(100人=約3㎡が起点)と合わせて検討するのが現実的でしょう。

Q. 派遣社員やアルバイトの分も数えるのですか。

条例の文言は「従業者」で、雇用形態による区別は条文上ありません。実務としては、その日その建物にいる人数=在館人数で積むほうが計算が破綻しにくくなります。在宅勤務がある会社なら、在籍者数ではなく想定される最大在館人数を分母に置く考え方と同じです。

Q. 東京都以外の事業所は、9リットルの計算をしなくてよいのですか。

条例の努力義務は東京都内の事業者にかかるものですが、数量目安そのものは内閣府ガイドライン「参考資料2」にも同じ水9L・主食9食・毛布1枚として示されています。全国どこの事業所でも、計算式は共通です。変わるのは根拠として示す文書名だけ、と考えてください。

Q. 簡易トイレは1人あたり何回分を用意すればよいですか。

東京都の実施計画にも内閣府ガイドラインにも、簡易トイレの数量目安は示されていません。数量つきで書かれているのは水・主食・毛布の3つだけで、それ以外は「品目ごとに必要量を算定」とされています。つまり公的な目安が存在しない領域なので、自社で回数を仮置きし、その根拠を社内文書に残す形になります。「何回分が正解」と断言している情報を見かけたら、その出どころを確認するのが安全です。

Q. ヘルメットや救急用品は備蓄品目に入っていますか。

品目例示に「救急医療薬品類」は入っていますが、ヘルメットは東京都・内閣府いずれの例示にも登場しません。例示が「施設内で3日間過ごすための物資」に寄っているためです。施設内待機は建物の安全が前提なので、頭部保護具を別枠の安全対策として位置づけている会社が多く見られます。

会社の分を決めたら、次は自宅です。人数と日数から必要量を出す手順は家庭の備蓄品リスト完全版|人数×日数の早見表つきにまとめてあります。計算の考え方は会社と同じで、変わるのは人数だけです。

今日やることは、想定最大在館人数を1つ決めることだけ

まとめとは、明日から動くために必要な最小の手順のことである。企業の防災備蓄は品目が多く、全部を一度に決めようとすると止まります。最初の一手は1つで足ります。

今日やること:自社の「想定される最大在館人数」を1つの数字に決める。 在籍者数でも、平均出社人数でもなく、その建物に最も人が集まる日の人数です。この1つが決まれば、水も主食も毛布も、9をかけるか1をかけるかで自動的に出ます。

  1. 人数を決める想定される最大在館人数を出し、来客の多い拠点なら別枠で来館者数を積む。この数字を社内で合意しておくと、以降の議論が数量ではなく調達の話になります。
  2. 量と面積を出す人数×9L・9食・1枚を計算し、外部分の10%上乗せを載せるかを判断。あわせて「100人=高さ1m積みで約3㎡」を按分して、置き場所の候補を先に押さえます。
  3. 出口まで書いてから発注する品名・数量・置き場所・期限・入れ替え予定年月・出し先の6項目を台帳にしてから購入する。期限の3〜6か月前に入れ替え予定を置いておけば、廃棄以外の選択肢が残ります。

そして忘れずに書き残したいのが、根拠の3層です。「三日分」は条例本文にあり、「9L・9食・1枚」は条例が委任した実施計画にあり、「10%」は条例でも実施計画の数量表でもなくハンドブックと内閣府ガイドラインの推奨事項である。この区別を1行添えておくと、監査でも引き継ぎでも、その資料は説明力を持ち続けます。

参考・出典

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この記事を書いた人

登山が趣味の会社員。山で非常食を食べてきた経験から「食べ慣れないものは災害時つらい」と実感し、家庭の備蓄を見直し中です。実際に買って食べたものだけ「おすすめ」と書きます。失敗も隠しません。

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